Youtubeで不動産コラムをながら聴き

ハワイ州、コンド保険市場の危機対策法案可決

 ハワイで、コンド(分譲マンション)の所有者が加入する建物の保険料が記録的な水準まで高騰しており、多くのコンド管理組合が深刻な問題に直面しています。今日は、この保険市場の危機的状況とその背景、そして最近ハワイ州議会で成立した、市場を安定させるための新たな法律について解説します。日本人のコンド所有者や不動産投資家にとっても無縁ではない、気候変動リスクと保険市場の現実を知る上で非常に参考になる内容です。

コンド保険料の異常な高騰

 過去数年間でコンド管理組合が支払う保険料が急騰しており、中には10倍近くになったと言う例もあります。それだけではありません。建物が全壊しても保険会社が100%補償してくれないので、規制されていない保険会社以外の会社から二次的な補償をしてもらわなければならないことが増えています。

 そのため、以前は年間数万ドルだった保険料が、今では数十万ドル、場合によっては100万ドルを超えるケースも出てきています。これに伴い、保険が適用される前に管理組合が自己負担する免責額(自己負担額)も大幅に引き上げられており、以前は数万ドルだったものが、数十万ドルになることも珍しくありません。

 この保険料は管理組合の共益費の一部として、最終的には各コンド所有者の共益費に上乗せされます。そのため、多くのコンド所有者は月々の負担増や、突然の特別徴収金(一時金)の支払いを求められる事態に直面しています。コンドを所有し続けること自体が経済的に困難になる人も出てきているのです。

 また、高騰した保険料は物件の運営費を押し上げるため、中古コンドの売買取引にも影響が出始めています。担保価値が補償されないため、購入の際に住宅ローンが出なくなるばかりか、ローン残高の一括返済を求められる可能性さえあります。

なぜこのような事態が起きているのか?

 保険料高騰の背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。

  1. 気候変動リスクの増大: 近年、世界中で異常気象が常態化しており、ハワイも例外ではありません。特に、2023年に発生したマウイ島の山火事は壊滅的な被害をもたらし、保険業界に巨額の損失を与えました。ハリケーン、津波、洪水、海面上昇といったリスクに加え、山火事のような新たな脅威も現実のものとなっています。保険会社は、こうした気候変動による自然災害のリスクを、以前よりもはるかに高く見積もるようになっています。
  2. 再保険市場の高騰: 保険会社自身も、巨大な災害リスクに備えるために「再保険」に加入しています。これは、保険会社がさらに大きな保険会社(再保険会社)に保険をかけるようなものです。近年、世界的に自然災害が増加した影響で、この再保険の保険料が世界的に急騰しています。ハワイの保険会社は、この高騰した再保険コストをコンド管理組合に転嫁せざるを得ない状況です。
  3. ハワイ固有のリスク要因: ハワイ、特にオアフ島は、高層コンドが海岸線近くや災害リスクの高い地域に密集しています。これは、一度災害が発生すると広範囲にわたる甚大な被害が発生する可能性を示しており、保険会社にとって高いリスク要因となります。
  4. 過去の保険料設定: 保険会社側は、過去の保険料がハワイの高いリスクに対して十分ではなかった、と主張しています。リスクに見合った適正な価格に修正している結果だ、という見方です。
  5. 保険会社の供給減: リスクの増大と再保険コストの上昇を受け、ハワイでコンド保険を引き受ける保険会社自体が減ってきています。既存の保険会社は引き受けリスクを抑えようとし、新規参入も少ないため、保険の選択肢が狭まり、結果的に保険料の交渉力が低下しています。

州議会による改革への試み(2024年)

 このような危機的な状況に対し、ハワイ州議会は2024年の会期中に、コンド保険市場の安定化に向けたいくつかの法案を審議し、成立させました。その中でも特に注目されているのが、法案2695です。

