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3Dプリンターは住宅危機を解決できるか:従来の工法は遅く、費用が高く、非効率的。機械の方が良くできるかも

 先日のブログで3Dプリンターによる住宅建築はまだまだ進んでおらず、高層ビルが建てられないので、住宅難の解決は難しいと書いたばかりです。米国にニューヨーカーと言う有名な雑誌がありますが、3Dプリンターによる住宅建設が取り上げられていましたので、解説したいと思います。ネットの記事は、読むのにかかる時間が書いてあるものがありますが、これは38分と言う長編です。

 2017年、テキサス州の州都のオースチンにアイコンと言う3Dプリンター工法の会社ができました。その共同創立者の一人のバラード氏は、若い時に神父さんになることを考えたほど、熱心なクリスチャンです。私の息子同様、ホームレスシェルターで働いていたのですが、ホームレスの救済や住宅難の解決を望んで、この会社を始めました。

 バラード氏は、3Dプリンター以外にもいろいろな工法を検討したそうです。セメントを製造するときに出る二酸化炭素は、全体の8%を占めますが、木材やプラスチックよりは環境に良いと判断したそうです。木材は、熱を逃すので省エネには向いていません。腐るし、燃えるし、シロアリにも食べられてしまいます。それに比べてコンクリートは何百年も持ち、ローマのドームなど、2千年前に建てられたものもまだ残っています。

 私は、彼の会社については数年前から知っていましたが、実際に建てた住宅戸数が非常に少なかったので、ニュースにはなっても、現実になるのはまだまだ先の話だろうと思っていました。2022年までに実際に建てた家は10戸ほどにすぎず、そのほとんどは実験でした。

 最初に建てた3Dプリンターの家は、2018年に建築家の友人、ローガン氏を誘ってやった実験でした。建てたのは350平方フィート(33平米)ほどの家で、壁自体は1日で完成し、費用は$4,000ほどでした。もちろん壁以外のものを完成させるためには、もっと時間と費用が掛かったのですが、誤解を招くような「$4,000の家が1日で完成」と言うニュースが広まり、一躍有名になったのです。

 最初の大きな仕事は、2019年のオースチン郊外のホームレス用住居でした。安く早くできると言うメリットを生かして、非常に小さな家を多数建てたのです。これは小屋のようなものなので、先述した10戸の中には数えられていないようです。

 このようなプロジェクトは他にもありましたが、バラード氏は、こんなことばかりやっていたのでは埒が明かないと考えています。根本的な解決方法は、住宅価格を下げて、貧困層がホームレスにならないようにすることだと言うのが彼の意見です。

 当初、従業員10人ほどの会社でしたが、今は400人以上。時価総額は何と$20億。最近、米国で2番目のホームメーカーであるレナー社と、オースチン郊外に100戸の住宅を建てる契約をしました。これが初めての本格的なテストケースと言うことになります。電気はすべて太陽光で賄い、お値段は、安いもので$40万台半ば。中流階級が買える値段です。

 オースチンは1年で家賃が45%も上がったと言うほどの好景気の町です。IT関係の仕事が多く、南部のシリコンバレーと言えるでしょう。高所得者は高くても住めますが、一般人にとっては困ったものです。そのオースチンで早く安く住宅を建てることができれば、住宅難の緩和やホームレス問題の解決につながると言うわけです。

3Dプリンター工法とは

 3Dプリンターで作れるのは基本的に壁だけです。米国で最もよく使われる乾式壁自体はそれほど高いものではありませんが、壁を作るのは時間がかかり、住宅建築の最も高くつく部分の一つです。また、乾式壁はあまり丈夫ではありませんが、3Dプリンターで作る壁は基本的にセメントですので、頑丈です。悪天候やオペレーターのミスがない限り、壁は1日で完成します。

 歯磨き粉のようにセメントが積み上げられていくのですが、乾くのを待っている暇はありませんので、特別な材料ですぐに乾くようになっています。気温や湿度によっても乾き方が異なりますので、15分おきにそれらを測定して、混ぜる材料を調節するのです。

 バラード氏は、今まで3Dプリンター工法がパッとしなかった理由は、壁がまっすぐである必要がないと言うこの工法の特色を生かすことができていないからだ、と考えました。今回オースチンで建てる100戸の住宅は、曲線を多く取り入れる予定です。

 ローガン氏は、機械的な直線の組み合わせではなく、自由に曲がりくねり、「歯磨き粉」の出方が一定ではない3Dプリンター住居を、「わびとさび」の世界と呼んでいます。この日本語の意味を本当に理解しているのかどうかは、ちょっと疑問ですが…。

 試験的に建てた2,000平方フィート(186平米)の高級住宅は、従来の工法より10%ほど安くできただけでした。これは、スケール・メリットによって改善されますが、他にも改善の余地があります。3D工法は、曲がった壁など、従来の工法より安くできるものもありますが、その逆もまたしかりです。

 例えば、床から天井まである大きな窓は安くできますが、逆に従来の普通の窓は高くつきます。窓が床から天井まである場合は、そこに壁を作らなければいいだけですが、普通の窓は四角い穴の開いた壁を作らなければなりません。この工法のメリットを生かせば、もっと安くできるはずです。

 可能性は天にも届きます。アイコンは、NASAと$5,700万の契約をして、月面基地の建築工法を開発中です。建材を月までロケットで運ぶのは大変ですので、月の埃を使って建てようと言うものですが、水がないので「歯磨き粉」ができません。レーザーで埃を溶かして、粘土状にするのだそうです。NASAのジェニファー・エドモンソン氏は、月の埃の専門家で、月面基地は自分の世代に必ずできると確信しているそうです。バラード氏は、宇宙飛行士になりたくて応募したそうですが、残念ながら今回は不合格。

 家全体を3Dプリンターで建てる計画もあるそうです。アイコンと直接関係はありませんが、ドバイは、2030年までに住宅の25%を3Dプリンターで建てると公約しているほど、現実味を帯びてきました。

 高層ビルはできませんが、これをハワイに持ってくるのは、モジュラーハウスより簡単です。モジュラーは、空間が多いので輸送費が高く、それを避けるためには、地元に工場を作らなければなりません。3D工法は、プリンターを持ってくればいいだけです。誰か、持ってきてくれないかな。月よりはハワイの方が近いと思いますけど、どうでしょう。

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3Dプリンターは住宅危機を解決できるか
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