英語では、不動産の転売のことをフリッピングと言いますが、2021年は、2020年に比べて26%増え、2006年以降最高となりました。今日は、ATTOMから発表された転売に関する統計をご紹介します。
転売の数は増えていますが、取引数全体に占める割合は減っています。2021年は5.5%、2020年は5.8%、2019年は6.1%でした。また、収益は過去10年間で最低で、その減り方は、過去15年間で最速でした。
米国住宅転売収益と表面利回り
購入価格と売却価格の差は平均$65,000。2020年の$67,000に比べて3%減。購入価格より31%高く売れたにすぎず、これはリーマンショックの2008年以降最低です。31%ならいいじゃないかと思われるかもしれませんが、通常、転売には、金利や固定資産税などの支払いだけでなく、かなりの修理費がかかりますので、これは実質利回りではありません。2016年は51%でした。
転売の購入価格は31.3%も上昇しましたが、売却価格は21.1%しか上昇しませんでした。1年で21.1%しか上昇しなかったというのは変ですが、これは全国の不動産価格の上昇率とほぼ同じです。
米国住宅転売融資トレンド
しかし、必ずしも実質利回りが減ったとは限りません。金利が下がり、その上現金購入が増えましたので、金利支払いのコストは減ったはずです。転売目的の購入にローンを借りた投資家は、2021年は38.7%、2020年は41%、2019年は39.9%でした。金利が安くなったのになぜ現金購入が増えたのかと思う方もいらっしゃるでしょう。売り手市場で競争が激しく、複数のオファーがあった場合、現金購入者のほうが有利だからです。
転売にかかる日数
転売にかかる期間も減りました。これは、売り手市場で早く売れたせいもあると思いますが、修理をそれほど必要としない物件の転売が多かった可能性が指摘されています。いずれにしろ、保有期間中の維持費は減ったはずです。
53%の市場で転売が占める割合減
減っているのは主に北東部と西部です。人口20万以上で、最低100件の転売があった市場のうち、最も減ったのがホノルルの83%、次にニュージャージ州のアトランティック・シティーで73%、ニューハンプシャーのマンチェスターが57.5%、ニューヨーク州のローチェスターが48%、アイオワ州のシーダー・ラピッズ47.8%でした。人口100万以上だと、ラスベガスが37.2%、ミネアポリスが36.7%、サクラメントが36.3%、フィラデルフィアが35.4%でした。
ホノルルの人口は100万をわずかに切りますが、それだけの規模の都市で83%も減ったのは驚きです。マイホームを購入する人たちが競り勝ったということでしょう。
残りの47%の市場で転売が増えました。人口20万以上の都市ではユタ州のプロボが114.3%、ソルトレークシティーが113.4%、オースチンが111.2%、テキサス州カレッジ・ステーションが97.4%、ユタ州オグデンが95%の増加です。ソルトレークシティーとオースチン以外の人口100万以上の都市では、サン・アントニオが56.2%、ダラスが34.4%、ヒューストンが32.3%増です。テキサス州とユタ州が目立ちます。
果たしてiBuyerは?
この統計を見て個人的に最も気になるのはiBuyerの影響なのですが、それには何も触れていません。iBuyerと言ってもご存じない方がほとんどだと思いますが、ITを駆使した薄利多売の転売です。有名なのは、ソフトバンクも投資しているオープンドアや、米国最大の不動産サイトで、2021年に転売事業から撤退したジローです。iBuyerのシェアはまだ2%くらいですが、転売自体のシェアが5.5%ですので、転売の3件に1件はiBuyerということになります。
iBuyerは、通常の転売とは異なり、住宅売買の面倒な作業を一手に薄利で引き受けてくれるというものです。米国人は一生に6~7回住宅を買い換えますが、旧居を修理して売ってからでないと新居を買えないというジレンマがあります。iBuyerであれば、現状で、しかも新居購入のタイミングで買い取ってくれますので、頭を悩ませる必要がありません。
ジローがiBuyerビジネスに失敗したのは、ゼスティメートというジローのAI評価に基づいて購入するという戦略がうまく行かなかったからです。ゼスティメートとは、エスティメート(見積)の語呂合わせです。AI評価が正確ではないので、市場価格に沿った買い取りができなかったというわけです。
しかし、問題はそれだけではありませんでした。実は、撤退直前、購入数が激増していたのです。その在庫を修理するための業者を確保できなかったことが、在庫を抱えてしまったことの原因ではないかと言われています。iBuyerが通常のフリッピングとは違うというのは分かりますが、安く修繕しないと儲からず、修繕はITではできません。
売らなければ買えないという問題の解決だけであれば、つなぎ融資で可能です。ITつなぎ融資企業は、修理代も融資してくれますが、修理の手配は自分でしなければなりません。iBuyerは、いったん買ってから売るわけですので、売買の費用が2回かかり、つなぎ融資より経費が掛かります。iBuyerに売るほうが簡単ですが、その分安く売らなければならないでしょう。
つなぎ融資を使う場合、旧居の売却は仲介業者が助けてくれますが、修繕の手配は自分でしなければなりません。ということは、iBuyerの最大のメリットは、売主が修理をしなくてもよいということでしょう。売買自体を薄利でするということであれば、儲けるのは修繕による価値の上昇です。
フリッピングという言葉は印象が悪いので、iBuyerは使っていません。しかし、iBuyerも結局のところフリップ業者ということにならないでしょうか。ジローがオープンドアに負けたのも、修理業者を確保できなかったことが、直接のきっかけでした。
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