米国大統領選挙を振り返って:陰謀説は真実か、それともただの説か

日本で広がる「米国大統領選挙の陰謀説」

 私は、ニュースはよく見ますが、政治を勉強したわけではなく、政治についてあまりしゃべり過ぎないように気を付けているつもりです。本当かどうかわかりませんが、今回の大統領選挙で陰謀説のようなものが日本で横行していると聞きましたので、アメリカに住む一日本人としての意見を書くことにしました。

動画でも話していますが、テキストで読みたい方は、以下の記事をご覧ください。

 

アメリカ本国の陰謀説

アメリカにも陰謀説はあり、有名なものでは、911はブッシュ政権の仕業であるとか、オバマ大統領はケニア生まれで、市民権があっても米国生まれではないので大統領にはなれないなど、盛りだくさんです。

案外知られていないのがアレックス・ジョーンズという人物で、この二つの説を広めた張本人です。彼の説で一番ひどかったのが、サンディーフック小学校の小学生大量殺害事件はデマだという説で、犠牲になった子供たちの親は嘘をついていると主張し、裁判沙汰になって自分が間違っていたことを認めざるを得ませんでした。そんなことをして何になるのかと思うかもしれませんが、有名になるだけでなく、お金になるのです。彼は自分のサイトでいろいろ商品を売って、大儲けをしているそうです。

最近の陰謀説で有名なのは、ピザゲートとかQアノンと呼ばれるもので、民主党があるピザ屋の地下で組織的な児童買春をしているというものです。ウィキリークがオバマ大統領首席補佐官ジョン・ポデスタ氏のメールをリークしたのですが、そのメールが実は暗号であり、それを解いて判明したという説で、これも当初はジョーンズが広めたものです。これを信じた男性が、子供たちを救おうと銃を持ってそのピザ屋に押し入り、発砲するという事件がありましたが、その建物に地下室はありませんでした。

TV放映されたオバマ大統領のトランプ撃退劇

アメリカにPBSというNHK教育テレビのような放送局があり、昔セサミストリートを放送して日本でも有名になりました。この放送局は、他の主なマスコミと同じく、民主党寄りですが、MSNBCなどほど露骨ではありません。この放送局が、4年前の大統領選前にトランプ氏に関するドキュメンタリーを作成したのですが、その冒頭に出てきたのが、毎年マスコミ関係者が大統領を招いて行うホワイトハウス担当記者ディナーでした。マスコミ嫌いのトランプ大統領は、このディナーに参加していませんが、政治のことを忘れて、和やかな雰囲気の中で、大統領が自嘲的なジョークを多発して参加者を笑わせる楽しい場です。

ところが、2011年のディナーに、どういうわけかトランプ氏も招かれたのです。トランプ氏はオバマ大統領がケニア生まれだという陰謀説を広めていたのですが、オバマ大統領が出生届の謄本を提出して、決着がついたばかりでした。
実は、その頃の私はアレックス・ジョーンズのことなど聞いたこともなく、この陰謀説は本当かも知れないと思っていました。調査によると、当時アメリカ人の4人に一人が彼の出生に疑いを持っていたそうです。オバマ大統領は出生届の抄本は提出していたのですが、謄本を提出してないことが取りざたされていたので、疑いを晴らしたければなぜ謄本を出さないのかと私も思っていたのです。オバマ大統領は、トランプに言いたい放題言わせておいて、ディナーの直前に謄本を出して彼に恥をかかせようとしたのではないかと疑いたくなります。

ディナーで、オバマ大統領は開口一番トランプ氏を歓迎しましたが、彼がこの陰謀説を広めていたことを馬鹿にして、延々と彼をこき下ろしたのです。「こんなことに時間を使うくらいなら、もっと大切なことを調べればいいだろう。例えば月着陸はデマだったとか」と言った感じです。トランプ氏は、笑みを浮かべて聞いてはいましたが、内心は煮えくりかえっていたに違いありません。トランプ氏に近い人たちは、彼が出馬を決めたのはこの時ではないかと思っているようです。だとすると、トランプ政権はオバマ大統領が生んだということになるかもしれません。以下がそのドキュメンタリーのリンクですが、日本では視聴出来ないようです。

https://www.pbs.org/video/frontline-choice-2016/

本当に選挙の不正はあったのか?

