今日は、新しいフランチャイズで、ソフトバンクが巨大な資本を出しているコンパスと、コールドウェル・バンカー、センチュリー21、サザビーなどの不動産フランチャイズを抱え、米国最大の持ち株会社であるリアロジーの壮絶な戦いについて、複数のインマンの記事を参考にして解説します。リアロジーによる訴訟、コンパスが試みた示談や棄却要請の失敗、コンパスによる反訴、最後にコンパスのIPOの結果について、個人的意見を述べます。
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ソフトバンクが巨額投資した新仲介フランチャイズのコンパスが訴えられた件
コンパスが「違法なスキーム」として訴えられる
コンパスは、市場シェア20%獲得を目標に掲げていた新フランチャイズですが、「公正でない商慣習と市場シェア獲得のためなら手段を択ばない違法なスキーム」であるとして、2019年にリアロジーが訴えました。リアロジーの訴えによると、コンパスは、コミッションのエージェントの取分を増やしてシェアを伸ばし、十分なシェアを獲得できたら下げるつもりだというのです。コールドウェル・バンカーCEOのゴーマン氏に言わせると、コンパスの求人は「万引き」で、あんなに高いコミッションを出して会社が儲かるわけはなく、エージェントを引き抜いてシェアを拡大するための一時的手段に過ぎないというのです。
引き抜きだけならまだしも、引き抜いた後、他社の情報を聞き出したり、社員でなければ見ることのできない他社のサイトを見たり、おまけにそれらの違法行為をしてくれた元リアロジー社員に、彼らがリアロジーに訴えられた場合、賠償の補填を約束したというのです。コンパスを訴えた会社はほかにもあり、ジローもその一つでした。
コンパスの示談と反訴
請求しているのは、補償的実損害賠償、間接的損害、懲罰的損害賠償金、指し止めによる救済、被告の不正利得、金利、弁護士料などです。コンパスは当初は示談にしようとし、それがうまく行かないと分かると、裁判官に訴訟の棄却を要請しましたが、認められませんでした。
これもだめだと分かると、今年1月、反訴に出ました。リアロジーは、「コンパスに関する虚偽の情報を意図的に市場にばらまいて戦いを挑んできた」と言うのです。コンパスにはかなわないので訴えたのだという言い分ですが、2020年のリアロジーは、記録的な好成績でした。もっとも、去年はどのフランチャイズも成績は良かったですが、コンパスは、市場シェア20%獲得をあきらめたようでした。
リアロジーとコンパス、どちらの言い分が正しいのか
私は、以前よく訴訟の通訳を頼まれることがありましたので、ある程度知っているつもりです。日本では、通常、原告が善玉で、被告が悪者ですが、米国のような訴訟社会では、逆のことも多いです。つまり、示談にしてお金を取ることが目的で、つまらないことで訴訟を起こすことがよくあります。被告は、何も悪いことをしていなくても、どうせ訴訟に時間と費用が掛かりますので、適当な額で示談にすることが多いのです。
通訳をしていてもう一つ思うことは、どちらが正しいかは、そう簡単には分からないということです。家族や友達の喧嘩でも、両者の言い分を聞かないとよく分からないことは多いと思いますが、訴訟はもっと複雑です。
というわけで、どちらの言い分が正しいのかは何とも言えませんが、コンパスが複数の会社から訴えられたこと、また、示談や棄却に失敗してから反訴したことなどの印象は、あまり良くありません。コンパス側にも言い分があると本当に思っていたら、すぐに反訴したのではないかと思います。
IPO後に株価が低迷しているコンパス
2020年は、不動産関係のIPOが大成功でした。有名なのは、ソフトバンクがウィーワークの損失を払拭したiBuyerのオープンドアや、皆さんよくご存知のAirB&Bなどです。コンパスもそれらに続き、今年3月31日にしました。
一株$18という値付けでしたが、オープン直後$21.25に上がったものの、このブログを書いている5月31日時点では、$13.44まで落ちています。ソフトバンクも今回は当てが外れたということでしょう。IPOは、リクルートの材料にも使われてきましたが、それが終わっただけでなく、その後株価が下がってしまった今は、もうPRには使えませんので、これからのエージェントの引き抜きは難しくなるかもしれません。
コンパスの収益性などを考えると、株価の低迷は当然かと思われます。正直なところ、孫さんはコンパスのどこに将来性があると思ったのか、私にはわかりません。高いコミッションでエージェントを集めてシェアを伸ばすことは、どのフランチャイズでもできますが、いつかはお金が続かなくなります。コンパスはソフトバンクから得た資金でそれを補って、米国一のフランチャイズになろうとしたのでしょうが、いったんコミッションの配分を下げてしまったら、エージェントは自営業でのれんを借りているだけですので、簡単にどこにでも移転できます。
コンパスはIT企業なのか
eXpは、物理的なオフィスをなくすことによって間接費を下げ、それによってエージェントの取分を上げました。オフィスをなくしたことくらいで、新しいビジネスモデルと言えるかどうかは分かりませんが、これは持続可能です。ちなみに、ハワイ州では、オフィスがないと仲介業者にはなれないので、ウィーワークのようなところを借りていたようですが、それではだめだということで、一応オフィスを構えたようです。しかし、州の要件を満たすだけの小さなものでしょう。
コンパスは、IT企業であると盛んにPRしていますが、コンパスのITは、エージェントの仕事の効率を上げるためのものであって、そんなものはどこのフランチャイズでも出しています。リアロジーもケラーウィリアムズも、自分たちはIT企業だとPRしているのです。ビジネスモデル自体が変わらない限り、今まで以上に画期的に効率を上げるアプリがこれから登場するとは思えません。訴訟は、示談や仲裁にならない限り、リアロジーに軍配が上がりそうですが、両社が基本的に同じことをしている限り、最終的には新ビジネスモデルにシェアを取られるのではないかというのが、私の意見です。
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今日は、コンパスとリアロジーの訴訟、またコンパスのIPOについて、解説しました。YOUTUBEのチャンネルではハワイでのオープンハウスの様子や、アメリカ・ハワイの不動産マーケットの情報をお届けしています。アメリカの不動産に興味のある方、ハワイで不動産を持ちたい方は是非チャンネル登録をお願いします。