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米国司法省によるNAR(全米不動産協会)独占禁止法違反訴訟の行方:エージェントの違反行為を証明する録音をREXが公表

NAR独占禁止法違反訴訟の行方

先日のブログ、カスタマー・ファーストで、米国司法省がNARを独占禁止法で訴えたことに言及しました。その日に示談になったと書きましたが、示談は、当事者間で合意しても、それを裁判所が認めなければなりませんので、この訴訟は終わったわけではありません。この問題をややこしくしているのが、REXという仲介業者です。NARに属さないで、エージェント制ではなく、従業員を雇って営業している、新しいビジネスモデルです。

米国不動産仲介業の商慣習〜売主が買い側のコミッションを払う〜

米国では通常売主が売り側と買い側のコミッションを払い、媒介契約時に買い側にどれだけコミッションを出すか決めるのですが、売り側の仲介業者は、他の物件と同程度のコミッションを払わないと、買い側のエージェントが買主にその物件を勧めてくれないので、高めに設定します。買い側のエージェントは買主の代理であるにもかかわらず、報酬は売主が出すという理屈に合わない制度によって、コミッションが不当に高くなっているというのが、今回の訴訟の一つの争点でもあるわけです。

REXのビジネスモデル〜買主が買い側のコミッションを払う〜

その是正として、示談では、買い側のコミッションを開示することが義務付けられていますが、REXは、買い側のコミッションを払わないので、1戸当たり平均$2万ほど売却費用が減ると宣伝しています。ですから、買主は、物件価格が相場より安くなっているので、自分がコミッションを払ってでも買ってくれるというのが、REXのビジネスモデルです。しかし、コミッションの額は、当事者間で決めますので、当然、相場より安いことが多くなると思います。

このビジネスが成り立つようになったのは、ジローなどの不動産サイトが普及したからです。それまで、NARの元で運営されているMLS(売り物件サイト)に物件を載せなければ、売ることが難しかったのですが、今はジローやレッドフィンなどのサイトを見ている人の方が多いでしょう。NARは、MLSに載ってない物件は、サイト上で分けて表示するようにジローなどに要請し、MLSに載ってない物件が消費者の眼に触れないようにしようと図りましたが、そううまくは行きませんでした。

REXがNARを訴えた内容

今は、大多数の買主が自分で物件を探しますので、REXが物元になっている物件を見つけた場合、内見の手配を自分のエージェントに頼むわけですが、頼まれたエージェントは、まだREXのビジネスモデルを知らない人が多く、なぜMLSに載っていないのか、いくらコミッションがもらえるのかを知りたくて、問い合わせの電話をすることが多いのです。そして、REXの仕組みを聞いて、その物件を買主に見せないことが多いので、REXもNARを相手に訴訟したわけです。

REXはエージェントとの電話の録音を公開

REXの従業員との会話の三つの録音が、今回REXのサイトで公開されました。かいつまんで訳してみましょう。あるコロラド州のエージェントからの電話で、クライアントが見たいと言っている物件がなぜMLSに載ってないのか、問い合わせがありました。以下がその会話の続きです。

REX従業員:「MLSに載ってないのは、実は弊社では物件をMLSで宣伝してないからです。それで、売主は買主のエージェントのコミッションを払わなくてもいいのですが、無報酬で働いてくださいと言うわけではありません。通常、買主のエージェントは買主から報酬をもらうようになっていて、弊社のオンラインのオファー提出のプロセスで、それが簡単にできるようになっております。」

エージェント:「だったらいいです。内見はしませんから。…皆(同業者)にお宅とは取引しないように言っておきます。」

次はフロリダのエージェントです。

エージェント:「誰がコミッションを払うのですか。私が売ったらいくらもらえるのですか。」

REX従業員:「特に決まった額はございません。交渉次第です。」

エージェント:「冗談でしょ?もういいです。失礼しました。」

カリフォルニアの買側のエージェントからの、REXがコミッションを払うのかというという問い合わせに関する会話は、以下の通りです。

REX従業員:「弊社からの報酬はございません。それは、通常買主が払います。オファーを出すときに、それを物件価格に足すのです。つまり、買主が物件にオファーする額にコミッションを足すのですが、それは通常買主が直接支払いします。

