Youtubeで不動産コラムをながら聴き

ホノルル不動産:実質利回り

序文:楽園への投資に潜む、誰も語らないリアリティ

 多くの人にとって、「ハワイの不動産」という言葉は、青い海、白い砂浜、そして安定した資産形成という夢のようなイメージを呼び起こします。世界中から羨望の眼差しを集めるこの楽園への投資は、究極の不労所得を実現する手段だと考えられがちです。しかし、その輝かしいイメージの裏には、表面的な利回りだけでは決して見えてこない、複雑な財務的現実が隠されています。

 本記事では、不動産投資アナリストの視点から、データに基づいたシミュレーションを駆使し、ハワイ、特にオアフ島での不動産投資に潜む5つの「不都合な真実」を解き明かします。これは、夢を壊すためのものではありません。むしろ、楽園への投資という大きな決断を下す前に、誰も語りたがらないカウンターインチュイティブな真実を直視し、より賢明な戦略を立てるための羅針盤となることを目的としています。

1. 「高収益」に見える短期賃貸(バケーションレンタル)の幻影

 オアフ島での投資を検討する際、多くの人がまず魅了されるのが、ホテルのよう短期で貸し出す「短期賃貸(STR)」、いわゆるバケーションレンタルです。確かに、その総収入は目を見張るものがあります。

 私たちのシミュレーションでは、75万ドルのコンドミニアムを運用した場合、長期賃貸(LTR)の年間総収入が$38,400(月額家賃$3,200と想定)であるのに対し、短期賃貸(STR)では$68,438(平均宿泊単価$250、稼働率75%で試算)と、約1.8倍もの収入を生み出すことが示されました。一見すると、STRが圧倒的に有利に見えます。

 しかし、これは「幻影」に過ぎません。そのカラクリは、収入から差し引かれるコスト構造の劇的な違いにあります。

  • 税金の断崖: 最大の違いは税金です。LTRの家賃収入にかかる税金(GET)が4.5%であるのに対し、STRの宿泊売上にはGETに加えて州と郡の宿泊税(TAT/OTAT)が課され、合計で17.75%もの高率になります。
  • 高額な運営コスト: 運営委託料も大きく異なります。LTRが家賃の8%~10%程度であるのに対し、STRでは予約管理やゲスト対応といった集約的な業務が必要なため、売上の15%~30%という高額な手数料が発生します。さらに、宿泊客が入れ替わるたびに発生する清掃費も無視できません。
  • 見過ごされがちな固定費: LTRでは通常テナントが負担する光熱費や通信費も、STRではオーナー負担となり、年間を通じて収益を圧迫します。

 では、これらのコストをすべて差し引いた後、手元にはいくら残るのでしょうか。驚くべきことに、シミュレーションが示す実質利回りは、STRが2.43%、LTRが2.32%と、その差はわずか0.11%。総収入の大きな差は、その大半がこの「コストの断崖」とも言うべき経費構造に消えてしまうのです。

 短期賃貸(STR)は、高い管理手数料、頻繁な清掃費、そして観光市場の変動に直接晒されるリスクを伴う、労働集約的で変動の激しい「ホスピタリティ事業」です。高い売上高に惑わされず、最終的な純収益とそれに伴うリスクを冷静に評価する必要があります。

2. ローンを組むと、手出しが発生する「マイナスキャッシュフロー」の常態

 不動産投資の醍醐味は、ローン(レバレッジ)を活用して、少ない自己資金で大きな資産を動かすことにあります。しかし、オアフ島では、この常識が覆されるという衝撃的な事実があります。

 一般的な投資ローン(物件価格の70%を借入、金利3.2%、返済期間30年)を利用した場合のシミュレーションを見てみましょう。前述のモデルケースで、年間の税引前キャッシュフロー(純営業収益からローン返済額を引いた手残り)を計算すると、以下の結果となりました。

  • 長期賃貸(LTR)シナリオ: -$9,641 の赤字
  • 短期賃貸(STR)シナリオ: -$8,848 の赤字

 これは、家賃収入からすべての経費とローン返済を支払うと、毎年約9,000ドルから10,000ドルの赤字が発生し、物件を維持するために自己資金を追加で投入し続けなければならないことを意味します。

 投資家にとってより直接的な指標である、投下自己資金に対するリターン(キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン)も当然マイナスとなります。シミュレーションでは長期賃貸で-4.15%、短期賃貸で-3.81%となり、これは自己資金が毎年実質的に目減りしていくことを意味します。

 この事実は、オアフ島での不動産投資が、毎月の家賃収入(インカムゲイン)でローンを返済しながら利益を得るという、従来の不動産投資モデルとは根本的に異なる性質を持つことを明確に示しています。

