海外不動産の特例に関する税制改正
耐用年数を過ぎた建物を、耐用年数の20%の期間で減価償却できるという特例が、海外の物件に関しては今年の税制改正でなくなるという大綱が発表され、改正はほぼ確実のようです。平成27年頃から改正されるのではないかという話がありましたが、築22年以上の木造物件を米国などで購入し、購入価格の80-90%もある建物価値を4年で償却してきた方にとっては、とても重要な改正になるでしょう。たとえ今年改正されなかったとしても、近いうちにされる可能性は高く、今から対策を練られている方は多いと思われます。
個人→法人への譲渡は有効か
このような投資をしていらっしゃる方は、よくご存じの方が多く、多くが語られていますので、特にこれに関してブログを書く必要性は感じていなかったのですが、いくつか気になることがありますので、書くことにしました。簡単にご説明しますと、大綱では、減価償却自体ができなくなるのではなく、それによる不動産の損失で給与所得の相殺ができなくなるわけですが、これは法人には適用されません。法人をお持ちの方は、法人名義に変更することによって相殺を続けることができますが、その場合、所有期間中の節税の税率と、売却時の譲渡所得の税率が同じですので、節税にはならず、単なる繰延になりますので、費用をかけて法人に譲渡するだけの価値があるかどうか、ご注意ください。
海外の不動産所得との相殺は可
また、そのまま個人として所有を続ける場合、5年間所有することによって譲渡税率が39%から20%に下がりますので、法律が改正されても、当初の予定通り5年間所有を続けるおつもりの方もいらっしゃると思います。しかし、海外の不動産損失は、海外の不動産所得の相殺には使えますので、国外に多額の不動産所得のある方は、今まで通りの節税ができるということになりそうです。
バケーションレンタルはどうなる?
今一つ明確でない点は、ハワイによく見られるバケーションレンタル物件を所有している場合、それを事業所得とみなすことができるかどうかという点です。現在、それを事業所得として申告していらっしゃる方は多数おられると思いますが、これからもそれが続けられるかどうかは分かりません。事業所得は給与所得と合算することができますので、減価償却で発生した事業所得の損失で、給与所得を相殺することは可能です。
バケーションレンタルは、通常の不動産賃貸と異なり、相当のサービスを提供しなければなりませんので、事業所得として申告できたのだと思われます。しかし、国税庁は、バケーションレンタルを雑収入として扱うことを考えているようです。もちろん、それが自分の主な収入源であれば事業所得ですが、高額所得者がワイキキのコンドホテルを一室購入して、自分がバケーションで使うとき以外は、バケーションレンタルとして専門の管理会社に頼んで運営してもらったとしても、それは雑収入となり、給与所得との合算ができなくなることを、望んでいるようです。
改正後それが認められなくなった場合、次に考えられる方法は、概ね5棟10室所有していれば、通常の賃貸でも事業所得として認められるのではないかという点です。しかし、これはあくまでも不動産所得であり、不動産所得の事業的所得という位置付けだそうです。海外においても、その位置付け自体は変わらないかもしれませんが、通常の事業所得とは違い、給与所得との合算がこれからも続けてできるかどうかは分かりません。もしできるということになれば、概ね5棟10室所有し、4年償却を使って発生した事業的損失で給与所得を相殺できるということになりますが、それはまだ分かりません。
借地に建てられた物件で節税
仮にそれができるということになった場合、5棟10室も買えないという方も多いでしょう。その場合、一つの可能性は、借地に建てた物件を購入することです。米国の場合、全て定期借家ですので、借地権が数年しか残ってないものであれば、数万ドルで購入できます。借地期間が終わると、上物は地主に返さなければならないからです。ハワイには借地物件は多く、そのほとんどは鉄筋コンクリートのコンドですが、償却期間は借地の残余期間になり、しかも土地は購入価格に含まれていませんので、取得原価を100%償却できます。
例えば、現在売りに出ている借地物件で最も安いのは、$22,000のワイキキのコンドで、借地権は4年しか残っていません。家賃は月$1,450、共益費は月$552、借地料は月$350、固定資産税が月$63です。管理手数料やその他の経費も引いて、月$300、年$3,600のキャッシュフローがあるとしましょう。$22,000の取得原価を4年で償却しますので年間$5,500、節税は税率が55%だと$3,025です。内部収益率は7.88%になります。節税しているのに「税引き後」という表現を使うのは妙ですが、税引き後としては悪くない内部収益率です。
バケーションレンタルであろうと、「概ね」5棟10戸であろうと、事業あるいは事業的損失と給与所得の合算が認められるのであれば、日本の給与所得と相殺することが可能となります。政府は、海外不動産の4年償却による節税という抜け穴をふさごうとしているわけですが、バケーションレンタル(民泊)を雑収入にするかどうか、また不動産の事業的所得をどう取り扱うかによって、どれだけふさがれるかが決まることになるのかもしれません。