今日は、4月14日に行われたCCIM協会チーフエコノミストKCコンウェイ氏の、2021年第2四半期事業用不動産アップデートから、興味深い内容をご紹介します。45分のプレゼンですし、彼はすごく早口で、要約しても相当長くなりますので、サマリーというよりは、ブッフェの摘み食いです。内容は、インフレと連邦準備銀行、インフラ整備、居住系の家賃滞納と人気市場変動、コロナ後の商業系不動産、海外からの米国不動産投資です。
実は、コンウェイ氏は去年、コロナでオンライン開催になったCCIM春季コンフェレンスで、名誉CCIMの称号を授与されました。CCIMの50年以上の歴史の中で、それまで名誉CCIMの称号が授与された人は6人しかいなかったのですが、彼のような人にとっては、肩書が一つ増えたというだけのことでしょう。実は、私も同時に名誉CCIMを授与され、プレスリリースの中に私の名前が彼と並んで書かれているのを見て、非常に恥ずかしい思いをしました。
米国はインフレしているのか?
まずは、インフレ懸念から。住宅市場は過去1年で16%も上がっており(ちなみにハワイでは17%)、建築費も高騰。特に鉄鋼は倍以上で、日本の日銀に当たる連邦準備銀行理事会のパウエル会長が、経済の加熱を抑えるために金利を上げないことを痛烈に非難。ご自身2005年から10年までバーナンキ会長のアドバイザーをした経験から、理事会は不動産のことなど何も理解していないと罵倒していました。
その一例が、建築ローンの金利準備金で、これがあるから建築業界は大丈夫だと思っている理事がいたとのこと。金利準備金とは、建築ローンの金利を支払うための予算ですが、理事たちは、「準備金」と呼ばれるので、金利を余分に払わなければならなくなった場合の予備だと誤解していたのでしょう。コンウェイ氏は、そんなことも知らない理事たちの見解など信用できないというわけです。
しかし、パウエル理事長を弁護する人もいます。彼は、トランプ大統領から金利を上げたことを非難されたことがありました。当時のトランプ大統領の非難に根拠があるかどうかは別として、彼がインフレを恐れて早く上げ過ぎたと非難する人はいます。ITとオートメーションが進み、原材料費と人件費が占める割合が減りつつある今、1980年ころのインフレはあり得ないというわけです。
ウォールストリートジャーナルの記事をコピペしておきますが、緑の線は、CPI(消費者物価指数)で、黒はコアCPI(食料品・エネルギーを除いて算出した消費者物価指数)です。変動の激しい食料品とエネルギーを除くと、金利引き上げに慎重なパウエル氏の政策は、コンウェイ氏がこき下ろすほど不条理なものとも思えないのですが、皆さんはどう思われるでしょうか。コンウェイ氏は、食料品とエネルギーの値上がりを無視するべきではないと述べています。
インフラ予算が少なすぎるのでは?
次はインフラです。先日も、バイデン氏の$2.25兆のインフラ政策についてブログを書きましたが、この「アメリカ雇用法案」で問題にされているのが、その大部分が従来のインフラとは関係のない出費だということです。実際のインフラ予算の割合が全体の何%であるかについては、政治家によって意見が違いますが、少ない人は6%、多い人でも25%くらいしかないということです。政治家の言うことは当てになりませんが、以下は、米国土木学会がまとめたグラフで、右の棒グラフが、従来のインフラを改善するために必要な予算と、実際の予算の差額を表したものです。
これを見ると(小さくて見えないと思いますが)、最も多額の陸水上輸送だけで$1.2兆の不足です。上下水道、学校、電気を足した段階で$2.23兆ですので、バイデン氏が提案している額とほぼ同じになり、そのほか全部足すと、$2.6兆近くになります。連邦政府のインフラ支出は全体の6%で、残りは州の予算ですので、多く出せば出すほど州は州のインフラ予算をほかに廻すだけだという議論もありますが、米国土木学会の米国インフラは5段階評価でC-ですし、コロナで出費の増えた州を少々助けることになっても、仕方がないのではないでしょうか。
今の共和党は、8千億ドル程度の純インフラ予算なら応じるという雰囲気ですが、トランプが大統領だった時は、1兆ドルを超える出費を検討していたはずです。バイデン氏も、インフラに直接関係ないものは別の法案にして、逆に純インフラ予算をもう少し増やしてもいいのでは?
