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不動産ポータルサイトvs.全米不動産協会:売主必見

 今日は、全米不動産協会の下部組織であるハワイ不動産協会のポッドキャストから、米国不動産業界のニュースを解説します。これは、業者向けのポッドキャストですが、業者でなくても、また日本人でもわかるように解説しますので、聞いてみてください。米国不動産、特に高級物件の売却を検討しておられる方には、役に立つ情報かもしれません。

 全米不動産協会(National Association of Realtors, NAR)は、アメリカ最大の不動産業者団体です。リアルターと言う言葉は、不動産業者を意味する普通名詞だと思っていらっしゃる方が多いと思いますが、実はこれは固有名詞で、NARに加盟する不動産業者でなければ使用できない称号です。

 5年前、NARはクリア・コーポレーション・ポリシー(CCP)を導入しました。これは、いわゆるポケット・リスティングを抑制するためのものです。ポケット・リスティングとは、不動産業者が限られた購入者層に密かに物件を売り込み、一般市場から意図的に隠蔽する行為です。

 CCPの下では、売り出し業者が、何らかの公開手段を通じて物件の販売活動をした場合、その物件は1営業日以内にMLSに載せなければなりません。MLS(Multiple Listing Service)とは、NARが運営している売り物件情報共有システムのことです。MLSに載せることによって、すべての不動産業者が閲覧できるのです。公開手段には、庭の看板、Facebookへの投稿、メール配信、複数の仲介業者への営業などが含まれます。

 これは、公平な競争環境を確保することを目的としています。すべての不動産業者は、公開販売されているすべての物件を一か所で閲覧できます。

 MLSに載ると、Zillow、homes.comrealtor.comなどの不動産ポータルサイトにも載る仕組みになっています。購入者は、エージェントから、あるいはこれらのサイトから物件情報を知ることができます。また、すべての仲介業者は、MLSの情報を独自のウェブサイトで公開することもできます。小さな不動産業者でも、市場の売出物件をすべて自社サイトに載せることができるようになっています。

 理論上は素晴らしい話ですよね?しかし実際には、CCPは一部の反発を招きました。一部のブローカー、特に高級顧客に特化したブティック型不動産会社は、極秘のマーケティングができなくなることを快く思っていませんでした。一方、MLSデータを利用してサイトを更新しているZillow等は、すべての物件が24時間以内にMLSに掲載され、それをZillowに転載できることを喜んでいました。

 ところが、全米不動産協会(NAR)は、今年3月25日、すべての物件を公開後24時間以内にMLSに掲載するという規則に例外を設けると発表しました。この免除措置は、「遅延マーケティング免除」と呼ばれ、大きな騒動を引き起こしました。「遅延マーケティング」とは、簡単に言えば、一般向けのサイトで公開される前に、MLSのみによる限定的な未公開販売期間を設けてもよいと言うことです。

 遅延マーケティングをする場合でも、MLSには掲載されますので、他の不動産会社は閲覧できます。一方で、Zillow、Redfin、realtors.comhomes.comなどの不動産検索サイトや不動産会社ウェブサイトでの掲載はしばらくの間できませんので、一般人は見ることができません。

 重要なのは、売主の不動産会社は、この限定期間中も売主の住宅を販売できるということです。NARの「遅延マーケティング免除」は、売主と不動産会社が、売主のニーズと利益に沿った方法で、この期間中に売主の物件を自由に販売できることを明示的に規定しています。

 例えば、ハワイ一の高級住宅街であるカハラの高級物件で遅延マーケティングをすると、どうなるでしょうか。不動産業者は、売り出し中の看板を庭に置いたり、仲介業者の顧客リストにメールを送信したりして、個人的に自由に営業できます。買主は、自分がそのような看板を見るか、あるいは自分のリアルターを通してのみ、その物件について知ることができるのです。

 この限定マーケティングの期間はどうでしょうか?NARは、シカゴの本部が画一的な制限をすることはないと決定しました。各地域のMLSが、許容できる遅延期間を設定する裁量権を持ちます。NARのケビン・シアーズ会長は、各MLSに対し、仲介業者や関係者と協議して、9月30日の実施期限までに、各市場にとって最適な期間や方法を決めるよう奨励しています。

 ハワイでは、オアフと隣島のMLSがそれぞれ異なる遅延期間を設定するかもしれません。免除期間は市場によって違ってもいいですが、無期限にはできません。免除期間満了前に売れなくても、延長はできません。

 遅延マーケティングを選択する売主にとってもう一つ重要な点は、売主がその決断を理解していることを示す、書面による開示に署名することです。これをインフォームドコンセントと呼びます。

 NARは、売主が二つの売り方の違いをよく理解した上でサインすることを促しています。遅延マーケティングと従来のマーケティングの唯一の違いは、遅延マーケティングがMLS以外のサイトに載らない限定的な公開マーケティング期間を設けている点です。

 売主が一般のネット掲載を控える理由など、あるのでしょうか。最初から最大限に宣伝したほうが良いのではないでしょうか。ほとんどの場合はその通りで、売主は、広く網を張る方が得策です。買主が多ければ多いほど、最高額で売れる可能性が高くなります。

 しかし、売主の中には、ゆっくりと公開することを好む人もいます。ハワイの高級住宅市場では、著名人が高級住宅を売ることがよくあります。セレブ、裕福なオーナー、あるいは単にプライバシーを好む人は、自分の物件がすぐにインターネット上に公開されることを望まないかもしれません。大谷選手がハワイの物件を売るとしたらどうでしょうか。彼がどんな生活をしているのだろうかと、大勢の見物客が来ることを嫌がるでしょう。

