Youtubeで不動産コラムをながら聴き

アメリカ議会襲撃に参加した会員(リアルター)を全米不動産協会は罰するのか

全米不動産協会NARとは

連日、1月6日水曜日のトランプ支持者議会襲撃事件の関連ニュースがマスコミをにぎわせていますが、全米不動産協会(NAR)も例外ではありません。「NARは、1908年に創立され、140万人の会員を持つ米国最大の事業者団体で、リアルターという言葉は、NARがその生みの親であり、商標権を持っています。日本の不動産業者の中にもリアルターという言葉を使う人がいますが、果たしてこの商標権を侵害しているのか、それともこの商標権は米国内だけのものなのか、その辺は知りません。私は、アメリカでリアルターとして働いていますので、もちろんNARの会員です。私が通訳をしているIREM(全米不動産管理協会)やCCIM(全米認定不動産投資顧問協会)も、その傘下にあります。

NARの紹介はそのくらいにして、この団体が、米国議会襲撃に参加したリアルターを処分するのかどうかということが、話題になっています。NARは、その可能性を否定してはいませんが、具体的なことは述べていません。

この記事を動画で見たい方はこちら

3名の襲撃に参加したと判明した会員(リアルター)

今までのところ、3人のリアルターが参加したことが判明しており、その一人はテキサスで仲介会社を経営していたジェナ・ライアンです。彼女は、事件後、殺害脅迫があり、会社を閉鎖したとのこと。しかし、本当にそんな脅迫があったのかどうかは不明で、会社を閉めたことの言い訳として使っているだけかもしれません。暴力は認めないという声明を出しましたが、SNSでは、議事堂の「窓を割る」と述べており、実際、割れた窓のそばでニコニコしながら写真を撮っています。「ニュースが嘘をついたら次はスタジオを襲撃する」とも書いてあったそうです。議事堂には入らなかったと述べていますが、中にいる写真が発見され、数日後、告訴されました。

シカゴのリビー・アンドリュースは会社を首になりましたが(リアルターは自営業ですので、正確には解雇ではなく、単なる解約)、その後、他の仲介会社と契約したそうです。

最初に告訴されたのはコロラド・スプリングスのクリート・ケラーで、事業用不動産のリアルターですが、会社を辞めたそうです。彼は、2000年、2004年、2008年のオリンピックで計5個のメダルを取った身長2メートル近い水泳選手。背が高い分、顔がよく見える映像が多く残っており、おまけにオリンピック・ユニフォームのジャケットを着ていたそうです。

倫理規定に違反しない限り罰を下すことは出来ない

NARには、職業倫理規定があり、それに違反しない限り罰を下すことはできないとの見解です。倫理規定には、犯罪への関与に関する規定はありません。2020年11月、人種などの差別的言動を仕事以外でも禁じる規定ができましたが、これら3人の言動がそれにあたるかどうかは今のところ証拠がないとのこと。規定には、「リアルターは、人種、肌の色、宗教、性別、障害、家族関係、国籍、性的指向、性別認識に関する嫌がらせの発言、ヘイトスピーチ、軽蔑の言葉、中傷をしてはならない」とあります。

実は、私は、これらを仕事以外でも禁じるというのは疑問に思います。例えば、不動産業で外国人を差別することが法律違反であれば、それは今更倫理規定で謳う必要はありません。ない場合は、外国人を差別することが倫理違反だという規定を作ることは理解できます。しかし、仲介や賃貸などの不動産取引で外国人を差別していない不動産業者が、個人的な会話の中で、例えば特定の国籍の人の悪口を言ったとしたらどうでしょうか。それも倫理違反だというのは、職業倫理の範囲を超えているのではないかと言うのが、私の個人的意見です。

政治的意見は差別的言動ではない

本題に戻りますが、政治的意見は、差別的言動ではありません。ですので、議事堂に差別的な落書きを書いたり、差別的な言葉が書いてあるTシャツを着ていたりしている写真でも見つからない限りは、この新しい規定は適用されないとのことです。襲撃や暴動という罪を犯しただけでは、NARの倫理違反にはならないというのです。

不動産業界サイトのインマンによく投稿しているジェイ・トンプソン氏も、襲撃に参加したリアルターを処分するのはNARの責任ではないという意見です。彼らが罪を犯したのであれば、それを処分するのは裁判所の責任だというわけです。また、不動産のライセンス(日本の宅建のようなもの)を発行するのは州であり、多くの州では有罪になったリアルターはそれを報告する義務がありますので、ライセンスを剥奪するかどうかの決断も州政府がするべきだという意見です。もちろん、ライセンスを剥奪されれば、リアルターにもなれませんので、NARが処分をする必要はなくなるわけです。日本の宅建と違い、このライセンスがなければ、不動産に直接関係のあることは何もできません。

法律・倫理・道徳の違い

NARだけでなく、IREMやCCIMにも倫理規定があり、特にIREMは倫理を大切に考えています。IREMの倫理の授業では、法律、倫理、道徳の違いを教えています。法律を守ってさえいればそれでいいということではなく、違法でなくても非倫理的なことはあるので、それを自主的に規制しようというのが、このような団体の一つの目的です。医者や弁護士に職業倫理があるように、不動産管理士も職業倫理が必要だという考えです。

IREMの定義では、道徳は個人的なもので、人によって異なります。浮気をすることは不道徳だと考える人もいますが、そう考えない人もいます。人に自分の道徳を押し付けることはできません。それに比べて、法律は政府が決めるものであり、倫理は、NARのような団体、またはグループやコミュニティーが決めるものです。明文化されていないときは人によって理解が異なりますので、道徳との境目が明確ではありませんが、NARなどの団体でははっきりとしています。例えば、浮気をしてもいいかどうかはあくまで個人の問題で、道徳的な問題ですが、社長が女子社員と浮気をしたという場合であれば、会社という組織で起きたことですので、倫理的問題になり得ます。

まとめ

これらの暴徒がしたことについてどう思うかは、道徳観が違うのと同じように、それぞれ意見は異なるでしょう。IREMが浮気をした会員を処罰することがないのと同じように、暴徒たちの道徳規範が平均的アメリカ人のそれから逸脱しているというだけでは、処分の対象にはならないでしょう。140万人の会員の中には、彼らに賛同する人もいるでしょうから、処分して反発を食らうことを恐れていると勘繰ることもできますが、訴訟社会のアメリカでは、何事も文書化されている規定に基づいて行動することが求められますし、暴徒の行動が忌まわしいという感情だけで決議をしないということは、民主主義の一つの要ではないかと思います。

以下は参考にしたインマンの記事です。

参考記事①

参考記事②

参考記事③

参考記事④

参考記事⑤

この記事を動画で見たい方はこちら

アメリカ議会襲撃に参加した会員(リアルター)を全米不動産協会は罰するのか
元サイトで動画を視聴: YouTube.