コロナ以降の滞納の状況と、次の人気都市
居住系に関しては、以下の棒グラフを見てください。滞納していない入居者のパーセンテージで、肌色がコロナ前、青がコロナ以降、21年4月は、コロナになって2年目ということでオレンジになっています。12月は前と後で8%近い差がありましたが、4月は3%足らずに回復しています。
また、左下は、貸トラックの行き先です。アメリカ人は、トラックを借りて自分で引越しをする人が多いので、これを見ると国民がどこからどこへ引っ越しているかが分かります。これによると、カリフォルニア、ニュージャージー、ニューヨーク州から、アイダホ州ボイジー、ユタ州ソルトレイク、アリゾナ州フィーニックス、テキサス州サンアントニオ、アラバマ州ハンツビル、ノースカロライナ州ローリー、テネシー州ナッシュビル、フロリダ州タンパ、オハイオ州コロンバスに引っ越している人が多いとのこと。引っ越し先の9都市の中で、皆さんが知っている都市は半分くらいではないかと思うのですが、それだけ田舎に移住している人が多いということです。
ビジネスフレンドリーな州とアメリカ雇用法案可決後の法人税
これに関係が深いのが州税。私たちは、州の法人税や所得税のみを調べることがよくありますが、コンウェイ氏がまとめてくれたのは、全ての税金を含めたものです。青い州が、税金が最も低い10州、黒は高い州10州です。南部がビジネスフレンドリーだとよく言われますが、こうしてみると、青い州が多いのはロッキー山脈地域です。確かに、テキサスは、州税はないですが、私が所有していたアパートは固定資産税がかなり高かったのを覚えています。ハワイは、先月全国最高の所得税率を可決したばかりで、ビジネスフレンドリーではなく、家賃にも消費税がかかりますが、黒でないのは、固定資産税や消費税が低いからでしょうか。
右側の棒グラフは、現在と、アメリカ雇用法案可決後の、米国と、OECD(経済協力開発機構)加盟国の法人税です。現在のところ、日本を含めた経済大国はすべて米国より上です。バイデン氏の言うとおり28%になると、その他の税金も含めて32%となり、世界最高になります。共和党だけでなく、民主党の穏健派が反対するのも無理はありません。
ちなみに、法人税が米国の税収入に占める割合はたったの7%ですので、個人的にはゼロでもいいと思っています。法人税は最終的に消費者が払うことになるので、お金持ちの税率を上げろというのが私の意見ですが、誰も聞いてくれません。レーガン大統領が食事中、大統領補佐官に、法人税をやめるとどうなると思うかと聞いたことがあるそうですが、ニュースで問題にされたのは、その質問がお酒を飲む前だったか後だったかということでした。
コロナ禍で需要が増加した小売りとは?
次は小売です。棒グラフは各種eコマースの推移です。2020年の前年比売り上げ上昇率を棒グラフにしたもので、四半期ごとの推移を表しています。特にパンデミック初期は、食料品をオンラインで注文する人が激増しました。次はスポーツ用品。ジムに行けなくなったので、エクササイズの設備を購入する人が増えたということです。次の個人医療品は当然ですが、建築資材が上がったのは想定外でした。と言うのは、製造業者は、パンデミックで需要が減ると思い、生産を縮小したのですが、家に閉じ込められた市民は日曜大工に精を出しました。私もその一人。新築の需要が減るかもという予想も当て外れ。
コンウェイ氏は、これからはこれらの市場が逆転するだろうとの予想です。今まで家に閉じ込められていた国民は、外出できるようになると、食料品の購入を減らして、レストランやリゾートに押し掛けるだろうというのです。スポーツ用品も販売が鈍って、ジムに戻るでしょう。
それに伴い、IT企業の多いナズダックが下がるとのこと。私が所有している株は大半がナズダックなので、これは無視できない発言ですが、ナズダックの企業はその株価を正当化するだけの利益も配当もないという意見です。テスラのように、時価総額が自動車産業全体の総額を越えてしまうようでは確かに問題ですが、IT企業に利益がないのはR&Dと宣伝にお金を使って、意図的に利益を下げているというのが、ハーバードとロンドン・ビジネス・カレッジ出身の私の株のマネージャーの意見です。
米国への不動産投資は中国に変わり韓国が大躍進
私が最も興味を持ったのは次のスライドです。米国不動産へのインバウンド投資ですが、カナダが1番だというのは毎年のことです。つい最近まで中国からの投資が多かったのですが、米中関係の悪化と、中国からお金を出せなくなったことが原因で、この番付から消えてしまいました。しかし、彼が最も強調したのは、韓国が2番だということです。
韓国から米国への投資は、2019年は$27.88億で、日本は$22.7億でした。それほど差がなかったのですが、御覧の通り、2020年は、韓国はほぼ倍になって$52.43億、日本は半分以下になって$10.68億に減ったのです。コンウェイ氏は、韓国からの投資が増えた理由には触れませんでしたが、いずれにしろ、パンデミックの最中にこれだけの投資をするという意気込みは、大したものだと思います。私は、かなり大きな投資の話にほんの少しですが関わっており、両者とも日本の投資家を探しているのですが、興味は持ってくれても、コロナでさっぱりです。コンウェイ氏は、このような時こそ投資のチャンスだと言っているのです。
私はクリスチャンですが、私の教団のある大きな教会には、日本語部があります。ところが、誰も日本語の集会には参加せず、教会全員の集会にしか出ないそうです。日本人は、特別な存在になるのではなく、全体に溶け込みたいのでしょう。ところが、韓国人の信徒さんは、さっさと自分たちだけで教会を作って独立しました。この差が投資にも表れているような気がするのですが、考え過ぎでしょうか。
今日は4月14日に行われたCCIM協会チーフエコノミストKCコンウェイ氏の、2021年第2四半期事業用不動産アップデートから、興味深い内容をご紹介しました。
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