ハワイの美しい島、オアフ島ホノルルでは、短期賃貸物件を巡る長年の問題が続いています。特にAirbnbやVrbo(バーボ)のようなプラットフォームが関わるこの問題は、市と短期賃貸オーナー、そして市民の間で複雑な状況を生み出しています。今回は、ホノルル市がなぜ短期賃貸会社に対する法律を十分に執行できていないのかを、最新の情報を加えて時系列で解説していきましょう。
2019年8月1日:短期賃貸規制法の施行と訴訟の勃発
ホノルル市は、住宅供給の減少といった短期賃貸の負の側面と、物件オーナーが観光客に貸し出すことによる経済的利益のバランスを取るため、2019年8月1日に新たな短期賃貸規制法を施行しました。
この法律の主なポイントは以下の通りです。
- オアフ島のリゾート地域とその周辺の一部地域でのみ、30日未満の短期賃貸が許可される。
- 短期賃貸物件は市への登録が義務付けられ、登録すると高い固定資産税が課される。
- AirbnbやVrboなどのホスティングプラットフォームは、未登録の短期賃貸物件の予約手数料を徴収することが禁止される。
- プラットフォームは市に登録し、市内の予約状況を月次で報告することが義務付けられる。
- これらの規定に違反した場合、1日あたり1,000ドルから10,000ドルの罰金が科される。
しかし、この法律が施行されたその日、ハワイのバケーションレンタルオーナー協会を代表する**「Kokua Coalition」**という団体が、法律の一部を阻止するために連邦裁判所に提訴しました。彼らは、市の当初の執行が「ずさん」であり、合法的に運営している多くの人々が誤って10,000ドルの罰金を科されると脅かされると主張しました。さらに、月次報告の義務付けは、電子通信のプライバシー保護や不合理な捜索・押収に対する憲法修正第4条に違反すると訴えました。
2019年10月頃:市と短期賃貸オーナーの和解
訴訟提起から約2ヶ月後、市とバケーションレンタルオーナーは訴訟を終結させることで合意に達しました。この合意は裁判所の命令として却下されたケースに含まれており、市は他の都市でも同様の条例の執行が裁判所で阻止されていることを認めました。具体的には、ニューヨーク市、ボストン、オレゴン州ポートランド、ロサンゼルスでの判例が挙げられました。これらの都市が民主党の基盤であり、一般的に規制に前向きな傾向があるにもかかわらず同様の判決が出たことは、裁判所が個人の財産権保護や通信のプライバシーといった憲法上の権利、および連邦法との整合性を重視した結果であり、Kokua Coalitionの主張が法的に強力であったことを示唆しています。
この合意に基づき、市は「現在の法律の状況を理解し、不必要な訴訟を避けるため」、**プラットフォームに月次報告の提出を義務付ける規定の執行を「現時点では意図しない」**と表明しました。また、もし市がこの規定を執行しようとする場合は、Kokua Coalitionに60日前に通知し、同団体にそれを阻止するための訴訟を起こす機会を与えることになりました。
2019年以降~現在:市の執行状況と説明の変化
2019年の和解以降、市は短期賃貸プラットフォームからの月次報告を受けていません。しかし、ここで重要なのは、この和解が阻止したのは「月次報告の義務付け」の執行のみであり、市は依然として、プラットフォームが市に登録しなかったり、違法な短期賃貸物件の予約を促進したりした場合に罰金を科す権限を持っているという点です。
しかし、驚くべきことに、ホノルル市はAirbnbやVrboのようなプラットフォームに対し、違法な短期賃貸物件の予約を促進したとして罰金を科す権限があるにもかかわらず、これまで一度も罰金を科したことがありません。
2025年5月時点での計画許可局(DPP)の見解:
計画許可局(DPP)のドーン・タケウチ・アプナ局長は、2025年5月のCivil Beatの取材に対し、プラットフォームからの月次報告は市の業務には必要ないとの見解を示していました。さらに、彼女は、プラットフォームが違法な賃貸を促進した場合に罰金を科さない理由として、通信品位法第230条を挙げていました。この連邦法は、テクノロジー企業がユーザーが生成したコンテンツに対する責任から保護するものであり、バケーションレンタルプラットフォームにも適用される可能性があると考えているため、法的なリスクを避けていると説明していました。この時点では、訴訟や和解については一切言及されていませんでした。
また、この時点で、どのプラットフォームも市に登録していないことも明らかになっています。
先週の市議会での計画許可局(DPP)の見解の変化:
しかし、先週の市議会でタケウチ・アプナ局長は、計画許可局(DPP)の短期賃貸執行戦略に関するプレゼンテーションの中で、プラットフォームから予約報告書を受け取れないのは、Kokua Coalitionとの訴訟における裁判所の命令によるものであると証言しました。そして、もし市がそれらを要求すれば「彼らは訴訟を起こす準備ができているだろう」と述べました。
彼女は、市は依然として報告書を必要としていないという信念を繰り返しました。「報告書の情報は役立つかもしれませんが、現在行っている執行の種類に基づいて、それは重要ではありません」と彼女は述べました。
このように、計画許可局(DPP)の説明は、月次報告を受け取れない理由について、当初の「必要ない」から「訴訟によるもの」へと変化し、さらに罰則を科さない理由についても、当初の「通信品位法第230条」から「訴訟のリスク」へと、時期によって異なる見解を示していることが明らかになりました。
現在の問題と今後の課題
現在、市は違法な短期賃貸物件のオーナーを直接取り締まっていますが、運営者が検出を逃れる術を学ぶため、取り締まりは困難であると認めています。市側は、一部の業者が市の調査員が勤務時間外に物件を掲載したり、リストが閉鎖されると別のプラットフォームに移行したりする手口を使っていることを把握しています。ある運営者は、市が差し押さえを行う前に、約100万ドルの罰金を積み重ねていました。
2019年の法律が可決された当時ほどではないものの、依然としておそらく何千もの違法な短期賃貸物件がホノルル市内で運営されていると見られています。Inside Airbnbのデータによると、オアフ島には約7,900のリスティングがあり、そのうち市に登録されているのは約1,800、数十年前から合法化されているユニットが700以上、そして登録されていないものの**コンドテル(コンドホテル)**内で合法的に運営されているユニットが1,800以上あります。控えめに見積もっても、数百、おそらく数千の違法な賃貸物件が市内で依然として稼働することになります。
市議会議員の中には、タケウチ・アプナ局長の新しい説明に驚きを表明し、短期賃貸オーナーが主張するプライバシーの懸念にもかかわらず、市はデータ(匿名化されたものでも良い)を要求すべきだと考えている声も上がっています。匿名化されたデータであっても、賃貸物件がどこで運営され、ゲストがどのくらいの期間滞在するかを把握できれば、将来の法改正に役立つ可能性があると指摘されています。
ホノルル市がこの複雑な問題にどのように向き合い、地元住民の生活と観光産業のバランスを取っていくのか、今後の動向が注目されます。
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