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家が売れないので値段を上げる

 ハワイ州の経済開発とアフォーダブル住宅、つまり手頃な価格の住宅の供給を担う公的機関の会合で、ある開発業者が当局に問題を報告しました。

 ジェントリー・ホームズ社は、オアフ島西部のカラエロアで390戸の住宅開発を進めています。これは、一戸建て住宅とタウンハウスを組み合わせたプロジェクトです。州の規則では、開発面積の少なくとも20%をアフォーダブル住宅に割り当てる必要があり、これらの住宅はより低価格で提供され、一定の収入以下の買い手のみが購入可能となっています。

 しかし、ジェントリー・ホームズ社のアンドリュー・カミカワ氏によると、カウル・バイ・ジェントリーのアフォーダブル住宅は、市場価格の住宅に比べて販売ペースが半分程度であり、これがプロジェクト全体の進行を遅らせているとのことです。

 その理由として、市場価格の住宅とアフォーダブル住宅の価格差が小さすぎることが挙げられました。具体的には、市場価格の3LDKのタウンハウスは約75万ドルで販売されているのに対し、より小さな3LDKのアフォーダブル住宅は約68万5000ドルです。

 カミカワ氏によると、購入者はアフォーダブル住宅よりも市場価格の住宅を選んでいます。その理由は、アフォーダブル住宅には居住義務があり、5年間売却できないという制限があるためです。マイホームに一生住むという日本と違い、アメリカ人は6~7回買い替えるのは普通ですので、5年は住まなければならないと言うことになると、ちょっと抵抗があるのでしょう。

 カミカワ氏は、解決策として、今後の開発フェーズでは市場価格の住宅の価格を引き上げることを提案しました。この調整によって、アフォーダブル住宅がより安く見えるという訳です。しかし、彼は「価格を引き上げるにも限界があり、最終的には購入者の手が届かなくなってしまう」とも述べています。

 この問題は、ハワイ州のアフォーダブル住宅事情の特殊な構造を示しています。アフォーダブル住宅と指定されていても、多くの人々にとって様々な制約で購入が難しく、開発業者は採算が取れないと主張しています。

 カラエロア地域の開発を管轄するハワイ・コミュニティ開発庁(HCDA)は、ジェントリー社に対し、ホノルルの所得中央値の140%以下の収入の人向けにアフォーダブル住宅を確保するよう義務付けています。この所得中央値の140%とは、個人の場合約118,000ドル、4人家族の場合約168,000ドルに相当します。ですので、アフォーダブルと言っても、決して低所得者向けのものではなく、中流階級向けです。

 また、購入希望者は年間所得の135%を超える資産を持つことができません。過去3年間に住宅を所有していた人も除外されます。

 アフォーダブル住宅は、市場価格の住宅より安価に設定され、その価格はジェントリー社が決定し、HCDAによって承認されます。これらの住宅の頭金はわずか1,500ドルで、一般的に住宅ローンを組む際に要求される10%や20%の頭金と比べると大幅に低くなっています。

 しかし、頭金が少ない購入者は毎月のローン返済額が高くなり、近年の金利上昇によって、その負担はさらに大きくなっています。そのため、手頃な価格の住宅を購入するには、財政的に微妙な位置にいる必要があるのです。つまり、所得が高すぎると購入資格が得られず、逆に低すぎると銀行のローン審査を通らないのです。

 ジェントリー社が手掛けるカウル・バイ・ジェントリーのアフォーダブル住宅は、大幅な値引きがされているわけではありません。住宅当局に提供された価格表によると、次の建設フェーズにおける3LDKのアフォーダブル住宅は、鑑定値70万ドルより1万5千ドル安い価格で販売される予定です。2LDKの住宅は鑑定値62万ドルより1万ドル安い61万ドルで販売されます。

 また、物件リストを調査した結果、アフォーダブル住宅の平方フィート単価は、同じベッドルーム数の市場価格の住宅よりも高くなることが判明しました。具体的には、アフォーダブルの3LDK(1,080平方フィート)の住宅は平方フィートあたり$634ですが、市場価格の3LDK(1,194平方フィート)の住宅は$627となっています。アフォーダブル住宅の方が狭いので、平方フィート当たりの建設コストが高くなるのです。

州がインフラを整備し、開発業者を誘致

 HCDAは、1976年にホノルルの工業地区であるカカアコの再開発のために設立されました。現在、カカアコはおしゃれな街へと変貌し、私もよく買い物に行くホールフーズ、クライミングジム、トリビアナイトを開催するパブなどが立ち並ぶ人気のエリアとなっています。

 その後、HCDAはオアフ島内の他の地域にも管轄を拡大し、カラエロアもその一つに含まれています。カラエロアは1942年から1999年まで海軍航空基地として利用されていましたが、軍の基地再編・閉鎖プログラムの一環として、州や市に徐々に移管されてきました。HCDAは現在、この地域を活気あるコミュニティへと変貌させる役割を担っています。