 また、売主が、市場の反応を見る機会にもなります。遅延期間中、誰からも問い合わせがないようであれば、価格が高すぎるのかもしれません。一般向けのネットで宣伝する前に、早いうちに知っておくのが賢明です。

 売主は、当然ながら物件がなかなか売れないのではないかと心配します。ほとんどのサイトは、新しく売りに出た物件を順番に並べて表示することができるようになってます。家をネットで探している人は、ほとんどの場合、新しく売りに出た物件しか見ません。例えば、毎週末探している人は、その一週間に売りに出た物件しか見ませんので、何か月も前にサイトで見た物件を思い出して、再検討すると言うことはありません。

 MLSには、売りに出て何日経過しているかを表示する欄があります。例えば2週間の遅延期間があるとすると、一般のサイトに出るようになるのは15日目からです。だとすると、毎週、一週間分しか検索していない買主は、そのような物件を見逃すことになります。

 しかし、MLSは、物件が最初の限定公開マーケティング期間を終了するまで、市場掲載日数のカウントを開始しないように設定するかもしれません。各地域のMLSがそのように決定した場合、MLS以外のサイトでの掲載が始まるとき、新規売出物件として掲載されるので、新規売出が2回あるような効果になります。

 これは、大手不動産検索サイトの影響力を下げるチャンスだと考えている仲介業者もいるでしょう。多くのエージェントは、Zillowなどに手数料を払って宣伝しています。閲覧者からサイトを通して問い合わせがあると、1案件当たりいくらという料金を払わなければならないのです。

 いいと思うかもしれませんが、昔はそんなことする必要なかったのに、今はそうでもしないと儲からないと愚痴っている業者は多いのです。Zillowは「ただもらった物件情報を使って俺たちから金を取り上げている」という訳です。遅延マーケティングがあると、少なくともしばらくの間、Zillowなどのサイトへの支払いを回避できるようになります。

 当然のことながら、Zillowは面白くありません。Zillowはすぐに自らの立場を表明しました。NARが新たな遅延マーケティング免除を発表してから約2週間後、Zillowは独自の新ポリシーを発表しました。彼らはこれを「リスティングアクセス基準」と呼んでいます。

 Zillowの新しいリスティングアクセス基準では、MLSデータフィードに登録された物件は、Zillowにも登録する必要があるというものです。つまり、遅延マーケティング免除は認めないと言うことです。Zillowの閲覧者も、不動産業者が物件情報を一時的にでも公開停止にすることを喜ばないでしょう。

 そのため、来月から、MLSフィードから公開を遅延した物件は、たとえ短期間でもZillowに全く表示されなくなります。Redfinもこの動きに加わりました。RedfinのCEOであるグレン・キルマン氏は最近、MLSデータフィードを通じて一般公開される前に、限定的なマーケティング免除期間を経た物件の掲載を拒否すると発表しました。

 とは言うものの、それらの物件を一つ一つどうやって見分けるのかはよく分かりません。ですので、ZillowやRedfinがこの新しいポリシーをどのように施行するかは正確には分かりません。

 NARは、最近の訴訟やスキャンダルでその影響力が弱まり、ZillowやRedfinなどがNARに対峙していると言う構図があります。しかし、すべての大手不動産検索サイトが、NARが新たに導入した限定的なマーケティング例外措置に足並みを揃えて対応しているわけではありません。Homes.comは、Zillowほど有名ではありませんが、ライバルであり、有力な不動産検索サイトです。

 homes.comのCEO、アンディ・フローレンス氏は先日、Zillowはやり過ぎだと批判しています。彼は、遅延販売を禁止するZillowの新方針は、エージェントから取っている広告費の収益を守るためのものに過ぎないと述べました。フローレンス氏は、homes.comは不動産業者に優しい姿勢を維持すると約束しています。homes.comに掲載される前に一定期間限定公開を経由した物件であっても、Homes.comに掲載すると言うのです。

 ハワイの不動産業界にとって、この対立は単なる理論上の問題ではありません。地元不動産業者の存在感が強い一方で、州外からの購入者への依存度も高く、彼らはZillowのような大規模な不動産検索サイトで物件を探すことが多いのです。

 私個人の意見では、売主にとっては二つの方法がありますので、選択肢が増えていいことだと思います。高級物件でなくても、短期間MLSだけでマーケティングして様子を見て、一般公開するときに売出価格を調整すると言うのは、賢い売り方だと思います。

 私は、時々ホノルル・ボード・オブ・リアルターの住宅市場データを紹介していますが、その中で重要な数字の一つに、売買契約までにかかる日数と言うのがあります。短いときは売り手市場、長いときは買い手市場です。しかし、実はこれにはカウントされていない数字があるのです。

 それは、結局売れなかった物件で、その数は決して少なくはありません。それらの物件は、売買契約に至らなかったので、契約までにかかる日数とは言えませんが、売り止めになるまでの日数も含めて計算すると、ずっと大きな数になります。そのような物件には、売り出し価格が高すぎて、忘れ去られてしまった物件が多いのです。

 リアルターは、安く売りだしたほうが早く確実に売れるので、安く設定することを好みます。しかし、高く売りに出すと、後で値段を下げてもインパクトが少ないと言うのも事実です。高く売れれば売るが、別に売れなくてもいいと思っていらっしゃる方は別ですが、確実に売りたい方は、この遅延期間を利用して、市場の反応を見るのがいいかもしれません。

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