  • 法案2695の内容: この法案は、一時的な州営のコンド保険プログラムを設立することを目的としています。これは、保険会社が見つからず、民間の保険市場で全く保険をかけられない管理組合のための「最終手段」として機能します。
    • このプログラムは、税金で補助されるものではありません。当然のことながら、加入するコンド管理組合は、州に保険料を支払います。大災害で補償金が足りなくなった場合は、ハワイ州内で事業を行っている他の民間の保険会社(コンド保険だけでなく、他の保険も扱っている会社)に対して、法律に基づいて追加でお金を出すように求める(割り当てる)ことができる、という仕組みです。
    • このプログラムを利用する管理組合は、将来的に建物の耐災害性を高めるためのリスク軽減策に取り組むことが求められる可能性があります。
    • これはあくまで市場が機能不全に陥った場合の緊急避難的な措置であり、恒久的に民間の保険市場を代替するものではありません。

 法案2695の他に、保険会社からのデータ収集を強化して市場の透明性を高めること、管理組合がリスク軽減策を実施するためのインセンティブなども議論されたようです。これらの改革は、保険会社と管理組合の双方にリスクをより適切に評価し、共有し、低減することを促すことを目指しています。

課題と今後の見通し

 今回成立した州営保険プログラムは、保険に全く加入できないという最悪の事態を防ぐセーフティネットとして機能することが期待されます。しかし、これは根本的な問題である気候変動によるリスク増大や再保険市場の高騰を解決するものではありません。ハワイのコンド保険市場が本当に安定するためには、以下の課題への取り組みが不可欠です。

  • リスク軽減策の推進: 個々の建物や地域の耐災害性を高めるための投資(建物の補強、洪水対策、火災対策など)を進める必要があります。しかし、これには莫大な費用がかかり、管理組合や住民の負担となります。
  • 保険市場の健全化: 民間の保険会社がハワイ市場に戻ってきたり、新たな保険引受能力が確保されたりする必要があります。そのためには、保険会社がリスクに見合った保険料を設定できる環境がある程度は必要になります。
  • 新たなリスクファイナンスの模索: 伝統的な保険の枠にとらわれず、キャプティブ保険のような、別の方法でリスクを管理・分散する仕組みを導入することも検討されています。キャプティブ保険とは、企業が自社のリスクをヘッジするために設立する保険会社です。

 この法案は、銀行、住宅ローン貸付会社、不動産、保険会社などの業界が支持しています。カリフォルニア州などのように、保険料の値上げを規制して、保険会社が撤退するなどと言うことはなさそうで、一安心というところです。

私のコンドは大丈夫?

 私のコンドでも、保険料の値上がりが問題になっており、先月、理事による説明会がありました。実は、昨年度は100%補償されていなかったのですが、それによって起こりうる重大な問題を、だれも理解できていなかったのです。理事たちは、建物が全壊するなどと言うわずかなリスクのために大金を使う必要はないと思っていたのです。

 しかし、そのような災害が起きなくても、そのリスクを保険で補償していないと言うだけでオーナーが組合を訴えるなどと言うことは、訴訟社会の米国ではよくあることです。その場合、理事たちは、理事役員賠償責任保険で完全に補償されるのではなく、各理事も個人的に責任を問われる可能性があると言うことが分かったのです。理事会としては、高くても100%保険に入ると言う選択肢しかありません。という訳で、参加したオーナーのほぼ全員が、7%の運営費値上げに理解を示しました。

 私自身は、7%で済んでよかったと言うのが本音です。説明会では、当時まだ検討中であったこの法案に関して、これはあくまでセーフティネットであり、本当に困っている組合にしか出してくれないと言う説明がありました。私のコンドは、良く管理されている方で、援助の必要がないとみなされる可能性が高いと言うのです。援助が必要なほどの財務危機に陥るよりはいいでしょう。

結論

 結論として、ハワイ州はコンド保険市場の危機に対応するための重要な一歩を踏み出しました。特に保険に加入できない管理組合への「最終手段」を提供することで、差し迫った問題を回避しようとしています。しかし、気候変動という世界的な課題が背景にある限り、保険料の高騰圧力は今後も続く可能性が高く、市場の真の安定化には、さらなる時間、投資、そして関係者全員の協力が必要となるでしょう。今後の市場と政策の動向が引き続き注目されます。

このブログを動画でチェック

ハワイ州、コンド保険市場の危機対策法案可決
元サイトで動画を視聴: YouTube.