ハワイ・ホノルル中心部の歴史的エリアであり、商業・カルチャーの重要拠点でもあるチャイナタウン。現在、この地域の再開発計画を巡って非常に大きな転換点を迎えています。
ホノルル市議会による予算削減に伴う市機関移転計画の白紙化と、それに続く「チャイナタウン・カルチュラル・プラザ」の解体・大規模複合再開発という新たなニュースは、ハワイ不動産市場や都市開発に関心を持つ皆様にとって見逃せないテーマです。今回は、現地からの最新情報に基づき、チャイナタウン再開発の最新動向と将来の投資・街づくりへのインパクトを分かりやすく解説します。
1. 計画変更の第一波:キング・リバティ・センターへの市機関移転中止
まず注目されたのが、ホノルル市による行政機関のチャイナタウン移転計画の中止です。
ノース・キング・ストリートの歴史的ビルを活用する構想
有名建築家ウラジミール・オシポフ(Vladimir Ossipoff)氏が設計したミッドセンチュリー・モダン建築として知られる「キング・リバティ・センター(King Liberty Center、93 N. King Street)」において、ホノルル市と建築家ディーン・サカモト(Dean Sakamoto)氏との間で賃貸契約が締結されていました。
サカモト氏が創設した非営利団体「SHADE Group」および建築事務所が1階に入居しており、2階から4階の3フロアに市の2つの行政機関を移転させ、数十名の市職員を常駐させる予定でした。これにより、長年課題とされてきたチャイナタウンの人流創出と経済活性化が期待されていました。
市議会の予算削減による突然の方向転換
しかし、2026年夏、ホノルル市議会は経済活性化局(Office of Economic Revitalization: OER)の予算カットを可決しました。この予算削減の影響を受け、市機関の入居契約は突如キャンセルとなりました。サカモト氏は約10年以上にわたりチャイナタウンの都市計画に携わってきましたが、SHADE Groupの活動拠点を他地域へシフトすることを検討せざるを得ない状況となっています。
リック・ブランジアルディ(Rick Blangiardi)市長は市議会の決定に対して強い失望を表明したものの、行政主導の小規模なオフィス移転から、より大規模な民間・政府連携の土地再開発へと舵を切ることになりました。
2. チャイナタウン再開発の「本丸」:チャイナタウン・カルチュラル・プラザの解体と複合再開発
市機関の移転中止と入れ替わるように、チャイナタウン再開発の「本命」として浮上したのが、ベレタニア・ストリートに位置する「チャイナタウン・カルチュラル・プラザ(100 N. Beretania St.)」の全館解体・再開発プロジェクトです。これは、実は私が住んでいるコンドのすぐ向かいです。
敷地面積約4エーカーの大型複合施設
チャイナタウン・カルチュラル・プラザは、1974年に6つの中国系団体によって設計・建設され、1979年に台湾政府(中華民国政府)が中華航空を通じて買収した約3.97エーカー(リバー・ストリート、ククイ・ストリート、モーナケア・ストリートに囲まれた区画)の巨大複合施設です。管理はロンジェビティ・インターナショナル・エンタープライズ社が手掛けてきました。
かつては2階に10,000平方フィートの広大な宴会場を備えた「エンプレス・レストラン(The Empress Restaurant、2018年閉店)」などが地域の賑わいを中心で支えていましたが、長年の維持管理不足により、エレベーターの故障や天井の破損、さらには放火、暴力事件、薬物取引、不法占拠といった治安悪化の温床となっていました。
台湾政府(外交部)との合意と解体計画
ブランジアルディ市長は2025年3月に台湾の頼清徳総統へ直接書簡を送るなど、施設改善を強く働きかけてきました。そして2026年秋、台湾外交部(MOFA)およびホノルル台北経済文化代表事務所(TECO)との協議を経て、老朽化した既存建物を全面的に解体し、モダンな複合施設として再開発することが正式発表されました。
