DCR:債務回収比率
今回は、もう一つ新しい言葉をご紹介しましょう。DCR(Debt Coverage Ratio)は債務回収比率とか、借入償還余裕率などと訳されます。DSCR(Debt Service Coverage Ratio)とも呼ばれますが、同じ意味です。
計算は、NOI(営業純利益)÷ADS(年間負債支払額)=DCRです。ということは、ADS=NOI÷DCRということになりますし、NOI=ADS×DCRということにもなります。これは、貸出限度額を計算するために銀行が使うもので、例えばDCRが1.25であれば、ADS100円につき125円のNOIがなければならないということになります。NOIが予想できれば、ADSの上限が計算できますので、それが分かれば、ローンの貸出限度額もわかるというわけです。それではちょっとやってみましょう。いつもおなじみの物件を例にしてみます。
銀行が要求するDCRからローン限度額を計算する
ある投資家が、5千万円のNOIがある物件を10億円で購入することを考えています。ローンの条件は、30年ローンで金利3%です。銀行が要求するDCRは1.25だとします。ということは、ADSは5千万円÷1.25=40,000,000円以下でなければならないということです。これをさらに12で割ると、毎月の支払限度額が出ますが、3,333,333円です。これをもとにローンの額を計算すると、790,631,193円となります。実際にはこんな端数を借りることはないと思いますので、7.9億円ということになるでしょうか。
LTV:ローン資産価値比率との関係
仮にこの銀行のLTVが最大80%であるとすると、LTVを使って計算した貸出限度額は8億円ですが、債務回収比率を使った貸出限度額は7.9億円ということになりますので、通常少ない方の額に基づいて限度額を設定します。銀行は、資本的支出も引いてNOIを少なく評価する傾向がありますので、その場合はさらに低い額になるということです。
米国・日本の相場の違い
米国のDCRの相場は、1.15~1.35くらいですが、日本はもっと高いようです。家賃が値上がりするのが普通である米国では、家賃収入が増えていきますので、NOIも増えます。ある日本の投資家が、去年ハワイで物件を購入し、もうすぐ家賃が3%ちょっと上がりますという報告を先日したばかりですが、随分喜んでくださいました。私が貸している物件もちょうど今日入居者に3%余りの値上げの通知をしましたが、その値段で更新してくれるそうです。これはアメリカではごく普通のことです。場所によりますが、日本では家賃収入が下がる可能性が大きいので、NOIも減ります。NOIが減るとDCRも下がりますので、最初にちょっと余裕を持たせる必要があるのでしょう。
バブル経済崩壊の一因
30年前、日本の銀行がちゃんと収益還元法を使って物件の価値を出し、その価値とLTV(ローン資産価値比率)に基づいてローンを出していれば、バブルの崩壊はなかったでしょう。また、仮に正しい物件評価ができなかったとしても、債務回収比率を使って貸出限度額を設定していれば、日本の歴史は変わっていたかもしれません。