2022年第3四半期のオアフ島オフィス市場のレポートで、いくつかのオフィスが居住系やホテルにコンバートされて、オフィスの供給が減り、空室率も改善したと言うブログを書きました。しかし、全国的にみると、オフィスのコンバージョンはほとんど進んでいないようです。
パンデミックでオフィスの空室が増え、ニューヨークやサンフランシスコなど、住宅価格や家賃の高い大都市から人が出て行きました。これは、必ずしも悪いことだとは思わない人もいました。ニューヨークは、住宅が約40万戸不足していると言われ、1年で家賃が40%も上昇しました。これ以上住宅を建てて人口が増えたら、地下鉄などのインフラがついていけないと言うジレンマがあったのです。東京の地下鉄を見学すれば、大丈夫だと思うかもしれませんが…。
コロナで地下鉄の乗客はパンデミック前の60%まで下がり、80%にまで回復するのに2026年までかかると言う見通しです。沿線に建築許可を出しても、問題ありません。空きオフィスを居住系にコンバートすることも可能だと思われました。長い目で見ると、決して悪いことではないかもしれません。
ところが、CBREが2022年11月に出した報告によると、22年に全米でコンバートされたオフィスは42棟、21年は43棟で、19年のパンデミック前とほぼ同じだそうです。オフィス空室率20%以上の都市は、アトランタ、シカゴ、コロンバス、ダラス、デンバー、ヒューストン、ロサンジェルス、サンフランシスコ、ミネアポリスなどで、ニューヨークも全商業地区(ブルックリン、ダウンタウン、ミッドタウン、ミッドタウン・サウス)がそうです。
空室率は2010年の不況の時とほぼ同じですが、今は、これから不況になると言われていますので、さらに悪化するかもしれません。しかも、リース期間の長いオフィスの空室率は、遅行指標です。解約したくでもできなくて留まっているテナントは多いと思いますので、リースが切れるにつれて、更新しない、あるいは縮小するテナントがこれからも続出するでしょう。
空室率ではなく、以前職場に来ていた従業員の何%が今、職場に来ているかを測ることもできます。セキュリティー・システムを使えば、ビル内に実際にいる人の数を数えることができるのです。共和党基盤であるヒューストン、オースチン、ダラスなどの南部の都市は、50%を下回ったことはなく、オースチンは、2022年10月、63%でした。民主党の基盤であるシカゴやサンフランシスコなどは、それを大きく下回っています。これは、両党のコロナに対する態度を物語っています。
現在、米国オフィス大市場トップ10の平均は53%です。つまり、既存のリースが切れていくにつれ、オフィス稼働率はこの53%に近づいてくると言うことです。コロンビア・ビジネス・スクールの論文によると、ニューヨークのオフィス物件は、空室率の増加で既に価値が44%も下落したそうですが、これからもっと下がるかもしれません。
居住系の家賃がこれだけ上がり、オフィスがこれだけ下がったのであれば、コンバートするオフィスが増えたのではないかと思うかもしれません。しかし、2016年以降にコンバートされたものと、2025年までにコンバートする予定のものをすべて合わせても、米国のオフィス市場の2%にすぎません。この数には、居住系だけでなく、ホテルや医療研究所なども含まれています。
進まない一つの理由は、大きすぎる建物が多いと言うことです。居住系は、ユニットが2列に並んでおり、あまり幅の広いビルはありません。ユニットは、2列のユニットの間にある通路に沿って長いものが多く、それだけ窓が多くなります。幅が広い、つまり真四角に近い建物ほど、一つのユニットの窓の数が減り、採光できる範囲が狭くなります。
また、オフィスビルは、空調など、すべてが集中管理されています。居住系にして各ユニットの使用量を測るためには、配管や配線を変えなければなりません。この点、第二次大戦前に建てられたビルは好都合ですが、シカゴやフィラデルフィアなどのそれらのビルの多くは、既にコンバートされています。
もう一つは建築規制です。商業用地に住宅を建てることはできません。変更するのは大変で、地方自治体は、固定資産税率の高い商業用地を好みます。
さらに厄介なのが建築基準法です。例えば、寝室には必ず窓がなければなりませんので、寝室は必ず外壁に沿ってなければなりません。外の景色が見えないリビングと言うのは変ですので、LDKも窓際にあるのが普通です。となると、屋内通路側にあるものはバスルームくらいしかありません。この規則は納得できなくはありませんが、どうでもよいと思われる内容の基準も山とあります。
コンバートするとなると、少しずつすることは困難です。残ったわずかなテナントに早く出て行ってもらうためには、リースを買い上げなければなりません。つまり、お金を払って出て行ってもらわなければならないのです。
これらの難関を乗り越えてコンバートできる物件は、そう多くはありません。コラチャラム氏のデンバーを題材にした研究によると、208あるオフィスビルの中で、居住系にコンバートできそうなビルは4棟しかありませんでした。
問題はさらに続きます。コンバージョンの費用は、新築とそう変わらないほど高いのです。しかも、居住系の家賃はオフィスほど高くありません。高いお金をかけて収入が低いものにコンバートすることになります。
例えば、サンフランシスコのジュール(電子タバコの会社)が2019年に$3.97億で買った築40年のビルを、最近$1.5億で売りに出しました。サンフランシスコの空室率は25%を超え、ここまで値段が下がっても、平方フィート当たり$400(平米当たり$4,300)です。さらに$400のお金をかけてコンバートしたとすると、1,000平方フィート(93平米)の住居が$80万になります。これでは、いくら家賃の高いサンフランシスコとは言え、採算が合いません。
ミシガン州の3人の議員が、オフィスから居住系にコンバートする際、税額控除をする連邦法案を提出しました。バルティモアやダラスで既に試みたもので、ほとんど効果はなかったそうですが、それを全国的にやろうとするものです。
ニューヨークでは、パンデミックで稼働率の減ったホテルを居住系にコンバートするため、$2億の予算を組みましたが、結果はゼロ。導入が断片的であったことと、政治的に力の強い労働組合に対して、それを基盤とする民主党が強く出ることができなかったことがその理由のようです。まごついているうちにホテルの稼働率がほぼ元に戻ってしまいました。
結局、オフィス経営が破綻しない限り、居住系へのコンバージョンは想像以上に難しいと言うことのようです。
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