**再開発の主要スケジュールと概要**
– **退去期限**: 2027年3月31日(既存テナントへの通知済み)
– **事前調査**: 環境影響評価(EIA)および埋蔵文化財調査を実施後、解体工事へ着手
– **開発コンセプト**: 住宅(手頃な価格の住宅含む)、商業店舗、レストラン、公共駐車場、台湾カルチャー施設を一体化した現代的なランドマーク
地元のコミュニティリーダーであるエディ・フローレス(Eddie Flores Jr.)氏(L&L Hawaiian Barbecue共同創始者/A Better Chinatown Association会長)や、ダウンタウン・チャイナタウン近隣委員会会長のチューラン・シューバート=クウォック(Chu Lan Shubert-Kwock)氏からも、安全性の向上と賑わい再興に向けた賛同と期待の声が上がっています。また、タイラー・ドス・サントス=タム(Tyler Dos Santos-Tam)市議会議員も既存テナントへの明確なサポートと透明性の確保を求めています。
3. ワイキキの成功体験をチャイナタウンへ:ビジネス改善地区(BID)構想の始動
ハード面の再開発に加えて、ソフト面(まちづくり・エリアマネジメント)の強化も進行しています。
ハワイ大学(UH)とSHADE Instituteによる提案
ハワイ大学マノア校都市地域計画学科(Department of Urban and Regional Planning)のカーレ・キム(Karl Kim)教授とディーン・サカモト氏の指導のもと、12名の大学院生チームが「ビジネス改善地区(Business Improvement District: BID)」の設立提案を、ウラジミール・オシポフ氏設計の歴史的建物「リバティ・バンク・ビル」にて発表しました。
2000年から運用されている「ワイキキBID(Waikiki Business Improvement District)」は、民間資金と公的支援を組み合わせて清掃・警備・ホームレス対策を行い、ハワイ最大の観光地区としての治安と美観を維持してきた成功モデルです。
BID構想が目指す3つのシナリオ
学生チームはチャイナタウンおよびダウンタウンホノルル向けに以下の3つの柱を提案しています:
1. **歴史・文化重視シナリオ**: コミュニティのアイデンティティ継承と文化イベントの活性化
2. **交通・周遊性シナリオ**: 歩行者天国や公共交通の接続性向上
3. **クリーンシティ運動シナリオ**: 気候変動への適応、緑化、持続可能な都市環境の整備
官民連携による継続的な美化・防犯活動が導入されることで、これまで観光客や地元の買い物客が敬遠しがちだったチャイナタウンの住環境・営業環境が根底から改善される可能性が高まっています。
4. 不動産投資・まちづくりの視点:日本人が注視すべき3つのポイント
ハワイ不動産市場を注視する投資家やオーナー様にとって、今回のチャイナタウンの構造変化には以下の重要なポイントがあります。
【投資家が注目すべき3つのポイント】
1. アラモアナ・ワイキキからホノルル中心部への投資軸の広がり
カカアコやアラモアナの再開発に続き、ダウンタウン〜チャイナタウンが次の再開発フロンティアへ。
2. コンドミニアム・混在型住宅需要の増加
カルチュラル・プラザ跡地に誕生する住宅供給により、職住近接を求めるローカル実需層の需要が拡大。
3. エリア全体の安全性向上による資産価値の下支え
BIDの導入と治安改善施策により、長期的な地価・商業賃料の安定と上昇が期待される。
5. まとめと今後の展望
ホノルル・チャイナタウンは、市機関のオフィス移転という短期的な計画の中止を経て、台湾政府との連携による「カルチュラル・プラザの全面解体・複合再開発」という過去数十年にない規模の都市再生フェーズへと突入しました。2027年春の解体着工に向け、今後は詳細な事業者選定やゾーニング(都市計画用途変更)の議論が活発化します。ホノルル中心部の景色を一変させる潜在能力を秘めたこのプロジェクトの進捗を、アーバンレックハワイでは引き続き追っていきます。