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「かぼちゃの馬車」の真相:騙されないために

 2018年4月、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していた㈱スマートデイズが経営破綻した。敷金礼金は不要、家財道具や家電も揃っていて、地方から都会に出てきた若い女性にとって、体一つで簡単に入居できるシェアハウスは大きな魅力。当時シェアハウスブームで、「かぼちゃの馬車」はそんな若い女性のニーズに応える物件として注目された。

 投資家にとっても、この投資は一見、魅力的だった。審査を経れば銀行からのオーバーローン(例えば、1億円の物件を購入するのに1億円以上融資してくれる)やフルローンも可能で、元手ゼロでも投資が可能。しかも30年のサブリース契約で、家賃収入が保証されている。「元手ゼロ円でも、空室率100%でも儲かる。」これが謳い文句だった。

 サブリース契約とはサブリース会社が物件をオーナーから一括して借り受け、賃貸経営をオーナーに代わって行うもの。不動産経営に不慣れなオーナーにとって、客付けから賃料回収、管理や修繕まで一手に引き受けてくれるサブリース契約は非常に楽だ。

 ただし、すべてを一括でリース会社に委託するので、運営が不透明になりがちだ。また、家賃を勝手に変えた場合は解約されてしまうなど、オーナーの自由が制限される場合があることや、サブリース会社が倒産した場合など、オーナーだけでなく入居者にも不利益が生じることがあって、問題視されているものでもある。

 ちなみに、米国にはこんなものはない。利益相反になることが目に見えているからだ。管理会社はできるだけ運営費を減らして利益を増やそうとするのだ。

 いずれにしても、上手い話には必ず裏があるもの。シェアハウスが人気だとは言え、「かぼちゃの馬車」は共有スペースも狭く、ほぼ寝るだけのスペースしかない。それでいて家賃が6万円、7万円と割高だった。

 この高い家賃はバカ高い建設費が影響していた。実は、スマートデイズは施工業者とつるんでいて、建設費のなんと半分をキックバックさせ、それをサブリースの家賃補填に充てていたのだ。つまりビジネスモデル自体が自転車操業。こんな無理なモデルがそもそも長続きするはずがない。

 ところが実際にはこの「かぼちゃの馬車」に投資する人がたくさんいた。それは当時、スルガ銀行が積極的に融資をしたからだ。

 スマートデイズとスルガ銀行は一緒になってセミナーを開き、これからの資産運用には不動産投資が最適だということをしきりに強調した。しかも流行りのシェアハウスが狙い目で、スルガ銀行がフルローンで融資をするので元手がなくても不動産投資が可能。さらに仮に入居者がいなくても、30年間のサブリース契約で家賃が保証されることなどを喧伝して、どんどん契約を取っていた。

 しかし、肝心の物件は狭く不便な割に家賃が高いので、入居者がなかなか増えなかった。しかも入居した女性たちもあまりに不便なので退去する人が続出した。たちまち資金繰りが行き詰り、その結果スマートデイズは経営破綻に追い込まれたのだ。

 物件は都内中心に約900棟、オーナーは700人に達し、それぞれ1棟当たり数千万円から1億円の割高な値段で物件を購入していた。スマートデイズの倒産によって、これらの投資家の多くが、ローン返済ができない状況に陥った。

 調べが進む中で、スルガ銀行の融資に関して、オーナーの返済能力など審査書類の改ざんが明るみに出て、大問題となった。「かぼちゃの馬車」の破綻は、不動産会社、施工業者、銀行の3者が絡んだ、悪質かつ広範囲な影響を及ぼす大事件だった。

 彼らの詐欺まがいの強引な手法は非難されて当然だ。しかし、すこし金融や不動産の知識があれば、あまりにそれが無理のある投資モデルであることに気づくこともできたはずだ。

 たとえば不動産に関して多少の知識と情報があれば、「かぼちゃの馬車」の家賃設定が相場よりもかなり高いということもわかっただろう。付近の同じようなシェアハウスを調べ、相場感をつかんでいれば、それが割高であることに気づけたはずだ。

 客付けに関しても大手不動産サイトでは広告を掲載していなかった。掲載基準を満たしていないからで、自社サイトでの掲載だった。これも同じようなシェアハウスと比較していれば違いは明瞭だ。客付けが怪しいということも判断できただろう。

 もっとも重要なポイントとして、債務回収比率がある。これは勉強しないと、ちょっと調べたくらいでは分からないことだ。収益に対するローン返済額の割合で、この数字が賃貸経営を判断する重要な指標になる。

 年間の営業純利益を負債支払額で割ったもので、通常、銀行はそれが1.5以上であることを要件とする。1であれば、ローンの支払いをしたら後は何も残らないと言うことで、それでは余裕がない。高いほど余裕がある。逆数を返済比率と呼ぶこともある。つまり、負債支払額÷営業純利益だ。その場合は低い方が良い。「かぼちゃの馬車」では債務回収比率が1.2以下で、継続的に経営することは難しかった。

 ちなみに、一般的なローン担当者に債務回収比率はいくらですかと聞いても、知らない人が多い。担当者に聞いても分からない場合は、希望しているローンを出してもらうためには年間の営業純利益がいくらでなければならないか、あるいは逆に、○○円の営業純利益があればいくらのローンを借りることができ、その支払い額はいくらになるかを聞けばよい。

 以上のような基本的な不動産投資、賃貸経営に関する知識があれば、「この話はおかしい」と勘づくことはできたはず。債務回収比率も、言葉は専門用語だが、概念自体はそう難しいものではないのだ。

 銀行が積極的に押している話だから大丈夫だろうとか、シェアハウスが今人気だから投資しておかねばというようなブームに流されてはいけない。誰が何を勧めようと、自分でしっかりと情報をつかみ、自分の頭で判断しなければいけない。「かぼちゃの馬車」事件はそんな教訓を投げかけているのだ。

 しかし、その判断力が自分にはない、自信がないと言う人もいるだろう。そういう人は、利害関係のない人からセカンド・オピニオンを聞くことだ。例えば、他の銀行に行って、その銀行でも同じようなローンを出してくれるかを聞いてみればよい。弊社も、そのような相談を受けることは多い。くれぐれもご注意のほどを。

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かぼちゃの馬車の真相:騙されないために
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