Youtubeで不動産コラムをながら聴き

ハゲタカファンドの「墓場のダンサー」ことサミュエル・ゼル氏、死去:弊社で米国不動産投資ファンド設立

 株式投資ならウォーレン・バフェット、不動産ならサミュエル・ゼルと言っても過言ではない。純資産は$52億だ。と言ってもピンとこないだろうから円に換算すると、1ドル=140円として7280億円にもなる。彼は米政府に次ぐ大家だったそうだ。一世代でこの富を築いたのだが、5月18日に亡くなった。

 彼は「墓場のダンサー」と呼ばれているが、実はそれは自らをそう名乗ったそうだ。悪がってそう自称したのではないだろう。彼の信条は「汝は自らを深刻に考えすぎることなかれ」だったそうだ。これは、たぶんYou should not take yourself too seriouslyの訳だと思う。「自分自身をあまり真剣に受け止めるべきではない」と言う意味で、英語ではよく使われる表現だ。自己卑下した言葉で、「墓場のダンサー」も自虐的ジョークかもしれない。

 彼は、リーマンショック直前の2007年2月、米国最大のリートを4兆円で売却したことでも知られている。

 弊社の河野社長は、1998年、ゼル氏に会う機会があった。彼の会社では、驚いたことに社員全員カジュアルな格好で迎えてくれ、そこへ、ジーンズにカジュアルなシャツ、ペプシ片手に現れたのが、ゼル氏だった。

 米国でリートができたのは1960年だが、彼はその成長に拍車をかけた。不況で銀行が貸し渋っていた90年代当初、彼はリートで大小投資家から金を集めて投資したのだ。

 ゼル氏によると、リートが拡大することにより、不動産情報公開が進み、不動産市場は透明性のある市場へと進化した。闇夜の市場は何も見えずに、市場そのものが危ない方向へ走る可能性がある。しかし、透明な市場は市場そのものにコントロールされ、安定すると言うのだ。同行した日本人の中で、この意味を理解したものが何人いただろう。河野は、そう案じながらも、日本も変わると直感した。

 当時、日本はバブルが崩壊し、山一や長銀などが破綻し、まさに闇夜の市場だった。当時は、デューデリなどと言う言葉さえなく、IREM(全米不動産管理協会)のセミナーで通訳するのに困ったのを覚えている。2001年9月にJリートが始まって、だんだんとゼル氏の言葉の意味を理解できた人は増えただろうと思う。賃料や利回りなどの情報が公開されて、透明性が改善された。しかし、ゼル氏はまだ満足してはいなかったのだ。

 ハゲタカファンドが日本を食い物にしていたころも、彼はあえて日本で投資をしなかった。投資家のお金をこのような暗黒市場につぎ込むことは、ファンドマネージャーの信任義務に反すると考えたのかもしれない。私が個人的に雇っているファンドマネージャーも、同じ理由で中国の株には投資しない。

 ゼル氏は、リートのマネージャーとして、株主に対する受託責任を負った。株主に最高のリターンを提供することが自分の最大の責任だと言う。彼自身、最大の個人株主として自らのリートに投資していたのだ。

 日経ヴェリタスで、「米国では第一級の物件が(リートに)組み込まれている。日本ではそうではない。いい物件は三菱地所が保有している。」と、亡くなるちょうど15年前、2008年5月18日に述べている。彼から見ると、日本市場はまだまだリスクが高過ぎたのだ。彼が日本であまり知られていないのは、日本市場にほとんど参入しなかったためだろう。

 日米のリートの違いについては、長くなるし、私も専門的なことはよくわからないので、その説明は勘弁してほしい。ゼル氏に言わせると、その差は大きいのだ。

 JLLの2020年グローバル不動産透明度インデックスによると、日本の不動産取引の透明性は世界16位で、中の上だ。南アフリカ、中国、マレーシアなどと同じグループ。米国は英国に抜かれて2位になったが、日本とは比べ物にならない。日本はこれでも少しずつ良くなってはいるのだが、それはJリートのおかげだ。しかし、そのJリートも、彼の基準は満たしていなかったのだ。

 米国でも、REITが登場したことで、ビル管理・運営が投資家によって常に評価されることになった。その前提として、すべての段階での事業の透明性が求められる。日本のようなおかしな癒着構造や不可解な料金設定など、米国では考えられない。不動産業界全体が、証券化に代表されるように、透明性と公共性が強く求められ、それに応える仕組みになったのだ。

 ゼル氏は1980年代の不動産投資を振り返り、所有物件の鑑定だけが価値の尺度だった当時と現在を対比してこう言った。「不動産会社は、単に物件のコレクションから、いかに運営するかに価値の尺度をシフトした。…質の高い運営によって収益を拡大する会社が評価されるという意味で、他の産業と同水準になりつつある。」

 講義の後、彼のリートが購入した物件をいくつか見学に行った。最初に行ったビルを見て、河野はドキモを抜かれたそうだ。それは、シカゴの証券取引場やテレビでよく紹介される商品取引場を始め、100社ほどの企業が入っているビルだった。文なしの学生だった彼が、30年の間にこれほどの規模のビルを何百棟も支配できる不動産投資家になりえるとは、これぞ正にアメリカンドリームだ。

