私は、5年前から、ファンドマネージャーに勧められて、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫、FNMA)の動向を追い続け、その株式に投資してきました。リーマンショックの嵐の中で失われたかに見えたこの巨大な組織が、いつか再建され、株式市場に再登場することを信じていたからです。
そして、先日、ドナルド・トランプ大統領の口から飛び出した「ファニーメイ公開」の宣言は、長年の私の願いが現実のものになる可能性を示唆するものでした。希望と失望の狭間で揺れ動いたファニーメイの歴史と、今後の展望についてお話ししたいと思います。
リーマンショックが引き起こした「事実上の国有化」と、私の投資の始まり
ファニーメイは、アメリカの住宅ローン市場を支える巨大な政府支援企業(GSE)です。住宅ローン債権を買い取り、証券化して投資家に販売することで、金融機関が新たな住宅ローンを供給できる仕組みを支えています。
しかし、2008年、世界経済を揺るがしたリーマンショックの引き金となったサブプライムローン問題は、ファニーメイとフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社、FMCC)という二つのGSEを直撃しました。当時、住宅市場の加熱によってリスクの高い住宅ローンが大量に組成され、それらを買い取っていたファニーメイとフレディマックは、住宅価格の暴落とともに巨額の損失を抱えることになります。
この危機を受け、オバマ政権はファニーメイとフレディマックを「事実上の国有化」することを決定しました。これは、両社を政府の管理下に置き、納税者の資金を投入することで、住宅ローン市場のさらなる混乱を防ぐための緊急措置でした。この時、既存の株式はほとんど価値を失い、株主は大きな損失を被りました。
しかし、私はファニーメイという組織の必要性、そしてアメリカ経済におけるその役割の重要性を確信していました。いつか、この企業は再建され、再び市場に戻ってくるはずだ、と。私のファニーメイ株への投資は、株価が1ドル以下の「ペニーストック」と呼ばれていた時に始まりました。失われたかに見えたこの企業の復活を信じ、少しずつ、しかし着実に買い増しを続けてきたのです。
厳しい監理下での再生と「網羅的利益」の行方
政府の管理下に入ったファニーメイは、納税者保護の観点から非常に厳しい条件が課せられました。その一つが、「網羅的利益(Comprehensive Income)」の全額を米国財務省に支払うという合意です。これは、ファニーメイがいくら利益を上げても、その全てを政府に納めなければならないというものです。一般の株式会社であれば、株主への配当や企業成長のための再投資に回される利益が、全て政府に吸い上げられる形になっていたのです。
この「網羅的利益」の支払いは、ファニーメイの財務体質を改善する一方で、株主にとっては非常に厳しいものでした。なぜなら、企業が利益を上げても株主には何も還元されないため、株式の価値が上がりにくかったからです。しかし、私はこの厳しい状況下でも、ファニーメイが健全化への道を歩んでいることを感じていました。
私の投資とファニーメイ株の急騰
私は以前から、ファニーメイの株式が将来的に市場に公開されるという見方を強く持っていました。そして、近年の政治的な動きは、私の信念をさらに強くするものでした。
昨年11月の大統領選
昨年11月(2024年11月)の大統領選前日、$1.30台でさらなる買い増しを行いました。トランプ氏が再選した場合、ファニーメイの再編が加速する可能性を考えていたからです。結果として、この判断は正解でした。
今年1月のバイデン政権による規制緩和
一次的に3倍近く急騰した株価が2ドル台に落ち着いた12月、私はさらに買い足しました。年が明けて今年1月(2025年1月)には、当時のバイデン政権下で、ファニーメイとフレディマックに対する規制緩和措置が発表されました。これにより、両社が保有できる資本の基準が引き上げられるなど、経営の自由度が増すことが期待されました。
このニュースを受けて、ファニーメイの株価は3倍近く急騰し、市場は強く反応しました。政府からの介入が緩和される方向にあることが示唆されたためです。
今年5月のトランプ大統領による公開宣言
その後、4月にまた追加購入しました。私のIRA(個人年金口座)に年$8,000まで投資できるのですが、6ドル台でマックス買い足したのです。
そして5月21日、ファンドマネージャーから電話がありました。トランプ大統領が「ファニーメイ公開」を宣言したと言うのです。これは、長年のファニーメイ再編論議に終止符を打つ可能性を秘めた、非常に大きなニュースでした。この宣言を受けて、ファニーメイの株価はさらに倍近く上昇し、私の長年の投資に対する強い確信が、具体的な数字となって現れた瞬間でした。投資し始めたころから見ると、20倍近い上昇です。
米国政府が保有する「ワラント」の行方と株価への影響
