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大都市を冷やす方法:シンガポールは気候変動緩和のためにうだる都市部を見直している

 シンガポールの温暖化は、過去60年間の世界平均の倍です。それは、都市国家であるため、国土の大部分がヒートアイランド化するためではないかと思われます。今日は、主にニューヨーク・タイムズの記事を基に、シンガポールにおける温暖化対策について解説します。2050年までに世界の人口の3分の2が都市に集中すると言われていますが、シンガポールから多くを学べるのではないかと思います。

 シンガポールの中心部は、郊外に比べて気温が最高6度も高いと言われています。ちなみに、この温度差の測定方法には色々ありますので、単純に比較はできませんが、米国の大都市では4~5度ほどです。ヒートアイランド化には、以下の原因があると思われます。

  1. 影を作り、自然に気温を下げる植栽の伐採。
  2. コンクリートとアスファルトは、昼間熱を保ち、夜放出する。
  3. 高層ビルが密集し、ビルの谷間の風通しが悪くなる。
  4. 車の排気ガスとエアコン。

 これに対し、シンガポールはどのような対策を打っているのでしょうか。シンガポール以外の例も交えながら、いくつかの方策をご紹介しましょう。

 まず、開発で伐採した植栽を、中庭、屋上、吊り庭などに植えることです。植栽は、地上に影を落とすだけでなく、地下水を吸い上げ、葉から蒸発しますので、気温が下がります。東京の街頭にあるミストファンのような役割を自然に果たしてくれるわけです。ミストファンと違い、大都市に自然な環境を取り入れ、市民の憩いの場所にもなります。

 公園は、その周りの地域より2度ほど気温が低いと言われていますが、これは大きさにもよります。シンガポールでは、いたるところに緑の回廊を設けることによって、町全体の気温を下げています。

緑の回廊

 これは他の都市でも試みられており、コロンビアのメデジンでは、30の回廊に88万本の木を植えることによって、気温を下げることに成功しました。2016~19年にかけて、平均気温は31.6度から27.1度に下がり、地表の平均温度は40.5度から30.2度に下がりました。

メデジン

 それだけではありません。PM 2.5は21.81から20.26に、PM 10は46.04から40.4に、オゾンは30.1から26.32に下がりました。その結果、市の急性呼吸器感染症の罹患率は、住民千人当たり159.8から95.3に減りました。また、このプロジェクト期間中、2,600人の市民が雇用され、107人の貧困地域の住民が庭師の訓練を受けたのです。

 コンクリートやアスファルトよりも維持費が高いですが、最近まで、温暖化緩和のインフラなど、考えたこともありませんでした。植栽を、単なる街の美化ではなく、インフラの一部と考えると、費用対効果は大です。シンガポール政府は、屋上庭園や吊り庭にも金銭的なインセンティブを出しています。吊り庭は、自然なカーテンの役割も果たしてくれます。

 また、屋上に反射塗料を塗ることは、気温を最高2度下げると言う実験結果が出ています。以下の写真にあるように、ほぼ同じビルの片方に普通の塗料、もう片方に反射塗料を塗り、ビル周辺の温度差を計った結果です。ニューヨークでも2009年からこの塗料が使われており、約100万平米の屋上塗装に使われています。

左が反射塗料、右は普通の塗料

 日本では、特に居住系ビルの場合、南向きに建てるのが普通ですが、シンガポールでは逆になりつつあります。そんなことをしてわざわざ屋内を暑くする必要はありません。換気は、ビルの涼しい側から外気を入れ、屋内を冷やして、暑い側に排気します。

 また、個々のビルの省エネを図るのではなく、地域全体に与える影響を考えなければなりません。都市計画が重要で、シンガポールの場合、マリナ湾沿いに、巨大な公園があります。高層ビルは空気の流れを妨げますが、シンガポールでは、涼しい海風が地面に届きやすいように町全体を設計しています。

 また、23棟のビルを一括冷房していますので、個々のビルで空調システムを備える必要性がありません。シンガポールには、エアコン小道と呼ばれる裏通りがあり、両側に立ち並ぶアパートからエアコンの暑い空気が排気されています。ビルでも同じような現象が起こりますので、一括冷房して、できるだけ悪影響がないように排気するのです。

 また、マリナ湾の海水も空調に使われます。ホノルルのダウンタウンのコンド、ハーバーコートにも同様な空調設備があり、IREM(全米不動産管理協会)ハワイ支部の物件ツアーでも、見学に行ったことがありました。

 これらの対策は、地球の温暖化自体を遅らせる効果はほとんどなく、都市部のヒートアイランド化を抑えるものでしかありません。しかし、世界人口の過半数が都市に住んでいるのですから、都市部の気温を安定させることは、とても重要なのです。

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