アラモアナショッピングセンターの向かいのスカイが、来月竣工します。1棟がコンド、もう1棟がホテルコンドですが、ホテルと駐車場階の間、9~14階はアフォーダブル住宅です。繁華街ですので、1階は店舗です。他は完売したのですが、アフォーダブル住宅が、84戸のうち70戸売れ残っています。私は、ハワイにいる時はアラモアナのフィットネスセンターにいつも通っていますので、ついでに営業所に行ってみることにしました。
アフォーダブル(お手頃)住宅は、市や州が開発の条件として業者に義務付けているものです。開発業者は、高級コンドを開発した方が儲かるのですが、それでは一般市民が購入できず、その多くがお金持ちの別荘として使われます。そこで、地域の世帯収入中央値(AMI)、あるいはその1.2倍程度の収入の人でも買える一定数のユニットを、同時に開発しなければならないと言う法律を作ったのです。
以前は大人気でした。大量の申し込みがあり、くじ引きで購入者が決まります。しかし、あまりにも条件が良すぎるのではないかということで、厳しくなりつつあります。そのため、スカイの場合、500件の問い合わせがあったにもかかわらず、くじ引きを申し込んだのはたったの20戸しかありませんでした。ローンがもらえないなどの理由で実際に購入できたのは8戸で、その後も6戸しか売れていません。
アフォーダブル物件は、ハワイ在住者でなければ購入できず、購入後も何年か住まなければなりません。その期限が切れる前に売る場合は、アフォーダブル物件として安く売らなければならないとか、譲渡益の一部を市や州に還元させるなどして、転売目的で買うことがないようにしてあります。以前は、2年後に自由に再販できたものもあり、すぐに転売する人が多かったので、これではいけないということで、今は10年が多くなっています。
ところが、スカイの開発業者は、アフォーダブル物件の開発戸数要件を減らしてもらう替わりに、この期間を10~30年に延長すると市に提案し、それが認められました。ほとんどが299平方フィート(28平米)のワンルームであることを見ても、できるだけアフォーダブル物件に使う面積を減らしたいという開発業者の意図が伺えます。1LDKは424平方フィート(39平米)、2LDKは489~622平方フィート(45~58平米)です。
アフォーダブル制約期間が長過ぎる
その結果、全然売れなくなってしまったのですが、米国では、30年も一つの物件に住み続けること言うことはほとんどありません。一生に6~7回買い替えるのが普通で、日本のように一度買ったら死ぬまで住むなどということは、こちらでは考えられません。
日本人は、死ぬまで住める家を買おうとしますので、今だけでなく将来のニーズも満たす住宅を買いますが、住宅価格が上がり続ける米国ではそれは困難です。とりあえず今買えるものを買い、値段が上がったら売り、それでできたお金を頭金にして次の家を買います。その頃には収入も増えていて、ローンの額も増えるでしょう。
ところが、スカイは、制約期間中は年1%しか値段を上げることができません。ということは、今$30万のワンルームを購入すれば、29年後には$38.7万($30万+$30万×0.01×29年)でしか売れないということです。
ちなみに、過去30年の統計は見当たりませんでしたが、20年だと、コンド再販価格中央値の上昇率は212.5%です。ただ、注意しておきますが、これは過去20年間、高級物件が増えた、と言うより高級物件がより贅沢になってきたので、中央値が吊り上がったのです。20年前に$30万で買った物件が今$30万×3.125=$93.75万で売れるというわけではありませんので、ご注意ください。
金銭的制約
ハワイ最大の新聞、スター・アドバタイザー紙の記事は、この制約期間が長すぎることが売れない理由だと述べていますが、問題はそれだけではないようです。要件の一つは、ローンや共益費などの支払いが収入の33%以下でなければならないというものです。
ユニットによって異なりますが、収入がAMIの100%、あるいは120%以下でなければ、購入資格がありません。独身世帯の場合それぞれ$91,500か$109,800、二人世帯なら$104,500か$125,400、3人だと$117,600か$141,120、4人は$130,600か$156,720。2LDKでも5人までしか住めないのですが、その場合は$141,100か$169,320です。ハワイの所得は低いのですが、日本の賃金がどれだけ上がってないか、これを見ても歴然としています。
と言うことは、100%のユニットだと、独身者の場合、毎月の支払いが$91,500÷12か月×0.33=$2,516以下でなければなりません。これは、固定資産税、共益費、保険だけでなく、他のローンの支払いも含んだ額ですので、十分な額のローンを借りることができない人が多いのです。
