今までにも、ハワイの住宅難と住宅価格や家賃の上昇の原因は規制であるということを何度かブログに書きました。ハワイ大学が、それを数値化した研究結果を発表しましたので、ご紹介します。
研究を発表したのは、ハワイ大学経済リサーチ機構(UHERO:ユーヒーロー)です。規制がどのようにハワイ住宅市場に悪影響を与えているかを調べたものですが、州立大学がこのような研究結果を発表したことには、ちょっと日本の皆さんには気が付かない意味があるかもしれません。
米国の政治はイデオロギーが強く、教育機関はその多くが民主党支持です。インテリは民主党支持というイメージが強いのです。民主党は、政府が社会でより大きな役割を果たすべきだと考え、規制を好みます。ハワイは米国でも有数の民主党基盤で、そのハワイの州立大学がハワイの規制を非難するというのは、ちょっと意外です。実は、私の息子はハワイ大学で経済と数学を専攻したのですが、彼の話では、ほかの学部ほどリベラルではないということでした。
ペンシルベニア大学が、住宅地土地利用規制インデックを発表しています。2006年に2,600地域、2018年に2,400地域を対象に行われました。2006年の調査では、ハワイも含まれていたのですが、2018年の調査では含まれていませんでした。そこで、UHEROが全く同じ方法を使ってハワイを調査し、ハワイのインデックスを発表したのです。調査内容は、密度規制、アフォーダブル(お手頃価格)住宅要件、規制の結果(例えば実際に許可された土地利用変更数など)です。
これがその結果ですが、棒グラフが右に長いほど規制が多く、左に長いほど少ない州です。一番上のオレンジ色がハワイなのですが、見ての通り、ダントツに規制が多いのがわかります。ハワイは、州全体としてみると、規制がもっとも多く、住宅価値の中央値が最も高い州です。ハワイの規制が厳しいことは、だれもが知っていることではありますが、この調査は、それを数値化したという点で、重要です。ちなみに、ダントツに少ないのはアラスカです。
ハワイは小さな州ですのであまり知られていませんが、カリフォルニアは規制が厳しいので有名です。そのカリフォルニアはこのグラフでは5位ですが、それは面積が大きくて、規制の少ない田舎も多いからだと思われます。2位のニュージャージーは、大都市はありませんが、面積が狭く、ニューヨークの郊外で、人口密度が高いです。
「規制パラダイス:ハワイ土地利用規制」の著者、ハワイ大学法学部教授のデイビッド・カリーズ氏は、建築費を上げる最も大きな要因は、建築許可が下りるまでにかかる時間だと述べています。「開発業者にとって、時は金なり。」
問題は政治家だけではありません。ハワイ住民の多くは、住宅価格が下がることを希望していると思いますが、持ち家の価値が下がることは希望していません。住宅難は解消してほしいが、自宅の近所には建ててもらいたくないと、だれもが思っているのです。
私の裏庭にどうぞ法
英語に、Not in my backyardという表現があり、直訳すると、「私の裏庭はダメ」という意味です。好ましくないものを他所に設置するのはいいが、自分の近所は絶対いやなどという場合に使われる言葉です。頭文字を取って、NIMBY(ニンビー)ということもあります。
今、ハワイ州で、土地利用や建築規制を緩和する目的で州に作業グループを設けるという法案があり、通称Yes in my backyard(私の裏庭にどうぞ)法と呼ばれています。規制緩和だけでなく、コミュニティーに理解を求めることも、この法案の目的の一つです。
アフォーダブル物件に限らず、開発に近所の住民が賛成することはめったにありません。景色が見えなくなるとか、車が混雑するなど、様々な理由で反対します。日本で日照権を争うようなものです。アフォーダブル分譲マンションは、それほど問題になりませんが、アフォーダブル賃貸物件は、かなり収入が低い人が対象になる場合もあります。近隣に望ましくない人が住むようになることが嫌がられるのです。
実は、同様な努力を既に進めているとの理由で、ホノルル市はこれに反対しています。バケーション・レンタル禁止法案への関与で、利益相反を疑われた都市計画建築許可局のディーン・ウチダ氏も、反対派の一人です。
同じような法律がオレゴン州やカリフォルニア州でも可決されたそうです。カリフォルニア州の規制の厳しさは全国で5位ですが、オレゴンもかなり高くて9位です。厳しすぎるので、何とかしようということなのでしょうか。アフォーダブル住宅を建てさせるために、さらに規制を厳しくするような結果にならないことを願っています。
規制を緩めると開発業者が儲かるだけだと考える人が多いですが、UHERO事務局長のカール・ボンハム氏と、リサーチャーのレイチェル・イナフク氏によると、これは間違い。大きな開発業者は、規制があっても儲けることができるのではなく、規制があるから儲けることができると言うのです。規制の厳しいハワイで建築許可を取るには、弁護士やロビイストが必要で、大会社でなければできないことです。その結果、競争が減って、大会社だけが大儲けできるという構図だそうです。
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