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ハワイの不動産管理:素人がやると大変なことに

 ハワイでの不動産所有は、多くの日本人にとって夢の実現です。青い空、輝く太陽、そして安定した資産価値。しかし、その楽園のようなイメージの裏には、時に悪夢のような現実が潜んでいます。特に、賃貸物件のオーナーになった場合、予期せぬトラブルがその夢を打ち砕くことがあります。

 最近、ハワイのニュースで報じられたあるオーナーの体験談は、私たちに警鐘を鳴らしています。数ヶ月にわたり家賃を支払わず、連絡にも応じないテナント。法的手続きに則って立ち退きを求めても、プロセスは遅々として進まず、その間にも失われる賃料、積み重なる弁護士費用、そして精神的なストレスは計り知れないものでした。

 この記事では、ハワイで不動産を賃貸するすべてのオーナー、特にこれからオーナーになろうと考えている方々に向けて、ハワイの厳格な立ち退き手続きの現実と、それに伴うリスク、そして自らの資産を守るために知っておくべき重要なポイントを解説します。

ハワイの立ち退きプロセス:楽園の厳しい現実

 ハワイは、多くの民主党寄りの州と同様に、「テナントフレンドリー」な州として知られており、法律は賃借人(テナント)の権利を強く保護しています。これは、オーナーが問題のあるテナントを退去させたいと思っても、簡単なことではないことを意味します。

 鍵を交換したり、電気を止めたりといった「自力救済」は固く禁じられています。違反した場合は最大2ヶ月分の家賃に相当する罰金を科される可能性があり、これは未払いの家賃とは相殺できません。

 ハワイ州の法律(ハワイ州改正法第521章、通称「賃貸人・賃借人法」)に定められた、正規の立ち退き手続きは以下の通りです。

1. 立ち退き通知 (Notice to Quit) の送付

 立ち退きを要求する理由によって、送付すべき通知の種類と期間が異なります。

  • 家賃滞納の場合: 5日間の支払猶予付き通知 (5-day notice to pay or quit) を送付します。テナントはこの5日以内に滞納分を支払うか、退去しなければなりません。
  • 賃貸契約違反の場合: ペット禁止の物件でペットを飼う、物件を損傷するなど、家賃滞納以外の契約違反があった場合は、10日間の是正勧告通知 (10-day notice to cure or quit) を送付します。テナントは10日以内に問題を是正する必要があります。
  • 月極契約の終了: 特に理由がなくとも、月極の賃貸契約を終了させることは可能です。その場合、オーナーはテナントに対し45日前までに書面で通知する必要があります。

2. 裁判所への提訴 (Filing a Lawsuit)

 通知期間を過ぎてもテナントが問題を解決しない、または退去しない場合、オーナーは管轄の地方裁判所に「占有回復訴訟(Summary Possession)」を提起します。

3. 調停 (Mediation)

 ハワイ州では、テナントが立ち退き通知を受け取ってから15日以内に要請すれば、裁判の前に調停を行うことが義務付けられています(Act 202)。これは、第三者である調停人を介して、当事者間の話し合いによる解決を目指すものです。調停は無料で利用でき、法廷闘争を避けるための有効な手段となり得ますが、解決に至らなければ次のステップに進みます。

4. 裁判所審理 (Court Hearing)

 調停が不成立に終わると、裁判官による審理が行われます。双方が主張を述べ、証拠を提出し、裁判官が立ち退きを命じるかどうかの判決を下します。

5. 占有回復令状 (Writ of Possession)

 裁判所がオーナーの主張を認め、立ち退きを命じる判決を下した場合、「占有回復令状」が発行されます。この令状に基づき、初めて保安官が合法的にテナントを物件から強制退去させることができます。

 このプロセス全体には、数週間から数ヶ月かかるのが一般的です。もしテナントが異議を申し立てたり、手続きに不備があったりすれば、さらに長期化する可能性があります。

立ち退きが「悪夢」に変わる時:オーナーを待ち受ける落とし穴

 法的手続きは明確に定められていますが、現実には多くの困難が伴います。

  • 経済的損失: 立ち退きプロセス中、家賃収入は途絶えます。それに加え、弁護士費用や裁判所への申立費用が数千ドル単位で発生します。ようやく退去させても、室内は荒らされ、高額な修繕費や清掃費が追い打ちをかけるケースも少なくありません。
  • 時間と精神的負担: 書類の準備、裁判所への出廷、テナントとの緊迫したやり取りは、多大な時間と精神的なエネルギーを消耗させます。特に海外や他の島に住むオーナーにとっては、その負担はさらに大きくなります。
  • 手続きの罠: ハワイの法律はテナント保護に厚いため、通知書の書き方や送達方法にわずかでも不備があれば、それだけで訴えが棄却され、プロセスを最初からやり直しなければならないことがあります。
  • 報復と遅延戦術のリスク: 立ち退きを要求されたテナントが、腹いせに物件を故意に破壊するだけでなく、最近のニュース事例のように、立ち退きを引き延ばすために「物件に問題があった」などと事実ではない主張で反訴してくるリスクも考慮しなければなりません。

資産を守るために:ハワイの不動産オーナーが心得るべきこと

 ハワイでの賃貸経営を成功させ、悪夢のようなトラブルを避けるためには、以下の点が不可欠です。

  • 法律を理解する: まずは「賃貸人・賃借人法」の基本を理解することが第一歩です。州の消費者保護局が発行しているハンドブックなどを活用し、オーナーとしての義務と権利を正確に把握しましょう。
  • 徹底した入居審査: トラブルを未然に防ぐ最も効果的な方法は、信頼できるテナントを選ぶことです。収入証明、過去の賃貸履歴、クレジットスコアなどを確認し、厳格な審査プロセスを確立しましょう。
  • 書面での記録を徹底する: 賃貸契約書はもちろん、テナントとの全てのやり取り(修繕依頼、家賃の催促など)は、日付と共に書面に残す習慣をつけましょう。これが後の法的手続きで強力な証拠となります。
  • 専門家を躊躇なく活用する: 問題が発生した場合、独力で解決しようとせず、速やかにハワイの不動産法に詳しい弁護士や、経験豊富な不動産管理会社に相談することが重要です。初期費用はかかりますが、結果的に時間と費用の節約に繋がります。
     特に、ハワイ州外に居住するオーナーは、物件と同じ島に住む代理人を指定することが法律で義務付けられています。この代理人は必ずしも専門の管理会社である必要はありませんが、家賃の徴収など実質的な管理業務を報酬を得て行う場合は不動産ライセンスが必須です。無免許の知人などに依頼すると違法になるリスクがあります。
     物件購入時のエージェントにそのまま管理を依頼するケースも多いですが、注意が必要です。売買と賃貸管理は専門性が異なり、売買が専門のエージェントでは、日々のテナント対応や法務知識が不十分な場合もあります。管理を依頼する際は、そのエージェントが賃貸管理の実績も豊富かを確認することが重要です。
     これらの点を考慮すると、最終的には賃貸管理を専門とする会社に委託するのが、最も安全で確実な方法と言えるでしょう。ちょっとここで宣伝。私は管理会社でエージェントをしていますので、この点はご安心ください。

 ハワイでの不動産投資は、適切な知識と準備があれば、依然として大きな魅力を持っています。しかし、その輝かしい側面に目を奪われるだけでなく、今回ご紹介したような厳しい現実にも目を向け、慎重にリスク管理を行うことが、楽園での成功を掴むための鍵となるのです。

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