エージェント:「物件はもう売れたと言っておきます。ありがとうございました。」

インマンがREXに質問

REXによると、これらの録音は、2020年11月19日に司法省がNARを訴える一つの材料になったとのこと。インマンは、なぜ今この録音を公表したのか、いつ録音したのか、このような録音が他にいくつあるのか、司法省に提出した録音とは今回公表したものか、REXに問い合わせをするエージェントの多くは協力的なのかそうでないのか、REXはその地方のNAR支部や州の規制機関に録音したエージェントに関する届けを出したのかなどの質問だけでなく、REXが買い側のエージェントにコミッションを払わないので内見をしないエージェントがいることを顧客に伝えているか、買い側のコミッションを支払いたいかどうかを売主に聞くか、などを問い合わせましたが、答はなかったそうです。

NARの反応

録音が公表される数日前、NARのチャーリー・オップラー会長がREXを非難する論説を発表し、私も読みましたが、あまり説得力のあるものではありませんでした。唯一そうかもしれないと思えたことは、マイホームを初めて購入する人にとって、売主がコミッションを払ってくれることは、助けになるということです。しかし、彼らもそのうち売る側に回るわけで、コミッションが全体的に下がる方を望むでしょう。

録音についてNARはどう考えているのか、インマンがスポークスマンのマンティル・ウィリアムズ氏に尋ねたところ、以下のような返事でした。

「申し立てに関してですが、全リアルターは、専門家意識、消費者保護、黄金律(「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」という聖書の教え)に基づいた厳しい倫理規範に縛られています。申し立ての電話が倫理規範に違反していることが判明すれば、消費者がその地域や州の支部に苦情を申し立てることを強く奨励し、それによって倫理調査が始まり、色々な懲戒処分を受け、MLS利用の権利を停止あるいは剥奪することにもなります。州の不動産エージェントの免許発行機関も、ライセンスの停止あるいは剥奪などの処分をすることができます。」

見ての通り、これは何らかの申し立てがあったときの手順を説明しているだけで、これらのエージェントによる違反の有無どころか、訴えの内容が真実であった場合にそれが違反行為になるかどうかさえ、言及していません。

NARの別のトラブル〜消費者の集団訴訟〜

NARのトラブルはこれだけではありません。3人の買主が、2021年1月25日に、NAR、リアロジー(センチュリー21やサザビーなどの不動産マスター・フランチャイザー)、ケラー・ウィリアムズ、RE/MAXなどのフランチャイズを相手に、集団訴訟を起こしたのです。彼らの言い分は、売り側の仲介業者が買い側のコミッションを決めているが、そのコストは最終的には物件の売値に上乗せされており、直接それを払うのは売主だが、間接的には買主が払っているというものです。買主が直接買い側のエージェントとコミッションを交渉したら、もっと下がるはずだというのです。

買い側のコミッションを売り側が設定していることによって、物件の売り出し価格が上がっているかどうかは難しいところですが、REXが売り物件を相場より$2万安く売りに出して、買い側のエージェントにコミッションを払ってでも購入したい買主がいるということは、この集団訴訟の論拠になると思いますし、買い側がコミッションを設定したら競争によって下がるということも、正しいでしょう。

不動産業波乱の時代が到来?!

その後、これと似た訴訟が全国で他に4件起きていますし、3月6日には、売主が同様の訴訟を起こしました。これらの訴訟は、不動産フランチャイズとNARが、不当にせしめたコミッションを全購入者に賠償しろというもので、1996年までさかのぼって賠償を求めているケースもあります。

しかし、この訴訟の恐ろしいところは、賠償金よりも、原告が勝訴した場合、今までのコミッション形式が違法になるということです。米国不動産市場は、まさに波乱の時代を迎えています。米国が訴訟社会であることは決して良いことではないと思いますが、3人の一般市民が、百年以上続いてきた不動産ビジネスモデルを改革できるかもしれないということが、米国を世界のリーダーにしているのではないかと思わされます。

参考 A commission suit with a twist: It's the buyers who are getting screwedinman 参考 Compass, Sotheby's roped into latest suit alleging 'inflated' commissionsinman 参考 Agents envision potential shakeup from DOJ-NAR lawsuitinman 参考 NAR claps back on commission attacksinman 参考 A commission suit with a twist: It's the buyers who are getting screwedinman