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米国で急成長している新しい不動産フランチャイズ:eXp、コンパス、レッドフィン

 

今日は、不動産テクのアドバイザー、マイク・デルプリート氏による、新しい不動産仲介フランチャイズ3社の分析をご紹介します。3社の年間取引件数の推移、エージェント数、取引平均価格などを紹介し、ユタ州最大のエージェントチームが、ケラーウィリアムズからコンパスに移籍したニュースにも触れます。最後に、エージェント一人当たりの取引総額と件数を分析し、不動産仲介業界の今後について、私の意見を述べさせていただきます。

急成長している3社の特徴とは

 これらの会社は今までのブログにも何回か登場しましたが、それぞれの特徴を簡単にご紹介します。eXpは、バーチャルオフィスの仲介業者で、物理的なオフィスがなく、それで浮いた運営費をエージェントのコミッションに廻すことができますので、エージェント獲得には他社より有利です。

コンパスは、最近上場した会社で、ITを強調していますが、ビジネスモデル自体は従来のフランチャイズと変わりません。つまり、彼らのITは従来のビジネスモデルをサポートするものでしかなく、リアロジー(センチュリー21、サザビー、コールドウェルバンカーなどの多くの不動産フランチャイズのマスター・フランチャイザー)やケラーウィリアムズなどもIT企業だと自称していますので、そう変わりはないのですが、他社から優秀なエージェントを多く引き抜いて、多くの敵を作りました。

レッドフィンは、もともと不動産サイトの会社でしたが、それを利用して仲介を始めました。レッドフィンのエージェントは自営業ではなく従業員で、サイトから来る問い合わせに対応して流れ作業のように取引をし、一人のエージェントが一人の顧客の世話を最初から終わりまでするわけではありません。従来のエージェントのように、営業に時間をかける必要がないので、少人数で多くの取引をすることができるのです。その分、報酬も平均的エージェントの倍以上だそうです。

年間取引数の比較

 

2018年の年間取引数を見ると、リアロジーとバークシャー・ハサウェー・ホームサービスが圧倒的に多く、上記の三つは大きく差をつけられていました。しかし。2020年には、eXpが上位2社との差を大きく縮め、2018年には、それぞれ4位、9位、6位であったのが、2年後には、3位、4位、6位となっています。

以下の線グラフを見ていただくと分かりますが、この3社の中でも、eXpの目覚ましい成長ぶりが伺えます。私も以前から思っていたことですが、米国のエージェントは自営業ですし、オフィスに来る必要性などほとんどないのです。コロナがそれを見事に証明しました。家にいると家族がうるさいとか、仕事以外のことをしてしまうのでオフィスに行くと言う人はいるでしょうが、従業員ではないので、他のエージェントと同僚として一緒に働くことはありません。

唯一オフィスが必要なのは、新人の教育ですが、むしろそれにお金をかけるより、他社で経験を積んだ人を集める方が経済的でしょう。ハワイでもeXpのエージェントがかなり増えてきたという印象です。

もう一つオフィスの必要性があるとすれば、チームを作って働いているエージェントではないかと思います。優秀なエージェントは、一人ではこなせないほどの取引をしていますので、チームを作ってコミッションを分け合うのです。ユタ州最大の53人ものチームが、ケラーウィリアムズからeXpに移ったということがインマンの記事に載りましたが、このニュースも、チームがオフィスで顔を合わせることが必ずしも必要ではないことを物語っています。

エージェントがこの3社にどれだけ移籍しているか

 デルプリート氏の分析は、結局のところ、エージェントを多く集めることのできる会社が勝つというものです。eXpは報酬で釣り、コンパスも優秀なエージェントに多額の契約金を払って引き抜きました。それを如実に表しているのがこのグラフで、2018-20年の、レッドフィン、コンパス、eXpのエージェント数の推移を表しています。

しかし、私はそれよりも、むしろレッドフィンのエージェントの少なさに驚かされます。レッドフィンの強みは、営業に人件費がほとんどかからないので、コミッションを安くできるということです。家を売る人の多くは、次に住む家を同時に購入するわけですが、このホームページを見ると、両方をレッドフィンに依頼する場合の売却のコミッションは1%です。当初は、会社が案件を与えてくれるとはいえ、コミッションの安い会社に入るエージェントに、優秀な人はいないだろうと考えていました。レッドフィンのエージェントに知識がなくて、売主が困っているなどという話を見聞きしたこともありましたが、今はしっかり教育ができて、顧客満足度も高いそうです。

eXpやコンパスに比べて成長は遅いですが、レッドフィンのコミッションが安いということはまだ一般に知れ渡っていませんので、その認知度が上がるにつれて、確実に成長すると思われます。他社は、エージェントがお客様のビジネスですので、もっと条件の良いフランチャイズができてエージェントが移籍すると、客を失うことになりますが、レッドフィンはその心配はなさそうです。

各社の収益と生産性

 

