10年前、リソースと呼ばれる集合住宅のリート(不動産投資信託)に$7万の投資をしました。2022年1月、有名な投資ファンド運用会社のブラックストーンがすべて買い取る契約をし、6月にその取引が終了して投資の最終結果が出ましたので、報告したいと思います。
買取総額は$37億で、アパートやマンション42物件、全部で12,600戸です。物件の平均戸数は300戸、1戸当たりの平均価格は$293,650になります。物件は、アリゾナ、コロラド、フロリダ、ジョージア、テキサス州など、13州にまたがっており、成長している南部が多いです。
このリートは、収益株ではなく、成長株で、購入したのは物件ではなく焦げ付いたローンです。それを銀行から割り引いて購入して、物件を差し押さえました。取得物件が南部に多いのは、人口増加だけが理由ではなく、差し押さえの手続きが東部や西部の州より簡単だからです。取得後は改装して家賃を上げてすぐに高く売ることが目的でした。しかし、リソースは長期保有に切りかえ、3年目からは配当が6%ほどに増えています。私が投資した$7万の10年間のキャッシュフローは以下の通りです。
2012 | ($70,000.00) |
2013 | 2,974.15 |
2014 | 3,592.99 |
2015 | 4,462.08 |
2016 | 4,090.24 |
2017 | 4,462.08 |
2018 | 4,462.08 |
2019 | 4,462.08 |
2020 | 1,115.52 |
2021 | 2,549.20 |
2022 | 134,290.00 |
2013年から2021年までの数は、配当です。最後の2年間が減っていますが、これは、コロナの影響で収益が減ったものと思われます。内部収益率(IRR)を計算すると、10.52%になります。つまり、もしこれが年複利10.52%の銀行口座なら、$7万の預金をして9年間これだけのお金を引き出し、10年目には$134,290の残高を引き出せるということです。
このリートは、2012年に1株10ドルで売り出しましたが、リソース・リートの理事会は、2021年1月28日に一株$9.06と評価しています。コロナで利益が減ったことが理由ではないかと思われます。
日本では、公開されてなければリートとは呼びませんが、リソースは、プライベートリートです。株式市場で公開取引されているわけではなく、鑑定をしなければ市価は分かりません。2010年代中ごろから、年次鑑定が義務付けられましたが、この$9.06と言うのは、鑑定士による鑑定価値ではなく、リソースの理事会による評価です。ブラックストーンの購入価格は、それより何と63%も高い$14.75です。
下馬評では、ブラックストーンは高く買いすぎたと言われています。しかし、鑑定価値を調べてみると、2021年1月31日の株価は$11.10です。鑑定価値は3日前の理事会の評価価値より$2以上高いのです。
もちろん、たった三日で価値がこんなに上がったわけではなく、理事会による評価がかなり保守的だったということです。ブラックストーンによる購入契約成立を発表した時に、リソースは、鑑定士による鑑定価値ではなく、この低い方の評価額を使いました。$9.06の価値しかない株を$14.75で買ってくれると発表したわけですが、この売却が投資家にとっていかに得であるかを印象付けるためではないかと勘繰りたくなります。
それにしても、なぜそんなに高く買うのでしょうか。ブラックストーンが購入総額の$37億を自社で投資したとしても、購入にはかなりの経費がかかります。リソースが物件を購入した時も、約10%の経費がかかっています。ということは、ブラックストーンも$37億で何十もの物件を購入するためには、同じく10%の経費がかかるということですので、実際に投資できるのは$37億-$3.7億=$33.3億です。株価で言うと、$14.75-$1.475=$13.275です。
そればかりか、購入には時間がかかり、機会コストが失われます。投資家の実際の利回りが10.52%でしたが、ブラックストーンの期待利回りはそれより高いはずです。購入に1年かかるとすると、期待利回りが19.59%であれば、1年後に投資される一株$13.275の価値は、すでに投資されている$11.10と同じになります。
また、$11.10と言うのはコロナ最中の鑑定価値です。終息してきた今年の鑑定価値はもっと高いでしょう。
最後に、10年間の実績のあるポートフォリオと、これから購入するポートフォリオのリスクプレミアムも考慮するべきです。これらが、ブラックストーンが市価$11.10のリートを$14.75で買った理由ではないかと思います。
投資家の立場から見てみましょう。プライベートリートですので、換金性が低く、投資して10年も経つと、換金したいと思っている人も多いでしょう。リートが物件を売って投資を完結する場合は、売却費用が掛かります。株の真の価値が$11.10だとすると、売却後に残るのは、一株$10ほどです。だったら、$12~13でも売った方がいいという人は多いはずです。
とにかく、買ってもらった私は文句ありません。今回のように大会社が丸ごとプライベートリートを購入するということはよくあります。その場合、市価よりも数ドル高く買ってくれるのが普通で、これはプライベートリート投資の一つのメリットです。会社を立ち上げて売り抜くのと同じようなものです。
米国でリートを買うと、あなたが所有している株を購入しますというオファーの手紙が来ることがよくあります。これは、詐欺まがいの商法で、受け取った投資家は、その手紙がリートから来たと勘違いし、よく理解しないままサインして送り返すことがあるようです。そのようなオファーのほとんどは時価よりも低く買い取るものですので、ご注意ください。今回のようにリートごと買い取る場合、個々の投資家にそのような手紙が来ることはありません。
また、リートには配当で株を購入できるようになっているものが多いです。その場合、例えば$10の株を$9.50で購入できるなど、割り引いてくれることもあります。しかし、保有物件の価値が下がった場合、1株$10と言っても、実際の鑑定価値はもっと低いかもしれません。公開株ではありませんので、実際にその価格で取引されているわけではないのです。真の市価は、所有物件の鑑定をしなければわかりません。
このリートを購入した時は、プライベートリートの年次鑑定はまだ義務付けられていませんでした。私の場合、ブローカーのポリシーで、鑑定価値のわからないリートの配当で株を自動的に購入することはできませんでしたので、やりたかったのですが、できませんでした。やっていたら、利回りはもっと高かったかもしれません。
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