根拠のない陰謀説が米国のマスコミで市民権を得ることはあまりありませんが、その点、日本の報道は週刊誌の記事に近いものを感じます。ニュースとエンターテイメントの境界線が明確でないのでしょうか。今回の選挙に関しても、トランプ大統領はいろいろな主張をしていますが、組織的で選挙結果を覆すような不正があったという根拠や証拠があるとは思えません。

例えば特定の選挙区でバイデン氏の得票率が100%であったということが指摘されていますが、こういうことは今までにもありましたし、地域的に分断化されているアメリカでは、考えられないことではありません。このようなことを調べてみることは賛成ですし、不正があったかもしれないということは良いですが、不正があったと主張するのは信ぴょう性を下げるだけです。

その他にも、ミシガン州で突如として出どころの分からない票が13万も出てきたとか、トランプ票が焼かれたなどの主張がありましたが、根拠がなかったことが保守派のマスコミでも報道されています。私が見る限り、裁判するに値する訴訟は、ペンシルベニア州が議会を通さないで選挙方法を変えたことに関して選挙前から最高裁に控訴されていたことくらいで、そのほかは、申立はあっても、裁判で勝つだけの証拠はまだ提示されていません。

トランプが根拠のない申立をすることを非難している共和党議員は数少ないですが、彼の主張に根拠があると主張している人も多くはなく、明白にするべきと訴えるか、沈黙している政治家がほとんどです。ヒラリーも接戦だった州で訴訟を起こして調べるのに2-3週間かかりましたが、その権利はトランプにもあります。
沈黙している共和党政治家は、トランプ支持者の動きを見ているのでしょう。私の記憶では、いったん現職で負けてからまた出馬して勝った大統領はいないと思います。しかし、米国の予備選挙の制度は、熱狂的支持者のいる人が勝つことが多いので、トランプは4年後に出馬する可能性があるかもしれません。彼の人気がこれからどうなるかを見極めるまで様子見ということではないでしょうか。

世論調査はなぜ大きく外れたのか

世論調査ではトランプが大差で負けることになっていましたが、実際は接戦でした。上院は、逆転すると言われていましたが、改選される議員の3/4が共和党であったにもかかわらず、逆転しない公算が大です。ましてや下院に関しては、民主党が議席数を伸ばすと言われていたのが、逆に僅差。州によっては世論調査が20%近く外れるという始末でした。また、トランプは人種差別者だと言われていますが、黒人やラテン系のトランプ支持者は前回を上回り、白人だけの党になるのではないとかと心配していた共和党も一安心。

世論調査の問題の一つは、私見ですが、アメリカは統計学が進んでおり、正確を期すために作為的になり過ぎているのではないかということです。日本だと無差別に電話するだけではないかと思いますが、選挙登録している共和党支持者と民主党支持者の割合、その中でどのような人が実際に投票するだろうかなどを予想して、アンケート対象者を選ぶのです。調査する側のバイアスがかかるのは当然です。

また、トランプ支持者が自分の意思を表明することを恥ずかしいと感じているということが16年の選挙後に言われましたが、今回は、それどころか恐れているのではないかという可能性が言われています。民主党の政策を支持して解雇されるという話はあまり聞きませんが、共和党政策を支持して首になるということは頻繁に聞きます。同性愛者の結婚に反対する議員に献金したCEOが解雇されたり、その他の政策に反対する意見を述べて首になったりすることはよくあるようです。

