相続には、事業継承やM&Aが絡むことが多い。この組織は、日本全国の中堅中小企業を対象に、M&Aを仲介する組織だ。全国のM&A対象の企業を調査して、ピックアップしている。
企業の買収だから、もちろん不動産も大いに関係している。ちなみにこの組織には地方の企業の情報がたくさんあるということで、銀行も契約を結んでいる。とくに地方銀行の銀行マンなどは情報収集のために同センターに研修に行くこともある。
この組織は、経営が難しくなり売却を考えている全国の中小企業に出向いて行って、M&Aを勧める。「どのくらいなら売却しますか」と相手の希望を聞いたうえで、買い手を探すのだ。
ところがここに大きな問題がある。買い手側はどういう人物か。そもそも買い手は大資本で、そういう売り主をたくさん抱えている。それは仕方がないとしても、問題は、その買い手とこの組織がほぼ同じ立場であると言ってもいいほど近い関係だということだ。
買い手である大資本は、この組織を通して、できるだけ安く手放すように仕向ける。例えば5億円で売りたいというのを、「もう少し安ければ売れるのですが」と4億円で売却させる。そしてその報酬として5000万円のキックバックをもらうのだ。
数字は私の勝手な設定だが、要はこのような癒着が組織にあるということだ。本来、こんなことは、先進国には考えられないことだ。仲介者が一つで両方の利益を代表するということが現実に起こりえるわけがない。不動産でいえば両手仲介だ。不動産ならまだ素人でも大体の価値は分かるが、会社の価値評価は難しく、両手仲介は自然と利益相反になる。
米国の場合は企業や物件を売りたい側の代理人、一方は買いたい側の代理人がそれぞれに立って、その両者で交渉を進め妥当な線で契約を結ぶ。法治国家であればこれが当たり前の姿だ。不動産売買でも、両手はしないと言う業者がいるくらいだ。両手をして、利益相反で訴えられた場合、負けることが多いからだ。
ところがわが国の方はどうかと言うと情報力と資金力に長じた買い手側が大きな組織を作り、それが仲介者として売り手側と買い手側をつないでいる。これでは勝負は最初からついているようなものだ。情報も経験も少ない売り手側は、百戦錬磨で大組織の買い手側のいいように転がされるだけだ。年間いくつもM&Aを行っている買い手はプロ中のプロ、売り手はいつも初心者だ。
このような構造的な矛盾、本質的な矛盾に対して、内外から誰も異議を唱えない。唱えたとしてもかき消されてしまう。矛盾があっても大きな変化を求めない、日本人と日本社会特有の保守性と閉鎖性がそこに現れているのかもしれない。現状維持症候群とでもいうのだろうか。
売主専門の代理業者もいるが、彼らは正当な商売をやっているので、バカ儲けはしない。したがって、宣伝費も限られており、見つけるのは大変だ。急成長している会社は要注意と言っていいだろう。この組織の場合、まるで非営利団体かなと思わせるような名称や宣伝をしているので、特にご注意いただきたい。
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