 ちなみに、そのビルの所有者は、数年前まで日本の企業だった。これは推測に過ぎないが、収益還元法など知りもしないで高値で購入し、バブルがはじけて売却したのだろう。当時、私もIREMの授業で、建物の価値は収益で決まると言うごく当たり前の話を通訳していて、そんなこと始めて聞いたという受講生が多かった。

 定期借家が始まったのは2000年だった。普通借家では、テナントはいつ出て行くか分からない。家賃減額請求で、いつ家賃が下がるか分からない。そんな仕組みの中で収益還元を成り立たせるのは難しい。それに比べ、米国では購入前に各テナントの賃料、契約期間、保証金など、契約内容がすべてわかる。ちなみに、普通借家と言うのは米国にはないし、多分他のどの国にもないだろう。

 弊社でも、そのような米国物件を日本人投資家に購入していただきたいと前々から思っていた。いくら日本の物件より収益も透明性も高いとはいえ、買える物件はせいぜい数棟だ。また、オーナー本人の目が行き届かないので、管理士に完全に任せてしまうことになる。IREM会員に管理してもらえば安心とは言え、長距離オーナーの唯一のメリットは、米国旅行を経費で落とせるくらいのことだろう。

 そこで、米国不動産投資ファンドを組成することを考えた。リートを組成するということになると大ごとだ。実は弊社は日本で初めて地方でリートを組成したのだが、とにかく規制が厳しく、規模が大きくなければ運営費で収益が減ってしまう。幸いこのリートは購入した物件が良かったのでかなりの収益にはなったが、もう懲りた。しかもそれを米国でするなどというのは、想像の域を超える。

 そこで、日本で投資ファンドを組成することにしたのだが、これも日本政府が法律でがんじがらめにしていて、不可能ではないが、手数料がかかりすぎる。それを避けるため、米国にごく普通のファンドを作ることになるだろう。日本人が投資するためには、納税者番号を持っていない人は、米国にLLC(有限責任会社)などの法人がなければならない。ペーパーカンパニーなので、簡単に作れる。

 このファンドは、いったんできてしまうと、日本で適正投資家以外の日本人に勧誘することはできない。今こんなことが書けるのは、まだファンドが存在しないからだ。自分は適正投資家なのだろうかという疑問を持っておられる方は心配する必要はない。これは、ごく限られた人たちで、我々凡人には関係のない話だ。

 日本の投資家が、米国への投資はリスクがあると言うのをよく聞くが、これは全く理解に苦しむ。確かに、日本の税制をフルに活用するためには日本の不動産の方が良い。しかし、投資としてのリスクは米国の方がはるかに低い。為替リスクは確かにあるが、それは逆だ。リスクを下げるためには、投資を分散しなければならない。円という一つの通貨ですべてを投資することの方が、よほどリスクが高い。

 資金の半分は、物件自体ではなく、建築ローンなどの金融資産に投資する予定だ。これは、独自にするのではなく、既に存在する建築ローン専門の大手金融業者数社に資金提供することになる。

 後の半分はシンジケートにリミテッド・パートナーとして投資する。ちゃんと管理できていない集合住宅を購入し、改装して家賃を上げて売り抜く。現在は金利の上昇で再開発が少ないので、まずは貸付ローンにお金を入れて、直接所有の機会を待つことになるかもしれない。

 前者は10%、後者は20%ほどの総合利回りになる。この程度の利回りは米国では標準的だ。リートのようにいつでも売れるわけではないが、数年で清算する。

 弊社は、日本人が安心して米国不動産に投資できる仕組みを模索してきた。個人が投資するためには、大金をかけて一つ、あるいはごく少数の物件に投資することなり、分散できないのでリスクが高い。また、小口の投資家は、分譲マンションを一室買うことさえ難しいという方もいるだろう。その点ファンドなら、米国に法人を作らなければならないとしても、1000万円くらいから投資できる。

 組成するファンドは、ジェネラル・パートナーが必要とする資金をすべてこちらが出すわけではない。複数のリミテッド・パートナーの一つとして資金を提供するので、一つの物件に出す額は数千万円程度。それを何十あるいは何百とするわけだから、リスクは分散される。建築ローンも同じで、何百ものローンに分散されている。

 もちろん、ジェネラル・パートナーは評判の良い会社のみを選ぶし、それを選ぶのも経験のあるプロが弊社のパートナーになっている。たまたま河野の親しい友人がこういう仕事をしていたのが、この計画のきっかけとなった。

 組成されるとブログで紹介することはできなくなるので、興味のある方は今のうちにご連絡ください。日本での勧誘はできないので、米国に実際に来ていただいて、投資物件を見ていただきながらの勧誘になる。乞うご期待。

このブログを動画でチェック

リートのサミュエル・ゼル氏死去:弊社で米国不動産投資ファンド設立
元サイトで動画を視聴: YouTube.