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割引キャッシュフロー攻略⑥TVM(Time Value of Money)貨幣の時間的価値

 投資期間全体の収益率

今までは、単年の収益率の話でしたが、これからは、投資期間全体の話をしたいと思います。今回は、そのイントロだと思ってください。

ある物件を買って、毎年いくらかのキャッシュフローがあり、数年後それを売って売却益が出た場合、その投資の利回りを計算するためには、初年度のNOIやキャッシュフローだけを見たのではできません。極端な例ですと、更地を購入して、値上がりを待って数年後に売る場合、初年度のNOIやキャッシュフローは0、いやそれどころか固定資産税などで赤字になりますから、キャップレートもCCR(キャッシュ・オン・キャッシュ)もマイナスになりますが、数年後に高く売れれば儲かるわけです。

逆に、過疎化が進んでいる地域の物件を購入して、最初は稼働率が高かったのでCCRが高かったが、そのうちテナントが出て行って、購入時よりずっと低い価格で売らなければならないような場合は、全期間を通してみると、収益率が非常に低い、あるいは損をする可能性もあります。

TVMの計算

不動産投資は毎年のキャッシュフローの額が異なりますが、同じである投資もあります。例えば年金商品や、ローンなどです。ローンは投資ではないと思うかも知れませんが、貸す側から見れば投資です。定期的キャッシュフローが同額である場合の方が、計算が簡単ですので、次回から、その計算を先に見ていきたいと思います。これが、通常、TVM計算と呼ばれます。

貨幣の時間的価値~ローンにはなぜ利子があるのか?~

しかし、今回はその前に、貨幣の時間的価値の基本的概念についてお話をしたいと思います。そもそもローンにはなぜ利子があるのでしょうか。儲けるためと言われればそれまでですが、今のお金は、将来のお金よりも価値があるというのがその理由で、主に3つあります。一つは、インフレによる購買力の低下です。最近の日本はインフレどころかデフレ傾向にありますが、私が若かったころは、インフレは抑えなければならないものでした。私が最初に米国でマイホームを売ったのは1980年でしたが、その年のインフレは何と13.5%、住宅ローンの金利は約20%でした。現在の日本では、インフレだけが金利の理由であれば、1%もあれば十分かもしれません。

2つ目の理由は、将来手に入るお金にはリスクがあるということです。実際にそのお金が手に入るという確証はありません。例えば、国債であれば、ほぼ安全だと言えます。第3次世界大戦でも起きればどうなるか分かりませんが、仮にそうなって国に支払い能力がなくなってしまうくらいなら、他のどの投資も当てにすることはできないでしょう。まさに大惨事です。

リスクに関して大切なことは、リスクが高いと思われるものほど、収益率も高くないと、誰も投資してくれないということです。リスクが高いと「思われる」といった理由は、実際のリスクは誰にもわからないからです。投資家が、どれだけリスクが高いかを判断するわけで、それを知覚リスクと言います。倒産しそうな会社の債権を国債と同じ金利で買ってくれる人はいません。逆に、高い収益を求める場合は、それなりのリスクを負わなければならないということも言えます。日本人は一般的に保守的で、元金を保証してくれてしかも収益性の高いものを求めますが、それは難しい注文です。リスクが高いゆえに上乗せしなければならない収益を、リスク・プレミアムと言います。

3つ目の理由は、今あるお金は運用して増やすことができますが、将来手に入るお金は、それまで、増やすことはできませんこれを機会コストと言います。つまり、運用して増やす機会を失うことによってどれだけ損をするかというパーセンテージです。これは投資家によって異なり、5%で運用できるという人の機会コストは5%です。期待利回りとか要求利回りとか呼ばれることもあり、割引率と言われることもあります。

なぜ割引なのか?

割引という言葉が使われる理由は、将来もらうお金は、機会コストで割り引いて、その現在の価値を出すからです。機会コストが5%の投資家、つまり5%で運用できる人にとって、1年後にもらう105万円は、今もらう100万円と同じ価値であり、それは、105万円を5%で割り引いて計算します。実は、これがDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)割引キャッシュフローの基本で、先月までの話は、その前置きだったのです。DCFの攻略は、ここから始まります。