33%は通常のローンよりかなり低い数です。このパーセンテージの相場は、45~50%くらいです。金利が低かったときはまだよかったのですが、今は半分以上頭金を払わなければならないということもあり、しかも収入の低い人ほど頭金が増えます。
ということは、アフォーダブルであるにもかかわらず、かなりの資産を持っている人でないと買えないということになります。ところが、総資産額がユニット価格を上回る人は、購入資格がありません。そんなに資産のある人は、普通の住宅を買えということです。必要な頭金はあるが、ユニット価格以上の資産はないという人でなければ買えないのです。
ワンルームは狭すぎる
現在、84戸のうち、14戸しか売れていません。30年の制約期間のものは43戸中4戸売れ、20年は2戸しかありませんが二つとも売れ、10年は39戸中8戸売れました。ユニットサイズでは、2LDKが18戸中6戸、1LDKが6戸中5戸、ワンルームは60戸中3戸が売れています。価格は2LDKが$398,000~$515,000、1LDKが$321,000~$380,000、ワンルームが$272,000~$309,000です。また駐車場は別で、1台分$38,000です。
1LDKは6戸中4戸が30年、2戸が20年ですが、1戸しか売れ残っていません。それに比べて、ワンルームは10年物が31戸あるにもかかわらず、3戸しか売れてないのです。これを見ると、売れないもう一つの理由はワンルームが狭すぎるということではないかと思われます。アラモアナ地域でこんなに狭いワンルームと言えば、コンドホテルのアラモアナ・ホテルくらいしかないと思います。
28平米と言うのは、ホテル並みの狭さで、購入するのは独身者だけでしょう。しかし、向こう10年間に結婚したらどうなるのでしょうか。ワンルームには二人までしか住めないという規制もありますので、子供も作れないし、子連れの配偶者と結婚することもできないかもしれません。市は家庭の事情を考慮して例外処置を認めてくれますが、子供がいなくても、夫婦で28平米のワンルームに住むのは大変です。
解決案
30年物は、所得制限を中央値の120%ではなく、140%に上げましたが、効果はなさそうです。それより、支払いが収入の33%以下という規制を通常のローン並みに上げるべきです。高収入でなくても買えるようにすることが目的のはずですが、なんでこんな規制があるのか不思議です。
開発業者は、市が制約期間を短縮するべきだと言っています。現在、制約期間が60年という開発も計画されているそうですが、そんなものを誰が買うかと言うのです。しかし、ワンルームは制約期間が10年のものも多いので、30年にしたことが原因で売れてないわけではありません。カルドウェル前市長は、制約期間を5~30年としましたが、5年まで短縮しなければ効果は望めないでしょう。
私は、アフォーダブル住宅と言う制度自体に反対で、この制度が原因で開発が進まないのではないかと疑っています。なければ高級物件が増えるだけだと思うかもしれませんが、仮にそうだとしても、総供給が増えれば住宅市場全体の高騰がある程度抑えられるでしょう。高級物件が増え過ぎて儲からなければ、リーズナブルな物件の開発が増えるでしょう。経済の自然法則に任せておいた方がいいのではないかと言うのが個人的な意見です。
しかし、この件は、開発業者が市と交渉したことですので、彼らがその責任を負うべきだと言えます。彼らにできる唯一の方法は、値段を下げることです。利益を増やすためにアフォーダブルの戸数を減らしてもらったのですから、その分、損をするのは仕方がないでしょう。もともとこれらのユニット価格は、市が指定した価格帯の中でも安めに設定したのだから、これ以上は下げられないと言うのが開発業者の主張のようです。
スカイの市場価格で売りに出されたユニットは完売していますが、両者の同サイズのユニットの価格を比べると、アフォーダブルは3割以上安いと言います。しかし、アフォーダブルは共益費を抑えるためにプールなどのアメニティーが全く使えませんし、内装も異なりますので、単純に比較することはできません。ちなみに、アフォーダブルの共益費は月$181~388ですが、市場価格物件は$487~846です。
とにかく、売れないのであれば、売れるようになるまで価格を下げるよりほかないでしょう。制約期間を長期化するという市の方針は、頭金ゼロでも購入でき、支払いが家賃程度でなければうまく行かないような気がします。そうすれば、アパートに住むよりはましで、ローンの支払いで自己資産が増え、数年後に数%価値が上がるだけでも、次に購入する物件の頭金ができるでしょう。