去年8月、数々の訴訟の示談の結果、NAR(全米不動産協会)がコミッション体系を変更しました。それまでは、売主が買主の業者にコミッションを支払うのが普通で、どれだけ支払うかが、NARが運営しているMLS(不動産ポータル)に掲示されていました。それが低いと、買主のエージェントが顧客にその売り物件を見せたがらないので、多く払わざるを得なかったのです。
これが独占禁止法に触れるとして、NARが示談に応じたことは、当時のビデオでも紹介しました。ルールが変わったころは、これからどうなるのかよくわからない点もありました。だいぶん落ち着いてきましたので、今回は、それが、特に買い手にとってどのような変化をもたらしたかについて解説します。
まず、コミッションとは直接関係ない話を一つ。物件を見せてもらう前に、Buyer Representation Agreement(BRA、買主代理契約)にサインすることが必要になりました。
自分だけでオープンハウスを見に行くときは、もちろんこの契約は必要ありません。オープンハウスで出迎えてくれるリアルターは、売主の代理(リスティングエージェント)か、頼まれてオープンハウスのシッターをしているエージェントです。見に来た買主の代理ではありません。
優秀なエージェントは、多くの売り物件を抱えていますので、通常日曜日の2~5時に開かれるすべてのオープンハウスに行くことはできません。そこで、同じブローカーの他のエージェントに代わりに行ってもらうのですが、オープンハウスのシッターは、通常、無報酬です。なぜ無報酬で働いてくれるのでしょうか。
オープンハウスに来たお客さんが、その家に興味を持ってくれれば、シッターは、連絡先をもらってリスティングエージェントにつなげるだけです。しかし、お客さんに、もう少し安いとか、広いとか、新しい家はないかなどと聞かれた場合は、リスティングエージェントにつなげる義務はありません。自分のお客さんにすることができるので、ただでシッターをするのです。
そのようにして得た顧客であろうとなかろうと、誰かに家を見せるためには、買主代理契約(BRC)が必要になります。エージェントと一緒にオープンハウスを見に行くだけでも、契約が必要です。仮に、買う気が全くなくて、知り合いや親戚のエージェントに大邸宅を見せて欲しいと頼む場合でも、これが必要です。また、フェイスタイムなどを使ったバーチャルツアーでも必要です。
その特定のエージェントにコミットしたくない場合は、契約に期限を設けるか、そのエージェントが見せてくれた物件のみという制約を設けるとよいでしょう。
これは、住宅に限られますので、事業用不動産にはこのルールは適用されません。住宅と言っても、宅地の更地は含まれます。また、二戸一、三戸一、四戸一物件も必要です。
また、売主のエージェントは、買主のエージェントがちゃんと契約を結んでいるかどうかを気にしますので、それをエージェントに確認することがあります。
私も、以前は日本から来た方の観光案内がてらにオープンハウスに連れて行ってあげたりすることがありました。同業者の知り合いが多いので同行することも多かったのですが、その場合でもこれからはいちいち契約書にサインしてもらわなければならなくなりました。
それでは、本題のコミッションについて話しましょう。ルール変更により、コミッションは、このBRC(買主代理契約)で契約することになりました。今までは、ほとんどの場合すべて売主がコミッションを払っていたので、最初にこんなこと決めておく必要はなかったのです。それが、最初からBRCにサインしなければならなくなった一つの理由です。
だからと言って、買主が払わなければいけないという訳ではありません。誰が払うかにかかわらず、そのエージェントはクロージング(売買契約完結)の時に、誰かにそのコミッションを払ってもらわなければなりません。
売主がコミッションを払わない場合、あるいは払ってくれても足りない場合はどうなるのでしょう。以前と違って、売主がどれだけ払ってくれるかはMLSに載っていませんし、交渉することは可能です。BRAでコミッションが2.5%と契約しており、売主が2%しか払ってくれない場合について見てみましょう。
足りない場合は買主のエージェントがBRAを改定してコミッションを2.5%から2%に減らすことができます。あるいは、買主が全額補填して、足りない分の0.5%を払うこともできます。あるいは、部分的に減らして、足りない部分は買主に補填してもらうこともできます。例えば、コミッションを2.25%にして、買主が0.25%払うこともできます。
逆に、売主が契約以上、例えば3%払ってくれる場合はどうでしょう。買主のエージェントは、こっそり余分な0.5%をもらうことはできません。それをもらいたい場合は契約を改定することが必要ですが、そこには何らかの対価がなければなりません。契約で約束した以上のサービスを追加するのであればいいですが、通常、追加できるサービスなどありません。多くの場合、余分なコミッションは買主のものになります。
これはコミッションだけではありません。たまに、今年中にクロージングしてくれればボーナスを出すなどと言われることがあります。これも、BRAを改定しないでエージェントが受け取ることはできません。
ちなみに、契約で決めるコミッションは、特定のパーセンテージか額でなければなりません。「売主が出してくれる額」ではだめです。
このように、ルールが変わりましたので、家を見せてくれと頼んだとたんBRCにサインしてくれと言われても、驚かないでください。また、コミッションに関しては、自分が払わなくてはならなくなるかもしれませんので、慎重に決めてください。
日本では、買主が自分のエージェントに3%払うのが普通です。アメリカでは、安く契約してくれる人を探すこともできますので、複数の人に当たってみることもいいかもしれません。ただ、多くのエージェントはブローカーの傘下で働いており、コミッションを自分で勝手に決めることはできません。普段より安いコミッションで契約するには、ブローカーの許可が必要です。
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