ファニーメイの株式公開において、非常に重要な要素となるのが、米国政府が現在保有している「ワラント(Warrant)」の存在です。ワラントは、日本語では新株予約権と訳されます。これは、将来、特定の価格(行使価格)で株式を買い取れる権利のことです。リーマンショック時に政府がファニーメイを救済した際、政府は納税者の保護を目的として、ファニーメイの株式を非常に低い行使価格で取得できる大量のワラントを受け取っていました。これは、将来ファニーメイが回復し、株価が上昇した場合に、政府がその恩恵を受け、納税者が負担した救済資金を回収できるようにするための仕組みでした。
もしファニーメイが公開され、株価が上昇した場合、政府はこのワラントを行使して株式を取得し、それを市場で売却することで、納税者が負担した救済資金を回収することができます。しかし、このワラントの存在は、既存の株主にとっては潜在的な「希薄化」のリスクとなります。政府がワラントを行使して大量の株式を市場に放出すれば、一時的に市場に出回る株式の量が増え、供給過多となり、株価が下落する可能性があるからです。
一方で、政府がこれらのワラントを「失う」、つまり行使する権利を放棄する可能性も指摘されています。これは、ファニーメイが政府の管理下から完全に離脱し、自立した企業として再出発する際に、政府がワラントを行使する権利を放棄するか、あるいは特定の条件下で無効化されるというシナリオです。
もし政府がワラントを失うことになれば、既存の株主にとっては極めてポジティブなニュースとなります。将来的な株式の希薄化リスクがなくなるため、株価には強い上昇圧力がかかるでしょう。今回のトランプ大統領の発言が、政府がワラントを放棄する可能性を示唆していると解釈され、株価が急騰した要因の一つとも考えられます。
トランプ大統領がワラント放棄を示唆する根拠
トランプ大統領がワラントの放棄を示唆すると考えられる根拠はいくつかあります。
- 「全ての投資家のため」という発言の意図: トランプ大統領は、ファニーメイの株式公開について、「全ての投資家のためになる」と繰り返し発言しています。もし政府がワラントを行使すれば、既存の株主の持ち分が希薄化し、株価が下がる可能性があるため、これは既存株主の利益に反する可能性があります。ワラントを放棄することで、全ての(既存の)投資家の利益を最大化するというメッセージと解釈できます。
- 市場原理主義的な経済政策: トランプ政権は、規制緩和や市場への政府介入の最小化を志向する傾向が強いです。ファニーメイのワラントは、政府が市場に介入し、企業の株式に影響を与える手段とみなすことができます。これを放棄することで、市場の自由な力を重視するという彼の経済哲学と整合性がとれます。
- 大統領選の公約と支持者へのアピール: ファニーメイの再編問題は、長年にわたり多くの株主が政府の対応に不満を抱いてきた経緯があります。特に、リーマンショック後に救済された金融機関の株式が回復し、株主が利益を得る中で、ファニーメイの株主は「網羅的利益」の全額徴収により報われてこなかったという不満が根強くありました。ワラント放棄は、こうした既存株主や投資家層からの支持を得るための強力な公約となり得ます。過去にも、トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」の原則に基づき、既存の枠組みにとらわれない大胆な政策決定を行ってきました。
- ファニーメイの財政健全化: ファニーメイは政府の管理下で利益を上げ続け、多額の利益を政府に納めてきました。これにより、ファニーメイの財務状況は大幅に改善しています。政府がワラントを行使して資金を回収する必要性が薄れてきているという背景も、ワラント放棄の議論を後押しする可能性があります。
もちろん、ワラントの最終的な扱いは、今後の法整備や政府の具体的な方針発表を待つ必要があります。しかし、トランプ大統領の発言と彼の政治・経済思想を総合的に考えると、ワラント放棄の可能性は十分に考えられるシナリオであり、それが現在の株価に強いポジティブな影響を与えていると言えるでしょう。
今後の展望
トランプ大統領の宣言により、ファニーメイの今後の動向はこれまで以上に注目されます。しかし、実際にファニーメイが市場に公開されるまでには、まだいくつかのハードルがあります。
まず、具体的な公開方法や条件が詳細に決定される必要があります。既存株主の権利がどのように扱われるのか、新たな株式が発行されるのか、その価格はいくらになるのかなど、様々な点が不透明です。また、住宅ローン市場の動向や金利政策など、外部環境もファニーメイの将来に影響を与える要素となります。
しかし、私はファニーメイの将来に対して非常に楽観的です。なぜなら、アメリカの住宅市場は常に安定した需要があり、ファニーメイのような政府支援企業の存在は、今後も不可欠であると考えるからです。政府の管理下から解放され、通常の企業として成長戦略を描けるようになれば、ファニーメイはさらにその価値を高めるでしょう。今後もファニーメイの動向を注意深く見守りながら、私の投資がどのような結末を迎えるのか、非常に楽しみにしています。
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