住宅難とホームレス問題の解決を公約して当選したグリーン知事が、23年7月17日、住宅難の緊急事態宣言を出しました。ハワイ州は、住宅価格が全国平均の3倍近くあります。平均的戸建てを買えるのは全世帯の3分の1以下で、$25.2万ドルの年収が必要です。平均的コンドを買えるのは半分以下、平均的アパート代を支払えない世帯が3分の1もあるのです。4人に一人がホームレスの危機にさらされていると言われています。
そのため、多くの住民が住宅の安いメインランドに移住しており、その数は年間14,500人。最も多い人種が最も収入が低いハワイ人で、故郷を追われています。職業別にみると、看護師(平均年収$11.3万)や教師($6.3万)などが移住しており、社会問題になっています。ハワイ住宅経済開発機構は、2019年に、向こう5年間、毎年1万戸の住宅を建築しなければ間に合わないと報告しましたが、実際に建築されているのは年4,000戸ほどです。
そこで、グリーン知事は、向こう1年間、住宅開発を規制する20以上の州法や条例を一時停止すると発表したのです。ハワイ州は、全国で最も住宅規制の厳しい州だと言われており、慢性的住宅難の最大の原因となっています。そのため、この1年間、規制を緩和して、できるだけ多くの建築許可を出す方針です。その60%がお手頃物件で、いったん許可が出ると、3年以内に工事を始めなければなりません。
それに伴い、州や郡(市)の土地利用や環境問題を担当する機関の代わりに、Build Beyond Barriers(障害を越えた建築)作業グループを設けます。これを構成するのは、22人の地方自治体や業界の代表で、リーダーは州の住宅最高責任者のナニー・メデイロス氏です。グループには、この発令に反対する環境保護団体のシエラ・クラブなども含まれています。
反響
シエラ・クラブ・ハワイ支部長のウェイン・タナカ氏は、従来の環境影響調査なしに建築許可を出すことには反対しています。しかし、これらの規制があるためにかかる余分な費用が住宅1戸当たり$23~32.5万と言われています。グリーン知事に言わせれば、それを続けることはできないという判断でしょう。ハードにかかる費用とそう変わりない経費がソフトにもかかっているということです。
ホノルル市長のブランジアーディ氏は、自分が作業グループの一員であることもあり、この発令に賛同しています。しかし、議員はグループに含まれておらず、慎重意見も見られます。また、各町内会の役員は、NIMBY(Not in my back yardの頭文字で、「私の裏庭はダメ」)の意見が大半を占めています。知事の意図には賛成するが、うちの近所に高層マンションを建てられたのでは困るということです。
開発業者のピーター・サビオ氏は、良い決断だとしながらも、州外のバイヤーが買いにくくする法律を作らない限り、効果は薄いと述べています。州外のバイヤーが去年の第1~3四半期に購入した住宅は、全体の25%を占めています。
このトレンドは、金利の上昇で、ローンを借りなければ購入できない地元民の住宅購入が減ったことも、一つの要因だと思われますが、それだけではなさそうです。州外のバイヤーで特に多いのがカリフォルニアで、2022年第1四半期は過去最高の618戸でしたが、23年の第1四半期は半減して310戸でした。パンデミックを避けるため、あるいは在宅勤務用に比較的安全だったハワイに別荘を購入する人が増えたものと思われます。また、2022年はAirB&Bの収益が史上最高だったことも、誘因の一つでしょう。
話を元に戻しますが、州外のバイヤーにハンディーを負わせることは違憲であるとの理由で、そのような法律は可決されていません。サビオ氏は、州外のバイヤーを減らさない限り、ハワイでリタイヤする人が増えるだけだと述べています。
しかし、この宣言によって出る建築許可の60%がお手頃物件であれば、法律上それはハワイ住民が購入者自身の居住目的でしか購入することができません。お手頃物件は、安く売るか貸すかしなければなりませんので、業者は開発を渋りますが、規制緩和でコストが削減されれば、開発が増え、ハワイ住民は助かるかもしれません。また、お金持ちがハワイで老後の生活を送るのは、お金を落としてくれますので、地元経済の助けになるでしょう。
今までにも、規制緩和の動きはありましたが、期待されたほどの効果はありませんでした。今回の非常事態宣言は、過去の緩和よりも大規模なものですので、より大きな効果があることを期待しています。
このブログを動画でチェック