共和党の政策に言及して問題になった事例

 有名な一例を挙げましょう。PBSのラジオ局はNPRと呼ばれますが、PBSよりも革新的です。そこで働いていた黒人ジャーナリストのフアン・ウィリアムズ氏は、革新派ですが、保守派のフォックスニュースで「私は偏屈者ではない。この国の公民権に関して私がどんな本を書いてきたかは周知のことだ。でも、正直言って、飛行機に乗って、イスラム教の服装をしている人を見ると、彼らは自分たちがイスラム教徒であることを顕示しているわけで、ちょっと心配になり、ナーバスになる。」と述べた二日後、NPRから解雇されました。革新派は親アラブなので、この正直なコメントを受け入れられなかったのでしょう。

ついでにもう一つ。ボストンのブランダイズ大学は、小さくて歴史が浅いのでそれほど有名な大学ではありませんが、ユダヤ人の寄付でできた優秀な大学です。ブランダイズ大学は、ソマリアのモガディシュ生まれで、イスラム教国における女性の地位の改善などを訴えたことで有名なアヤーン・ヒルシ・アリ女史に名誉博士号を授与する予定でした。アメリカの大学はほとんどがリベラルですが、ブランダイズ大学は生徒の半数以上がユダヤ人であるにもかかわらず、イスラム教を非難した女史に名誉博士号を授与することに反対し、キャンセルされてしまったのです。
この事件は、disinvitation(招待取消)と呼ばれ、この言葉はほとんど使われない言葉だったのですが、大学の卒業式などの講演者として呼ばれた有名人が、保守派であることを理由にキャンセルされたりすることを意味する言葉になってしまいました。

最近では、暴動はブラック・ライブス・マター運動に悪影響を与えると述べた革新派記者が首になったという報道を見ました。このような社会の中で、世論調査員だと名乗る人にトランプを支持していると話したら、バレて何をされるか分からないという気持ちが働いているという議論は、私はちょっと大げさだと感じますが、考えられなくはありません。原因が何であれ、世論調査が間違っていることは明らかであり、保守派がマスコミを信じないのは無理もないと言えるでしょう。

法と秩序

 幸い、選挙に関する陰謀説はアメリカでは牽引力がなく、ミシガン州知事の誘拐を企てたような小組織や一匹狼が何かしでかす可能性は否めませんが、これからも大規模な暴動など起きないことを願います。日本の方は、熱狂的なトランプ支持者が何をするか分からないと心配していた方も多いと思いますが、暴動に甘い民主党に対して、法と秩序を訴えてきた共和党が、自ら同じ過ちを犯すとは考えにくいです。ベトナム戦争反対デモでもめていた1972年の選挙で、ニクソン大統領が当初大人気だった革新派のジョージ・マックガバン氏に大勝した原因は多くありますが、法と秩序もその一つでした。

また、今回トランプに投票した人の多くが、テレビでよく見るようなトランプの熱狂的支持者であるわけではなく、人間的には嫌いだが政策で選んだ人は多いと思います。私は米国市民ではないので、選挙権はありませんが、トランプだけは勘弁してくれと考えている一人です。しかし、ハンター・バイデン疑惑は、証人も証拠もある疑惑であり、それをマスコミが何の根拠もないとして取り上げないのは、マスコミとバイデン氏に対する不信感を募らせるばかりです。トランプが独裁者になるとよく言われますが、民主党が全体主義になる可能性もあります。私としては、他に良い人はいないのかという意見です。

亡くなった私の父は革新派で、朝日新聞の米国政治に関する記事を私に見せて、どう思うかと聞かれたことがあります。そこに書かれていたことはすべて真実だと思いましたが、同時に、これを読んでアメリカの政治問題が理解できる日本人はいないと思いました。ましてや、私の書いた文章は、多分間違いだらけで、これを読んでわかるのは、米国の政治問題よりも、むしろ私の偏見でしょう。しかし、一応米国に住んでいますので、日本の皆さんよりは身近に感じていることがあるはずですし、それを知っていただくことは全く無駄ではないかと思い、書かせていただきました。皆さんも、陰謀説と悪徳不動産業者には騙されないように、くれぐれもご注意ください。