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イースターとウクライナ

 私は、99歳の母の世話をしていますが、母は週1回、デイサービスに行きます。先月、デイサービスのイベントで、イースターのお祝いがあったので、今年のイースターを4月ですけど、なぜ3月にするんですかと聞いてみました。すると、デイサービスの方も困った様子で、いろいろ話をしていると、なんとイースターがキリスト教の祭日だということもご存じなかったそうです。今日は、イースターにちなんだお話をしたいと思います。

 ある学者によると、世界一古い祭日は、ユダヤ教の過ぎ越しの祭りだそうです。ユダヤ人は、3千年以上この祭日を祝っていますが、「過ぎ越し」とは、変な名前ですね。何を過ぎ越すのでしょうか。

「十戒」(1956年)

 「十戒」(1956年)や「エキソダス:神と王」(2014年)は、エジプトで奴隷になっていたユダヤ人の脱出の物語を映画化したものです。ちなみに、エキソダスとは、脱出と言う意味で、紀元前1200年ころの出来事です。

「エキソダス:神と王」(2014年)

 ユダヤ人をエジプトから去らせるよう、モーセがファラオに説得するのですが、ファラオは大切な労働力を失いたくはないので、かたくなに拒みます。そこで神はエジプトの地に災いを送るのですが、ユダヤ人には、家の門柱と鴨居に子羊の血を塗れば、災いがその家に訪れることなく通り過ぎる、つまり「過ぎ越す」と、モーセに告げるのです。蛇足ですが、八幡宮の鳥居は赤く、形も門柱と鴨居に似ていますので、エキソダスがその由来だという説もありますが…?

 ユダヤ人には、羊を生贄として捧げるという儀式がありました。と言っても、殺した羊は食用に使われましたので、このときも、子羊を殺してその血を門柱と鴨居に塗り、肉は、エキソダス出発前夜の最後の食事になったのです。神様に捧げる生贄を食べてしまっていいのかと思うかもしれませんが、ユダヤ教の生贄は、他の宗教と少し異なります。通常、生贄とは神の怒りを鎮めるためのものですが、ユダヤ教では、罪の贖いの象徴なのです。

 と言われてもピンとこないでしょう。ユダヤ教では、人間の善悪を相対的に比べることはしません。日本人は、人と比べて自分がそんなに悪い人間でなければ、極楽往生できると考える人が多いでしょう。キリスト教同様、ユダヤ教では、罪のない人は一人もおらず、全ての人は赦されなければならないと考えます。本来なら、罪の罰を自分が受けなければなりませんが、子羊をその代わりに殺すことで赦されるという、象徴的な儀式だったのです。

 この出来事を祝ったのが過ぎ越しの祭りなのですが、キリストの最後の晩餐も、過ぎ越しの食事だったのです。キリストは、その晩自分が捕らえられ、殺されることを弟子たちに告げました。代用品の子羊ではなく、神の子ご自身が殺され、門柱ならぬ十字架に自らの血を塗ることによって、全人類の罰を受けるためでした。そのキリストの復活を祝うのが、復活祭、イースターです。

 自由の象徴

 歴史を通して、エキソダスは、奴隷解放や自由の象徴になりました。黒人霊歌もその一つの例です。「モーセよ、エジプトの地に行ってファラオに告げよ。『私の民を去らせよ』と。」この歌詞は、聖書から来た言葉です。逃亡奴隷だったハリエット・タブマンは、女性でしたが、黒人モーセと呼ばれ、多くの黒人奴隷の逃亡を助けました。彼らは、「モーセよ、行け」を、暗号の合言葉として使いました。

 ジェファソンとフランクリンが提案した米国国璽

 米国建国の父であるトマス・ジェファソンとベンジャミン・フランクリンも、米国国璽に、エキソダスをテーマにしたデザインを提案しました。イギリスからの独立とエキソダスが重なったのでしょう。このデザインは、結局採用されませんでしたが、そこには、「暴君への抵抗は、神への従順である」という言葉が刻まれていました。

自由の大切さ

 ピュー・リサーチは、「あなたの人生を意味ある、充実した、満足できるものにするのは何ですか」と言う国際的なアンケート結果を発表しています。17のオプションの中から複数選ぶもので、最もよく選ばれたのが、家族と子供だそうです。それ以外が1番になった国は、スペインの健康、韓国の物質的幸福、台湾の社会だそうです。米国では、家族の次が友だちで、その次が物質的幸福。日本は、家族の次が物質的幸福で、3番目が健康だそうです。仕事が2~3番目に来る国も多数ありました。

 案外少なかったのが自由です。最も多かったオランダでも、答の一つに選んだ人は20%、自由の国アメリカは10%、日本は6%で、イギリスとシンガポールは5%しかありませんでした。ピュー・リサーチは、アンケートを取ったほとんどの国で、自由が当たり前になっているからではないかと分析しています。

 しかし、ロシアに侵攻されたウクライナでは、当たり前ではなくなりました。キエフ市長が、ロシアの奴隷になるくらいなら、死んだほうがましだと、会見で述べました。米国独立戦争の時、パトリック・ヘンリーも「我らに自由を与えよ、さもなくば死を」を言う、有名な演説をしました。ウクライナ人も、同じ気持ちで戦っているのでしょう。米軍にしか占領されたことのない私たち日本人には、理解が難しいかもしれません。

キーウのビタリ・クリチコ市長(元ボクシング・チャンピオン)

 エキソダスは、ユダヤ人のアイデンティティーを確立する歴史的な出来事でした。ウクライナも、占領されてウクライナのアイデンティティーを抹消されるどころか、一層確立されています。

 ウクライナの復活祭は、ソビエト連邦時代、抑圧されていましたが、1991年の独立後、「復活」しました。今年の復活祭は4月17日ですが、ウクライナ正教会では、24日に祝われるそうです。

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イースターとウクライナ
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