米国では、投資コンサルをする前に、通常、依頼者のリスク許容度のテストをします。日本では、ほとんど利用されてないと聞きましたので、今日は、どのような内容で、どのように使うかを解説します。
つべこべ言う前に、テストの例をまずお見せしましょう。まず、よく聞かれるのが、この質問です。
- 年齢
- 65歳以上
- 45~64
- 35~44
- 25~34
- 24歳以下
なぜ年齢を聞かれるのでしょうか。それは、歳を取るにつれてリスクを減らさなければならないからです。例えば、S&P500のインデックス・ファンドに投資したとしましょう。この表は、1981年以降40年間のS&P500の実績です。平均的な労働者の就労年数が40年くらいであることが、40年にした理由です。年平均増加率は9.58%で、就職した年に1,225,500円投資していれば、21年の年末にリタイヤするときには、47,661,800円になっていたということです。
年 | 年末終値 | 増減 |
1981 | 122.55 | -9.73 |
1982 | 140.64 | 14.76 |
1983 | 164.93 | 17.27 |
1984 | 167.24 | 1.40 |
1985 | 211.28 | 26.33 |
1986 | 242.17 | 14.62 |
1987 | 247.08 | 2.03 |
1988 | 277.72 | 12.40 |
1989 | 353.40 | 27.25 |
1990 | 330.22 | -6.56 |
1991 | 417.09 | 26.31 |
1992 | 435.71 | 4.46 |
1993 | 466.45 | 7.06 |
1994 | 459.27 | -1.54 |
1995 | 615.93 | 34.11 |
1996 | 740.74 | 20.26 |
1997 | 970.43 | 31.01 |
1998 | 1,229.23 | 26.67 |
1999 | 1,469.25 | 19.53 |
2000 | 1,320.28 | -10.14 |
2001 | 1,148.08 | -13.04 |
2002 | 879.82 | -23.37 |
2003 | 1,111.92 | 26.38 |
2004 | 1,211.92 | 8.99 |
2005 | 1,248.29 | 3.00 |
2006 | 1,418.30 | 13.62 |
2007 | 1,468.36 | 3.53 |
2008 | 903.25 | -38.49 |
2009 | 1,115.10 | 23.45 |
2010 | 1,257.64 | 12.78 |
2011 | 1,257.60 | 0.00 |
2012 | 1,426.19 | 13.41 |
2013 | 1,848.36 | 29.60 |
2014 | 2,058.90 | 11.39 |
2015 | 2,043.94 | -0.73 |
2016 | 2,249.26 | 10.05 |
2017 | 2,673.61 | 18.87 |
2018 | 2,506.85 | -6.24 |
2019 | 3,230.78 | 28.88 |
2020 | 3,756.07 | 16.26 |
2021 | 4,766.18 | 26.89 |
右の欄は前年比増減率ですが、見ての通り、上がり下がりが激しく、株式投資がハイリスク・ハイリターンであると言われる所以です。21年末にリタイヤした人は、最後の3年で倍近くになりましたので、ラッキーでした。しかし、2002年の年末にリタイヤした人はどうでしょうか。最後の3年間で半分近く減り、1,469.25が879.82になりました。歳を取ってリタイヤが近づくと、せっかく40年近く貯めてきた資産がなくならないように、リスクが低い債券などが投資に占める割合を増やしましょう、と言うことです。
2. 今投資するお金は、何年後に必要になりますか。
1. 1年
2. 2~5年
3. 5~10年
4. 10~20年
5. 20年以上
これは、最初の質問とよく似ていますが、投資するお金が必要になるのは、必ずしも歳を取ってリタイヤするときではないというのが、この質問をする理由です。早くリタイヤしたいと思っているかもしれませんし、3年後にコンドを購入するための頭金に使うのかもしれません。
コンドは、建築が始まる前に手付金を払って購入契約をし、完成後に実際に購入するということがよくあります。頭金を作るためにS&P500に投資して、半分になり、頭金が足りなくなれば、買えなくなって、手付金を失うことになりかねません。すぐに必要なお金は、リスクの低いものに投資するべきです。
3. 投資目的は何ですか。
1. 元金保全
2. 毎年、収入を得るため
3. 収入と価値の上昇
4. 保守的な価値の上昇
5. 投機的な価値の上昇
元金保全の一例は、コンド(分譲マンション)の組合の積立金です。所有者の皆さんのお金ですので、株に投資して減ってしまったのでは困ります。そういう場合は、確実に元金を保全できる定期預金などに投資します。
2の例は年金です。具体的な例を挙げた方が分かりやすいと思いますので、米国のある保険会社の商品を使って説明しましょう。50歳の男性が、一時払いの即時年金保険に5万ドル投資すると、10年間の受取保証なら年間$5,832、20年なら$3,455支払ってもらえます。利回りは2.88%ですが、早く死ぬと損します。
この年金は10年あるいは20年後に資産価値が0になりますが、3は、収入があるだけでなく、資産価値も増えるというものです。
株や債券に1億円投資して、年平均7%の収益が見込まれるとします。その通りになればの話ですが、初年度の収益は、1億円×7%=700万円です。4%にあたる400万円を生活費に充てると、投資した資産は1億300万円に増えます。2年目にそのまた4%を生活費に充てると、初年度の400万円より3%増えて412万円になります。このようにして毎年使えるお金が3%増えますので、インフレが3%だとすると、購買力は落ちないことになります。
4と5は、どちらも資産を増やす投資ですが、4はより堅実、5は投機的な投資です。ベンチャーキャピタルなどは、投資しても成功する会社は1%もないそうですが、うまく行くと大儲け。宝くじとまではいきませんが、かなりのギャンブルです。
