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欺かれた信頼: 詐欺まがい商法の相続悲劇

 80代の父親が亡くなり、遺産として8000万円ほどの現金が残った。奥さんと一人娘がこれを相続することになったのだが、さっそく銀行の営業マンがやってきた。

 「このままお母さんが亡くなって相続したら、大きな相続税がかかりますよ。」

 税金対策をするべきだとあおるのだ。

 ちなみに8000万円の遺産相続は、最大に見積もってもせいぜい680万円にしかならない。しかし、不安におののいた娘さんに、良い相続対策があると銀行マンは囁く。

 「この8000万円を元手にアパート経営しましょう。銀行が1億4000万円の融資をするので、合計2億2000万円の土地と物件を購入できます。建物と物件運用に関しては銀行がしかるべき大手の工務店と不動産会社を紹介します。」

 これによって相続税は確かに支払わなくてもよくなった。女性は1億4000万円の借金を抱えることになったわけだが、不動産収益があるので入居者がいる限り返済は家賃から賄える。また毎月いくらかは純利益も出る。一見すると悪くない話だ。

借りる時点で5千万円損するカラクリ:市場より5千万円高く買わされた

 しかし、このケース、弊社がよくよく調べると、物件は2億2000万円ではなく、1億7000万円で売りに出ていた物件だった。工務店が一度物件を1億7000万円で買い取り、それを2億2000万円で転売する形になっていたのだ。「中間省略」という詐欺まがいの売買方法で、差額の5000万円を丸々業者が懐に入れていた。

 それだけじゃない。家賃収入が100万円くらいあり、銀行への毎月返済が約70万円。本来なら毎月税引前で30万円が女性の手元に残るはずだ。しかし、不動産会社がサブリースして管理を一切請け負い、毎月28万円もそこから差し引いていた。彼女の手元に残るのは月額1万円か2万円だ。

 通常、不動産管理料などは収入の5%ほどもあれば十分だ。この場合なら、せいぜい月5万円。家賃収入のほぼすべてをむしり取っていたのだ。

 さすがのこの女性もなんだかおかしいということで相談に来たわけだ。弊社の河野社長が彼らのやり方を説明し、1億7千万円で売りに出たときの資料を見せると、只々驚き、あきれるばかり。知識や情報が少ないと見るや徹底的にむしりとる。それがこの世界の実態なのだ。

 ちなみに、最初にこの話を持ってきた銀行は、すべてのお金の流れを知っているのだから完全にグルだ。しかし銀行自体はポケットに入れているわけでもなく、中間搾取の事実など知らないと言い張れば済むだろうから、罰されることはまずない。

 工務店や不動産会社の悪質なやり方は、価格設定をごまかしているだけでなく、利用者に圧倒的に不利な契約を強いているということも大いに問題になっている。とにかく情報や知識がなく、投資の知識が乏しい事によって起きるリスクを多くの人に知ってもらいたい。無知であるがゆえに、どれだけ大切な資産が不用意に業者にむしり取られているか知ってほしい。

情報を身につけているつもりが単に洗脳されているだけ!?

 知らない人たちに付け込んで、詐欺まがいの商法でお金をふんだくる業者が悪いということは確かだ。しかし、何でも言われるがままに従う方も悪い。自分で考え、比較検討しようとしない無知で無防備な利用者にも責任の一端がある。

 特にこれから超高齢社会になって、遺産相続などの案件が増えるほど、投資の知識の有無が大きな差になって出てくる。自由化の波に覆われている昨今は、銀行でさえも、いやむしろ大手銀行ほど競争に勝ち抜くため、強引な営業をせざるを得ない。

 まして営業マンが親切だからとか、優しくこちらの話を聞いてくれるとか、情緒的、感情的な理由で物事を判断するなどというのは問題外。人を騙す詐欺師の多くは強面の人物ではなく、「あの人がまさか?」というような温厚で親切な人物を装っている。逆にうちの河野社長のように、強面で厳しいこともはっきり言うような人のほうが信頼できると思ったほうが良い。

 日本人と欧米人の投資知識は、なぜこんなに違うのか。私は日本とアメリカ両方に住んでいるのでよくわかる。その理由はいくつもあるだろう。

 米国では、年金だけでは老後の備えが足りないと言う理由で、個人年金を奨励するシステムが整備されている。その一つが個人退職年金だが、その他にも似たような仕組みがある。

 何に投資するかは本人が決めなければならない。定期預金は金利が低いので、株式投資が多いが、自分で株を選んでいる時間はない。もしその会社に何かがあって株価が急落すれば、そのニュースを聞いてから売ったのではもう遅い。そこで、大多数の人は投資ファンドを買うが、投資ファンドと言っても山ほどある。自然と、どういうファンドに投資するべきか、勉強することになる。こうして投資の知識が高まるわけだ。