 この機関は、開発業者が通常の大規模プロジェクトで負担しなければならない道路などのインフラ整備を州が引き受けることで、業者の誘致を図っています。その代わりに、開発業者は手頃な価格の住宅を提供する義務を負うことになります。

 さらに、HCDAはこれらのアフォーダブル住宅に対し一定の権益を持っています。最初の購入者が将来的に住宅を売却する際、当初の評価額と販売価格の差額をHCDAに支払う必要があります。カウル・バイ・ジェントリーの場合、ユニットの種類や建設フェーズによって異なりますが、最初の購入者が売却する際、州に1万ドルから3万5千ドル支払うことになります。 

販売の低迷により建設が遅延

 今月、カミカワ氏はHCDAの理事会に出席し、次の開発フェーズで提供されるアフォーダブル住宅の販売価格の承認を求めました。計画の概要をまとめた書類によると、HCDAの企画・開発ディレクターであるライアン・タム氏は、住宅価格が州の定めた上限を大幅に下回る水準になると記載しています。

 州の規則では、2LDKの住宅は、州が定める所得制限内の購入者に対し、最大71万ドルまで設定可能とされています。間取りによって異なりますが、3LDKの場合は最大74万2千ドルまで設定可能です。

市場価格の住宅を値上げすることでアフォーダブル住宅を魅力的にするという論理に疑問の声

 市場価格の住宅を値上げすることでアフォーダブル住宅をより魅力的にするという方針に疑問を呈する人もいます。HCDAの理事会メンバーであるメアリー・アリス・エヴァンス氏、ティム・ストライツ氏、そしてHCDAのエグゼクティブ・ディレクターであるクレイグ・ナカモト氏等です。

 エヴァンス氏は「アフォーダブル住宅の価格帯をもっと低く設定できない理由はありますか?」と、会議で質問しました。これに対し、カミカワ氏は、ジェントリー社はすでにアフォーダブル住宅で損失を出していると説明しました。

 タム氏が理事会向けに作成した資料によると、最初の2つの開発フェーズで提供された25戸のアフォーダブル住宅のうち、これまでに11戸が販売済みまたは契約済みです。

 カミカワ氏は、販売の進行が遅いことがプロジェクトの残りの建設を遅らせていると指摘しました。当初、開発は2026年までに完了する予定でしたが、現在は1年から2年の遅れが見込まれています。彼は「在庫が残っている状況では、継続して建設を進めるための財務的な余裕がない」と、述べています。

 カウルの問題の一つは、カカアコのように中心部に位置していないことです。ラッシュアワー時にはダウンタウンから車で約1時間かかります。HCDAの理事であるトレイ・ゴードナー氏は、「今、住民は、カラエロアよりもカカアコで暮らすために、はるかに高い金額を払うことをいとわない」と述べています。

 しかし、州が定めるアフォーダブル住宅基準は、両地域で同じとなっているため、手頃な価格の住宅の価格も似たような水準になります。「このようなケースでは、制度の仕組みが少し不自然になってしまう」とゴードナー氏は語っています。

ホノルル市、購入者向けの債務制限を撤廃

 カウルだけでなく、他の開発プロジェクトでもアフォーダブル住宅が空き状態になっています。2023年秋、販売開始から1年以上経過したにもかかわらず、高層コンド、スカイ・アラモアナとザ・パーク・オン・ケアモクのアフォーダブル住宅は、わずか約13%しか売れていませんでした。

 開発業者によると、その理由は、購入者が収入の過剰な割合を住宅費に充てるのを防ぐために市が設けた規制にあるとのことです。この規則では、住宅費(住宅ローンの支払い、住宅ローン保険、住宅保険、税金)が収入の33%を超えてはならないと定められていました。

 住宅ローン保険とは、日本の団体信用生命保険とは少し異なり、住宅ローンを組む際に、借り手が通常20%以上の頭金を支払えない場合に必要となる保険です。これは、貸し手(銀行や金融機関)を保護するために設定されており、万が一、借り手がローンの支払いを滞納した場合に保険会社がその損失を補償する仕組みです。

 このルールは善意で作られたものですが、開発業者によれば、結果的に対象となる購入希望者が非常に限られてしまうという問題を引き起こしました。そこで、市は2025年初頭にこのルールを見直し、現在では債務対所得比率(DTI)の制限がなくなりました。

 しかし、それでもアフォーダブル住宅の販売は低迷しています。スカイ・アラモアナのアフォーダブル住宅は約30%しか販売されていません。金利の高さや、住宅所有者が最大30年間物件に居住しなければならないという市が定めた制約が原因だと思われます。ハワイはもともと規制が多すぎて住宅難になったのですが、それを規制で正そうとすると、いろいろな無理があるようです。

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家が売れないので値段を上げる
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