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ハワイのハリケーン保険料高騰:ローンが出なくなる?

 私たち家族が1990年に日本からオアフ島に引っ越して間もなく、ハリケーン・イニキがカウアイ島を襲い、23億ドルの被害がありました。あれからもう31年、ハリケーンによる大きな被害はほとんどありません。ホノルルがあるオアフ島に関する限り、最も接近したハリケーンは2020年のダグラスで約50キロ、次は1959年まで遡ってドットの約100キロで、上陸はしていません。にもかかわらず、ハワイのハリケーン保険料は急騰しています。

 保険会社は、国際的な再保険に入っており、大災害があると、再保険会社が保険会社の損失を補填してくれます。ハワイにハリケーンが来なくても、温暖化による世界中の災害の増加によって、再保険料が上がり、保険会社がそれを消費者に転嫁しているのです。

 通常、ハワイのコンドは、物件の建て替え費用を100%カバーするマスター・ハリケーン保険に入っています。しかし、保険料の高騰により、多くの組合は、100%補償しなくなりました。ハリケーンで鉄筋コンクリートの建物が全壊すると言う可能性はあまり考えられませんので、これは妥当だと思われる方も多いでしょう。

金融機関はそうは思わない

 しかし、そう思わない人がいます。それは、住宅ローンを出す金融機関です。彼らにとって、建物は担保ですので、通常、100%の補償がなければローンを出してくれません。

 今のところ、特にメインランドの金融機関は、100%の補償がないと言うことを知らないでローンを出しているようです。地元に融資担当者がいても、引受業務はメインランドでしていることが多いので、まだ気が付いていないと言うことらしいです。ハワイ・モーゲージ・グループの融資担当ジェイ・ミラーさんは、メインランドの金融機関がいつまでローンを出し続けてくれるかは分からない、と述べています。

 ハワイの金融機関からローンをもらう場合は、難しくなりつつあり、通常より金利が高くなることもあります。頭金を増やす、あるいは信用度のスコアが高くなければ貸さないなどの対処を考えている機関もあるようです。

 そもそも、米国の住宅ローン市場には、ファニーメイやフレディマックなどが、金融機関からローンを買い上げ、証券化すると言うシステムがあります。これによって、金融機関は、住宅ローンが完済されるまでローンを持ち続ける必要がなく、ローンを売って得たお金をまたすぐに貸して、手数料で儲けるのです。ファニーメイやフレディマックに買ってもらうローンは、100%の補償がないコンドには出せないはずなのです。

 ハワイ住宅ローン銀行協会(HMBA)立法委員長リンダ・ナカムラ氏によると、ハワイの金融機関は、約1年前から、補償が100%に満たないコンドがあることに気づき始めたそうです。半年前、それがますます目立ち始めたので、会員や州当局者に警鐘を鳴らし始めました。ナカムラ氏によると、彼女が調べた限り、他の州ではこのような問題は起きていないそうです。

政治家その他の意見

 ハワイのコンドミニアム法にも、100%補償しなければならないと言う規定がありますが、「建築申告書や内規に別段の定めがない限り」と言う前置きがあります。そのため、法律的には必ずしも100%の補償をしなくてもよいと言うことになります。州保険長官のゴードン・イトウ氏は、この州法の改正や、1億8,970万ドルの積立金を持つハワイハリケーン救済基金を、この問題解決のために充てることを検討しています。

 グリーン知事も、火山の噴火や山火事などの自然災害で保険会社がハワイを撤退する可能性を危惧し、キャプティブ保険を検討しています。グリーン氏は一昨年、当選後のインタビューでもこの件に言及し、環境保全のために観光客に課すことが提案されている「グリーンフィー」をそれに充てる可能性を示唆しました。これはゴルフとは関係なくて、環境保護を意味していますが、知事の名前もグリーンなので、ぴったしですね。

 キャプティブ保険とは、大規模な民間企業が自社で保険子会社を設立するものです。多くの場合、企業がニーズに合った手頃な保険に入ることができないので作るのです。グリーン氏の提案では、州が同様のことを行うことになります。

 大学教授は、リベラル派が多く、このようなことに政府が救済の手を伸べることに賛同する傾向がありますが、ハワイ大学の経済学者ポール・ブルーベイカー氏は懐疑的です。キャプティブ保険は、一般的に民間向けのモデルであり、政府の役割はこの種の保険子会社の存在を認める法的環境を整えることだけだ、と同氏は述べています。

 ホノルル・プロパティ・ファインズの主任ブローカーであるジョナサン・フォード氏は、特に問題はないと述べています。一部の購入者は、不足を補うギャップ補償として追加のハリケーン保険を購入しているとも指摘しています。彼は不動産業者ですので、顧客の購買心を削ぐような発言はしないでしょう。

ローンが出なくなったら?