 それだけではない。高校の授業でも株式投資ゲームをして勉強する。生徒一人一人がいろいろ調べて株を購入すると言うゲームだ。生徒たちは、様々な経済や投資の評論家の記事を読み、自分で考えて投資する訓練をするわけだ。

 それに比べて、日本人は専門職を信頼して、頼る傾向がある。アメリカ人のお宅に招かれて、奥さんが自分で焼いたケーキを出してくれたとしよう。「これはお店で買ったんじゃないですか」と言うと、日本ではお世辞だが、アメリカでは侮辱だ。心を込めて自宅で焼いたケーキのほうがおいしいに決まっている。確かに日本の企業はサービスもいいし、製品の質も高い。それに比べて、開拓精神旺盛な米国人は、何でも自分でしようとする。日曜大工などはそのいい例だ。

 携帯電話のように、どこの店で買っても同じで、商品に関する情報がそろっている市場を完全市場と呼ぶ。不動産は、どれ一つとして全く同じ商品はなく、一つ一つの物件に関する情報は、専門家は分かっていても、素人には分からない。これを不完全市場と呼ぶ。これだけAIが進んでも、不動産の評価ができないのはそのせいだ。ひと昔前、情報が揃ってなかった時代の中古車市場のようなものだ。素人が騙されやすい原因がそこにある。

 だからこそ米国では職業倫理が強調される。医者や弁護士だけではない。不動産屋は、河野社長みたいに大学でゴルフばかりして、7年かけて卒業した人間でもなれるが、専門知識があると言う点では、弁護士や税理士と変わりない。医者が儲けるために必要もない手術をしたらどうなるか。先程のアパート経営の例は、まさにそうだ。

 米国では、基本的に何事についても自己責任の精神が根付いているので、投資についても自分で勉強して知識を深める。そして顧客の立場に立ってコンサルをしてくれる会社を自分で見つけてコンサル料を払い、資産のコンサルを任せることが習慣になっている。

 しかし日本は、まだ欧米に比べて投資についてよく勉強している人も少なく、料金を払ってコンサルをしてもらう習慣も根づいていない。実際、正しく顧客の立場に立ってコンサルのみをしてくれる会社も今のところ数が少ない。日本のコンサルは、業者や銀行がやっていて、コンサル料もいらない代わりに、顧客の立場に立ったものではなく、自分の会社の利益を狙ったものになっていることが多いのだ。

 しかし投資の勉強が足りない日本人は、それがコンサルだと思って自分の資産を任せてしまい、先に述べた例のように痛い目にあってしまうことがある。騙されたことすら気が付かず一生を終える人も多い。

 これからは、自分の資産を守り増やすために、料金を払ってコンサルを頼む習慣が日本でも根付いてくることを願っている。しかし、業者や銀行がコンサルをしている今の時点では、日本人個人個人が自分の資産を守るために資産管理の知識を高めることに努力しなければならない。また、顧客の立場に立ち、顧客の利益のためのコンサルをしてくれる実力のある業者や銀行を選べる力を養うことが大切だ。

 私が講師をしているCCIM(全米認定不動産投資顧問協会)では、資格を取るために自分がどんな仕事をしてきたかをまとめて提出しなければならない。ところが、日本の不動産業者の提出書類には、「コンサルをして仲介した」と言う事例がよく出てくる。すると、米国本部から、どっちなんだと言う質問が来る。米国では、一つの物件でコンサルと仲介両方をすると言うことはない。コンサルをした上で仲介をすれば、そのコンサルは利益相反になる。

 とは言うものの、CCIMの資格を持つ者がコンサルをするのは、かなり大きな案件だ。戸建てや数戸の小さなアパートに投資する個人投資家が、お金を出してCCIMにコンサルしてもらうことは米国でもほとんどない。

 それでも日本人のように騙されることが少ないのは、いろいろな人の話を聞くからだ。一人の仲介業者、一つの銀行、一人の会計士に頼るのは危ない。日本だって、探せば誠実な銀行員や仲介業者はいる。何人かと話をして、比較検討することが重要だ。また、コンサルは誠実であるだけではだめだ。特に相続は簡単ではない。誠実でかつ能力のある人を見つけることが最重要。

 比較検討するのは人だけではない。物件もそうだ。また、同じ物件でも、それをどのように運営するのか、つまり、現状維持か、大規模修繕をするかなど、いろいろな代替案のシミュレーションを比べることが必要だ。その人に能力があるかないかは、代替案の分析を見るとわかる。この母娘のような目に逢う方がいなくなることを願ってやまない。

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相続詐欺まがい商法悲話:不動産業者と銀行がグルになって親子を騙した例
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