3. 本当の目的は家賃収入ではない:キャピタルゲインに依存する投資構造

 なぜ投資家は、毎年手出しが発生するマイナスキャッシュフローを受け入れてまで、オアフ島に投資するのでしょうか。その答えは、投資の主目的が月々のインカムゲインではなく、将来の資産価値上昇(キャピタルゲイン)にあるからです。

 オアフ島の不動産価格は、島という地理的制約による供給の限定性と、世界中からの旺盛な需要によって、歴史的に上昇を続けてきました。投資家たちは、この長期的な値上がり益を狙っているのです。

 実際に、5年間の保有と年率3%の資産価値上昇を仮定して、投資全体の総合的な収益率(IRR)を計算すると、LTRで6.35%、STRで6.48%仮定に全面的に依存しています。もし資産価値が想定通りに上昇しなければ、投資は失敗に終わる可能性があります。つまり、これは安定した不動産経営というより、将来の値上がりという一点に賭ける金融取引に近い構造を持っているのです。

 レバレッジを効かせたオアフ島不動産投資は、安定した賃貸事業というよりは、「5年後のオアフ島不動産市場に対するコールオプション(買う権利)」に近い、投機的な性格を帯びています。この投資は、毎月の安定収入を求めるものではなく、将来の値上がりを見込んだ長期的な賭けに近い構造を持っているのです。

4. 利回りの宝庫はワイキキにあらず:狙うべきは「郊外の集合アパート」

 高利回りを求める純粋な投資家にとって、一般的なイメージとは裏腹に、ワイキキやカカアコといった中心部の高級コンドミニアムは最適な選択肢ではありません。これらの物件の利回りは1.5%~2.5%と非常に低い水準にあります。高額な管理費(HOAフィー)や、別荘としての利用価値も価格に織り込まれているためです。

 では、どこに目を向けるべきか。それは、中心部から少し離れた郊外エリアにある、複数戸からなる「集合アパート」です。

 ある事例では、集合アパートがネット利回り5.9%という、コンドミニアムの2〜3倍に達する高い収益性を実現しています。その理由は、集合アパートが観光客向けの魅力や別荘としての付加価値といった「投機的価値」ではなく、純粋に地元の家賃相場という「収益価値」に基づいて価格形成される傾向が強いからです。

 エリアで言えば、エヴァプレインやカポレイ、ワイパフといった郊外エリアが有望です。これらの地域は観光客需要ではなく、地元の安定した居住ニーズに支えられており、観光業の変動を受けにくい、よりディフェンシブ(守備的)な投資先となりえます。

5. 絶好の機会?:買い手市場へとシフトする今こそが戦略の分かれ目

 最後に、市場のタイミングについてです。近年のオアフ島不動産市場は、過熱期を終え、明確な転換期を迎えています。販売件数の減少や市場在庫の増加といったデータは、市場の主導権が売り手から「買い手優位の市場」へとシフトしつつあることを示しています。

 これは投資家にとって何を意味するのでしょうか。それは、価格交渉の余地が生まれ、物件を慎重に吟味できる絶好のチャンスが到来したということです。これまでの分析を総括すると、もはや「どの物件を買っても値上がりした時代」は終わりました。これからの時代に求められるのは、資産そのものが持つ本質的な収益性、すなわちキャッシュフローを生み出す力を見極める戦略です。

  • 結論: 「市場が軟化している現在のタイミングで、エヴァプレインやワイパフといった郊外エリアに位置する、キャッシュフローを生む集合アパート」こそが、データに基づいた最も合理的な投資ターゲットであると言えます。

 この戦略は、将来の市場が横ばいでも安定したインカムで投資を支え、上昇局面ではその恩恵を享受するという、ディフェンシブかつオポチュニスティックなアプローチを可能にします。

結び:楽園への投資と、あなた自身の答え

 ここまで見てきたように、オアフ島の不動産投資は、多くの人が思い描く単純な不労所得の手段ではありません。それは、短期賃貸の高い売上に隠された低収益性、ローン利用時のマイナスキャッシュフロー、そして将来の値上がりに大きく依存する投機的な側面を持つ、複雑なゲームです。成功するためには、長期的な視点、マイナス期間を耐え抜く財務体力、そしてキャピタルゲインへのリスク許容度が不可欠です。

 この厳しい現実を知った上で、あらためて問いかけます。 あなたは「楽園」に何を求め、どのようなリスクを取りますか? その答えを見つけることこそが、あなたのハワイ不動産投資を成功に導く、最初の、そして最も重要な一歩となるでしょう。

このブログを動画でチェック

ホノルル不動産:実質利回り
元サイトで動画を視聴: YouTube.