リーマンショック後、ブラックストーンなどのプライベート・エクイティー(PE)が、多くの銀行差し押さえ物件を買いあさりました。PEとは、非公開の企業や事業に投資するファンドです。目指すのは、数年後に企業の価値が向上した時点で売却し、利益を得ることです。ところが、リーマンショックの後、銀行の差し押さえ物件があまりにも安く手に入ったので、戸建て市場にも参入したのです。
その資金源がレント・バック・セキュリティーでした。MBS(モートゲージ・バック・セキュリティー、不動産担保証券)と似ていますが、MBSは、住宅ローンを元に作られた証券です。銀行などが多くの住宅ローンをまとめてパッケージ化し、そのパッケージを投資家に売ります。投資家は、住宅ローンの返済から得られる利息を受け取ることができます。
レント・バック・セキュリティーは、住宅ローンの支払いではなく、家賃収入を証券化して売ります。つまり、多くの戸建てを購入し、その営業純利益を得る権利を多くの人に分けて売るのです。PEは、それを売って得たお金でさらに物件を買っていったのです。
また、MBS同様、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が証券のリスクを補償しています。CDSは、企業や国が債務不履行(デフォルト)を起こした場合のリスクを他者に移転するための保険のような金融商品です。保険をかける側が一定の保険料を支払い、万が一デフォルトが発生したときには保険金を受け取ることができます。ちなみに、リーマンショックの時は、デフォルトが多すぎて補償できなくなったことが、ショックの一つの原因となりました。
しかし、2010年代になって、差し押さえ物件がなくなってきました。そこで、2012年、ブラックストーンが独立させたインビテーション・ホームズなどが、安価で買える住宅を探すプログラムを開発し、20ほどの大都市圏で、購入を続けました。
2014年、銀行は、修繕を必要とする物件購入用のローンを出し始め、翌年、全米で使われた住宅改装費用総額は、44%も増えました。しかし、このようなローンがもらえるのは、個人投資家ではなく、機関投資家です。24年の政府説明責任局の報告によると、個人投資家が改装にかけた費用は1戸当たり$6,300でしたが、機関投資家は$15,000-39,000でした。
PEは、インビテーション・ホームズのAcquisition IQなど、収益を最大化する家賃設定プログラムも開発しました。個人投資家が使える家賃査定のサイトもありますが、独占禁止法に触れるため、問題となっています。機関投資家はそのようなプログラムを自社のみで使っているので談合したことにはなりません。しかし、多くの個人投資家がそのようなサイトを使って家賃設定をするのは違法だと言うのです。独占禁止法がそれほど厳しくない日本では、そう言われてもピンとこない人が多いでしょう。
家賃設定に限らず、個人投資家が機関投資家と競争するのは大変です。彼らは、お抱えの工務店を安く使い、購入した戸建てをすべて同じ色の塗料で塗り、修理のリクエストは全国をカバーするコールセンターで対応します。3D内見ができ、見込み客が現場で内見したい場合でも電子ロックで無人です。大企業ですので、「今月はちょっと都合で家賃支払いが数日遅れる」とか言っても、高い延滞料をきっちり取られるでしょう。
それだけではありません。彼らは、IREM(全米不動産管理協会)やNational Association of Residential Property Managers(NARPM、全米住宅管理業協会)に加入していません。これだけシェアが増えると、これらの職能団体ではなく、PEが新しい商習慣や職業倫理を主導していく可能性があります。ロビー活動にかけるお金もあるので、自分たちに都合の良い法律が増えるかもしれません。
ハーバード大学法学部のジョン・コーツ博士によると、米国経済の15-20%はPEの管理下にあるとのこと。彼らが戸建ての投資に乗り出したため、戸建ての賃貸が増えました。2021年の戸建て賃貸物件の割合は27%で、2001年比べて9%増えています。NARPMの報告によると、毎年約30万戸の戸建てが賃貸に回されているのです。
そのPEがハワイにも参入しています。安いなと思った物件にオファーをしても、彼らに取られてしまうというようなことが増えているようです。
2020年のフレディー・マックの報告によると、米国では360万戸の住宅が不足しているそうです。ハワイも住宅不足が深刻で、30万戸とも言われています。機関投資家は、住宅難が続く限り、ハワイの家賃と住宅価格は上昇し続けると見ているのでしょう。彼らの参入によって、ハワイはますます住みにくくなるのでしょうか。個人投資家の環境も厳しくなるのかもしれません。
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