4. 現在の収入は将来どうなりますか。
1. 将来劇的に減る
2. 将来少し減る
3. 変わらない
4. インフレに沿って増える
5. 劇的に増える
将来収入が減ると、投資資産を生活費に宛てなければならなくなるかもしれません。リタイヤではありませんが、それに近い状態になるということですので、リスクは抑える必要があります。
5. 緊急時の備えはどれだけありますか。これは、貯金、定期預金、マネーマーケット、投資信託などの額で、借りることのできる金額やカードの利用可能額ではありません。
- なし
- 生活費3か月分
- 生活費6か月分
- 生活費9か月分
- 生活費12か月分
生活に余裕がなければ、わずかな資金でリスクの高い投資をするべきではありません。資産がなくなるだけならまだしも、債務を負って投資をするのはさらに危険です。米国では、代替投資と呼ばれるリスクの高い投資は、一定以上の資産がなければできません。
6. 投資の経験は、以下のどれに当てはまりますか。
1. 投資をしたことはありません。
2. 投資をし始めて、まだ数年です。
3. 自分自身の投資戦略を学び始めています。
4. 投資をし始めてもう長く、適切な投資決断をする能力に自信があります。
5. 投資の熟練で、株や金融市場などの知識も豊富です。
投資経験の浅い人は、誤った決断をする可能性が熟練よりも大ですので、リスクは避けるべきです。
7. 投資のリスクに関して、以下のどの投資なら安心できますか。
1. 普通預金や定期預金など、元金が保証されているものなら、安心して投資できる。
2. 普通預金や定期預金もありますが、債券や、債券に投資する投資信託にも投資しています。
3. 色々な株や債券の投資信託に投資していますが、堅調なものにしか投資しません。
4. 主に、成長株や、成長株の投資信託に投資しています。
5. 私は、新興成長企業や積極的な成長株の投資信託を選ぶのが好きです。
これは、投資家の性格に関する質問です。年齢など、客観的な事柄は、今さら聞かなくてもわかっていることが多いですが、投資家が個人的にどれだけのリスクを許容できるかは、非常に大切です。リスク許容度テストには、このような投資家の性格を判断することのみを目的としたものもあります。性格的なリスク許容度をより具体的に測るのが、次のような質問です。
8. あなたなら、以下のどれに投資しますか。
1. この投資の過去20年間の利回りは平均0~1%です。下がったことはありません。
2. この投資の過去20年間の利回りは平均2~3%です。1年以上続けて下がったことはありません。
3. この投資の過去20年間の利回りは平均4~5%です。1年以上続けて下がることもありましたが、珍しいです。
4. この投資の過去20年間の利回りは平均6~7%です。平均以上に上がる年も多いですが、下がる年も多いです。
5. この投資の過去20年間の利回りは平均8%です。平均よりかなり高い利回りが長く続いたこともあれば、その逆もまたしかりです。
もうお気づきになった方も多いと思いますが、全ての問の答は、1が最もリスクが低く、5が最も高い答です。実際にご自分で答えてみて、点数を足してください。1を選んだ場合は1点、5を選んだ場合は5点で、その合計を出してください。
1. 非常に保守的 (8~12点)
2. 保守的 (13~20点)
3. 平均的 (21~28点)
4. 積極的 (29~36点)
5. 非常に積極的 (37~40点)
このテストは、FPが顧客の金融資産ポートフォリオを決めるときに使うものです。FPは、金融商品を売らないとコミッションがもらえませんので、不動産の直接所有を勧めることは、通常ありません。
不動産仲介業者が、顧客にこのテストを受けてもらうことはありません。不動産は、全体的に見てミドルリスク・ミドルリターンですので、金融商品のようなリスクの幅がないからです。株価は会社がつぶれたら0ですが、不動産は建物がつぶれても土地の価値は残ります。
しかし、リスクの幅が全くないわけではありません。新築の物件は、どちらかと言うと、ローリスク・ローリターンです。しかし、日本では、分譲マンションなど、新築プレミアムが高く、ローリターンどころか、ネガティブ・リターンになって損をすることが多いので、気を付けてください。築古物件は、どちらかと言うとハイリスク・ハイリターンですが、大規模修繕や改築などをする場合はさらに高くなります。
もう一つ不動産投資について言えることは、レバレッジをかける、つまりローンを借りることによってハイリターンにすることができるということです。株式投資でもレバレッジをかけることができないわけではありませんが、非常に危険です。特に日本の銀行は、顧客によってはフルローンを出してくれることもありますので、相当なハイリターンになりますが、金利が安く、リスクはそれほど高くはなりません。
最後に、リスク許容度に関して日本特有のことがあります。それは、日本人の許容度が他国に比べてかなり低いということです。これにはいろいろな理由があると思われます。一つは、戦後、日本政府が国民に貯金を奨励し、当時は国有であった郵便局が金融機関になったことです。国民は、知らないまま国債を買わされていたようなものです。
もう一つは富裕層の税金の高さです。税金が高いと、資産を増やすことより、節税方法に目が行くようになります。節税策は、非生産的なものが多く、適切なリスクを負った健全な投資が、自然と減ります。
最も大切ではないかと思われる理由が、金融リテラシーの低さです。リスク許容度テストにもあったように、誰も、理解できないもののためにリスクを負いたくはありません。自然と、自分で理解して決断をするのではなく、信頼できる人に任せるようになります。そこに目を付けた悪徳業者が、羊の皮を着たオオカミのように、国民を食い物にしています。
「汝自信を知れ」とは、ギリシャの有名な諺です。リスク許容度テストは、自分が許容できるリスクを教えてくれ、それに合った投資が何であるかを示してくれます。しかし、それだけでは足りません。「汝投資を知れ」と私が言っても、諺にはならないでしょうね。
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