会社の収益は、取引数ではなく、額で決まります。上記は、取引の平均価格ですが、その点では、eXpは平均的です。優秀なエージェントを多く引き抜いたコンパスは、平均取引が百万ドルを超えており、高額ですが、それよりも、むしろ驚いたのはレッドフィンでした。サザビーやコンパスには及ばないものの、3位につけています。レッドフィンのサイトを使っている人は若い人が多いでしょうし、コミッションを値切ろうという人が売る家はそう高くはないのではと思いきや、意外でした。実際、コミッションが1%ですと、通常の3%の業者と比べて、高級物件の場合はかなりの差額になります。

デルプリート氏は、コンパスのエージェントの生産性を他社と比較した記事も投稿しています。生産性は、取引数×平均価格で決まるとしたうえで、米国の取引総額上位20社のエージェント一人当たりの取引総額のグラフを載せています。

文字が小さくて分かりにくいと思いますが、青い棒グラフがコンパスで、3位につけています。優秀なエージェントを多く引き抜いたわけですので、これは当然かと思われます。驚いたのは、eXpが下から2番目だということです。コミッション収入が高いということだけで移籍したエージェントが多いのでしょうか。しかし、それよりも驚くべき数値は、レッドフィンで、2位のサザビーの約2倍ですが、そのビジネスモデルの効率性を表しています。それに比べて、一人当たりの取引総額が2位のサザビーは、取引数ではトップ20社にも入らないことが、以下のグラフで分かります。

この記事の主題であるコンパスのエージェント一人当たりの取引総額は3位でしたが、サザビー同様、一人当たりの取引数は平均以下です。優秀なエージェントは高級物件が多いので、当然のことでしょう。しかし、レッドフィンは、取引数でも2位のリマックスに大きく差をつけています。

ここで気になるのが、デルプリート氏の、「レッドフィンは明らかに外れ値である」というコメントです。ビジネスモデルが異なるので外れ値であると言えるかもしれませんが、それで済ましてよいのでしょうか。彼は、先日上場したコンパスの展望を語っているわけですが、レッドフィンは、ビジネスモデルが違うだけで、違うビジネスをしているわけではないのですから、無視できないと思うのですが、どうでしょう。

大局的情勢

細かい話をしましたが、一歩下がって全体像を見てみましょう。コミッション収入が高いので、多くの人がエージェントになりますが、雇用制ではないので、収入が保証されるわけではありません。ですので、不動産エージェントになる人の多くは、ご主人や奥さんの収入で生活できる人や、時間的に自由な自営業の人です。

そのほとんどは成功できなくて辞めていきますが、成功する人の多くは、不動産売買の実務能力よりも、セールスが上手な人です。フランチャイズのコンベンションなどに参加すると、まるでファッションショーと勘違いしているのではないかと思うような、派手な格好をしている人をよく見かけますが、米国では、リアルターはあこがれの職業だと言えるかもしれません。宣伝に使っている顔写真なども、セレブっぽいものが多いです。

営業にかける時間と労力はかなりのものですが、ITの発達によって、販促はネットでできるようになりつつあり、レッドフィンなどのように、営業能力がなくても、ちゃんと仕事をしてくれる人を雇えば、十分に会社は成り立つようになったのです。そればかりか、レッドフィンは、コミッションを下げただけでなく、従業員への給与も従来のエージェントの倍以上です。

以前からディスカウント仲介業者はありましたが、成功しませんでした。しかし、ITがそれを可能にしました。先日、NARやその他大手フランチャイズに対する独占禁止法違反訴訟に関するブログを書きましたが、争点は、彼らがコミッションを釣り上げているということです。実際にコミッションを割り引いてもビジネスがうまく行かないのであれば、このような訴訟は根拠がないと言われるかもしれませんが、それで成り立っているモデルが存在し、NARやその他のフランチャイズがそれを阻止しようとしているからこそ、問題にされているのです。

米国司法省によるNAR(全米不動産協会)独占禁止法違反訴訟の行方:エージェントの違反行為を証明する録音をREXが公表

わざわざエージェント間で熾烈な競争をして、そのためにお金と時間をかけるよりも、より少数の従業員が、ネットで見た物件の問い合わせを処理し、コミッションを減らしてでも、少人数でそれを分けた方がずっと生産性が高いということです。儲かる仕事は人気があって当然ですが、物件取引に欠かせないのは、世の中に同じものが二つとない不動産の知識であって、営業能力ではありません。

ITが営業をしてくれる今、オートメーションで製造業の雇用が減ったのと同様、不動産エージェントも実務能力に長けている人が生き残るのではないでしょうか。エージェントは、どのフランチャイズが一番有利かを知りたいので、デルプリート氏もその需要に応えてこのような記事を書いているのだと思いますが、今必要な分析は、従来のビジネスモデルのフランチャイズの中で、どの会社がエージェントにとって一番良いかということではなく、ビジネスモデル自体の分析ではないでしょうか。エージェントの数が半分以下になるかもしれないという過渡期に、レッドフィンを外れ値だと言って分析から外して、大丈夫なのでしょうか。

 

参考 Compass, Redfin, and eXp are America’s next top brokerage models: DelPreteinman 参考 How productive are Compass agents? A studyinman 参考 Major Keller Williams team in Utah jumps to eXp Realtyinman