アイナハイナに住んでいるクレイトン・チャンさん(74歳)は、3年半待って、洪水で損傷した自宅の建築許可証をやっと手にしました。すぐに出るものと思っていたチャンさん夫婦は、家具を物置に入れ、仕方なく洪水の被害に遭った戸建てのリビングにエアマットレスを置いて、寝泊まりしていました。
洪水でソーラーパネルが壊れ、電気が足りない状態でした。日の当たらない日はぬるま湯のシャワーです。短い期間だから我慢しようと思っていたのが、3年半もかかったと言うわけです。業者と契約したのは2020年の3月だったそうで、その時の見積はもう無効です。
エリック・ソーダ―ホルム夫妻は、身障者向けに車を改装する仕事をしています。工場が手狭になってきたので、近所に$500万の土地を購入し、2019年12月に建築許可を申請しました。1年も待てば出るだろうと思っていたそうですが、実際に出たのは2年半後。駐車場の許可は早く出たのですが、駐車場だけできても意味がないので、工場の建築許可を待っていたところ、駐車場の許可も切れてしまい、またやり直しです。
従業員のために作る予定のジムにどのような機械を入れるかなど、建築許可とは関係ないと思われるようなことまで調べられたそうです。同じことを何度も聞かれ、イライラしたそうですが、口論になって余計に時間がかかるといけませんので、我慢したとか。建築許可の専門家に申請を頼んだそうですが、効果なし。いっそのこと許可なしに建てようかとも思ったそうですが、そんなことをしたら取り壊しを命じられるかもしれません。土地を2年半寝かせておくためにかかった費用は$100万近くに上ったそうです。
DPP(Department of Planning and Permitting)都市計画建築許可局
これをどうにかしようと、ホノルル市議が動き始めました。現在、建築許可を申請して1年経つと、DPPは申請を最初からやり直すように命じることができます。そうなると、申請料も再度支払うことになります。申請料は建築許可料の20%で、$50万の平均的な家を建てるとすると、$1,000を超える額です。
アンドリア・トゥポラ議員が提出した第58法案は、申請料の75%を申請者に返金するようにさせようと言う案です。トゥポラ氏によると、承認にかかる期間は平均247日だそうです。市は、AIを取り入れるなどして、それを短縮しようとしていますが、それでも167日はかかると言うことです。今まで、長くかかって困ったのは申請者だけでしたが、これからはDPPにもその責任の一部を負わせることによって、手続きの円滑化を図ろうと言うことです。
トゥポラ氏は、10月に第56法案も提出しましたが、これは、既存の建物の修理に建築許可は必要ないとするものです。現在のところ、$5,000以上かかる修理はすべて許可が必要ですが、水漏れの修理を247日も待つわけにはいきませんので、実際にはこの法律は守られていません。皆がこれを守るようになれば、DPPはパンクします。
また、建築基準法の見直しを現在の隔年ではなく、6年に一度にするよう州議会に強く要請するという決議も含まれています。2年おきに法律が変わったのでは、対処が大変です。また、人材が25%も足りないDPP職員を早く雇うよう、ブランジアーディ市長に強く要請すると言う決議も含まれています。
お役所仕事とはこんなもの?
現在、DPPには、市長と考えが合わないと言う理由で最近辞職したディレクターのディーン・ウチダ氏を含め、80人の欠員があります。就任直後、市長は市の雇用を凍結し、DPPは一人も新規採用ができませんでした。現在、市長は、足りない80人だけでなく、それプラス80人雇って、業務の円滑化を図ろうとしています。
しかし、この記録的な低失業率の最中、そううまくは行きません。DPPは、一昨年の汚職事件で5人の職員が逮捕され、士気は最低。人事課は、対応が遅く、予定された面接の日が来る前に、求職者が他の仕事を見つけてしまうという状態です。審査に半年もかかると言うのですから当然です。何とか雇われた人は(たぶん、他の就職先がない人だと思いますが)、トレーニングが行き届かず、問い合わせの電話に出ても何と答えてよいかさえ分からないので、すぐに辞めてしまいます。
人材不足に拍車をかけているのが給料の安さ。現在初任給は経験次第で$36,564~$54,108。ホノルル市では、年収$63,228以下が低所得者とみなされますが、DPP職員の大半がこれにあたります。労働組合は、賃金引き上げ交渉を歓迎すると言っていますが、市長にはその気はないそうです。
特に居住系は人材不足で、たったの8人でやりくりしています。一人当たり月353件の申請を処理しなければなりません。そこで、ePlanと言うシステムを作り、すべてを電子化して、効率化と透明性を図ろうとしたのですが、それでも汚職を防止することはできませんでした。
水道局や消防署など、申請書がたらいまわしにされて、設計のどこをどう変えなければならないかと言うコメントは、最後まで申請者が見ることができないのです。これではかえって逆効果。また、このコメントがまるでうちの河野社長が書いた文章のようによくわからないことが多く、以前のように電話して聞いた方がよほど早くできると言うのです。
商業系は未だに紙を使っていますが、よく紛失するそうです。犯人はDPPの職員以外にあり得ませんが、申込者はまた何百ドルもかけて印刷のし直しです。やっと許可が下りたころには、金利や材料費が上がって、結局建てられないと言うこともあります。業者も、いつ許可が下りるか分からないので、工事計画の立てようがありません。特定の業者がえこひいきされて、他の人に順番が回ってこないとも言われています。
挙句の果てに、市は一部の申し込みの承認を外注し始めたのですが、本来認められるべきでないものが認められてしまうこともあり、監査をしなくてはならなくなりました。しかし、そうすると今まで以上に時間がかかるので、現在は抜き打ちテストのみ。トゥポラ議員も、少々の間違いは仕方がないとあきらめて、外注を増やすべきだとの意見です。
もう一つの解決策は、先述したAI導入です。また、DPP臨時ディレクターのタケウチ・アプナ氏は、建築基準法の見直しも検討しています。アプナ氏によると、建築に関する申請者の知識が低すぎて、DPP職員が手取り足取り教えてあげなければならないのも、原因の一つだと言うことですが、それはホノルルだけの問題なのでしょうか。
とにかくこの二つの法案が可決されることを祈るばかりです。
このブログを動画でチェック