 金融機関がこれに気付いてローンを出さなくなったらどうなるでしょうか。これは不動産市場に連鎖的な影響を与えるでしょう。販売が難しくなり、需要が下がり、住宅価値は下落するでしょう。しかし、安くなった住宅を買える人は、高額な保険金を支払う余裕のある人だけということになりかねません。

 配管が古いなど、繰り延べメンテが理由で保険に入れない建物も増えてきました。そのようなコンドは、州法に束縛されない二次市場の保険会社から、べらぼうに高い保険を購入しなくてはなりません。

 あるワイキキの高層コンドは、配管の取替工事を繰り延べしたため、$235,000の損害保険とハリケーン保険の更新を拒否されました。その結果、二次市場で$120万ドル払って保険に入らざるを得なかったのです。保険のために100万ドルも余分に払うのなら、そのお金を配管工事に使ったほうがよかったのでは…?

 2021年にマイアミにあるサーフサイドのコンドミニアムが倒壊したことも、コンドミニアムの融資に波及しています。今年、ファニーメイとフレディマックは、あの災害をきっかけに作られたコンドミニアム融資の規則を恒久化しました。古い配管の交換など、大規模な修繕を延期したコンドのローン購入を禁止したのです。

 新しい規則では、1戸当たり総額1万ドルを超える修繕資金が不足しているコンドにローンを出すことは、禁止されています。1万ドルを超えているかどうか、どうしてわかるかと思うかもしれません。米国では、コンドの修繕金調査が義務化されており、ハワイの場合、向こう20年間の修繕金の半分が常に積み立てられていなければなりません。この調査をもとに、繰延メンテの額を特定できるのです。

 また、個々のユニット内の物品を補償するHO6と呼ばれる保険も、繰延メンテの多いコンドでは出にくくなっています。ある保険会社では、配管が15年以下でないと出さないそうです。

 実は、私が住むコンドでも、去年、水漏れの被害がありました。上階のユニットのバスルームで改装工事をした際、水漏れが発生したのです。これは、配管が古かったことが原因ではなく、業者の責任ですが、保険会社は、マウイ島の火事の補償で忙しく、修復工事に取り掛かるまで3カ月もかかりました。

 私は、もっと早く対処するよう求めましたが、保険会社は一向に気にしていない様子でした。こんなにサービスが悪いのなら、保険会社を変えようかとも考えたのですが、今、保険は売り手市場なのです。このような事故が2回以上あると、保険の更新をしてくれないと言うのが普通になっています。こちらから頭を下げて、保険に入らせてもらう時代が来たと言うことでしょうか。

温暖化

 去年の12月8日の時点で、米国では、被害総額$10億以上の気象気候災害事象が25件ありました。インフレ調整をしても、これは過去5年間の平均の18件を大きく上回っています。2023年8月8日に発生したマウイ島の火事も、ハリケーン・ドーラによる強風がそのきっかけになりました。

 ハワイ諸島は、貿易風の関係で、どの島も西部は乾燥しています。ハワイで映画ロケが多い一つの理由は、いろいろな気候の地域があるためで、西部には砂漠のような所もあります。今まで、ハワイが山火事多発地域とみなされたことはありませんが、近い将来そうなると予想されており、保険料はさらに上がるでしょう。

 ハリケーンに関しても、これから頻繁に来るようになる可能性がないとは言えません。2023年10月25日にメキシコのアカプルコを直撃したハリケーン・オーティスは、$45億の被害をもたらし、50人の方が亡くなりました。たった12時間で熱帯低気圧から最大級のハリケーンに発達したのですが、アカプルコも、ハワイ同様、ハリケーン多発地域ではなく、気候変動が原因ではないかと言われています。

 ブリューベイカー教授は、保険会社が州から撤退する可能性が高いことには同意しています。しかし、環境が適切に整い、リスク程度が明確になれば、最終的にはどこかの時点で戻ってくるだろうと述べています。同氏は、リスクを低減し、保険会社がハワイに再び「参入して繁栄する」ようにすることによって、保険会社不在の期間を可能な限り縮めるのが政府の仕事だと言うのです。

 補償が100%に満たないのは古いコンドだけではありません。カカアコの築浅の高級コンドにも、そのような物件があります。購入時には、必ずお確かめください。

ハワイのハリケーン保険料高騰:ローンが出なくなる?
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