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1.8億の相続税を不動産でゼロにした件に関する最高裁判決と、トランプがAV女優に払った口止め料裁判の類似性

 あるお金持ちが、節税策を駆使して1億8千万の相続税をゼロにしました。なぜそんなことが可能なのか、説明しましょう。

 節税には、控除額を増やす、税率を下げる、評価額を下げる、この三つの方法しかありません。もちろん、寄付をしたり損をしたりすれば節税になります。寄付をすることは立派なことですが、節税のために損をするのは本末転倒です。そんなことは誰でもわかっているはずですが、不動産屋が勧める物件が儲かるのかどうかをちゃんと調べないで、節税のために購入して損をする人は後を絶ちません。

節税の3つの方法

 控除額を増やすにしろ、税率を下げるにしろ、限度があります。評価額はどうでしょう。金融資産は評価を下げることはできません。百万円は、現ナマだろうと金塊であろうと、評価額は百万円です。しかし、不動産を使えばゼロにすることができるばかりか、マイナスにすることもできるのです。そのからくりを説明しましょう。

 1億円の居住系物件を購入したとします。都市部の物件で、土地が高く、建物の価値が4000万、土地が6000万としましょう。建物の評価額は、固定資産税評価額が使われ、60%くらいに圧縮されて、2400万くらいになります。土地は路線価で評価され、時価の半分ほどです。つまり、3000万円と評価され、建物と合わせて5400万円になります。固定資産税評価額も路線価も、都会の方が圧縮度が高く、節税には有利です。

 これを賃貸するとさらに評価額が減ります。建物は70%くらいになり、1680万ほどになります。土地は、1-借地権割合×借家権割合(ほとんどの地域で30%)×賃貸割合で、どの程度圧縮されるかが決まります。100%貸して、借地権割合が70%だとすると、1-0.7×0.3×1=0.79となり、79%に圧縮されて、2370万になりです。土地と建物で、4050万円です。借地権割合も、都心の方が高く、節税に有利です。

 さらに小規模宅地特例を適用すると、建物は変わりませんが、土地は半分、つまり1185万になり、建物を足して2865万円くらいになるのです。ここで使える小規模宅地特例は200平米までですので、この土地はそれ以下だと言う想定です。

 そこで終わりではありません。物件のローン残高が2865万あれば、2865万の評価額から残高を引いて、ゼロになります。1億円のフルローンを借りて、買ったばかりでまだ元金がほとんど減っていなければ、2865万-1億=-7135万円になり、他の資産から7135万円引けることになります。

 先日読んだ相続対策の本に書いてあったのですが、現金1億円を持っているのなら、ざわざわ1億円借りて利子を払う必要はありません。現金で購入すれば、現金が1億円減りますから、ローン残高で相殺するまでもありません。

 こんなことが書いてあること自体、日本の現状をよく反映していると思いました。米国では、1億円ものお金を普通預金で遊ばせておくなどということは考えられません。投資して回しているのが普通ですので、それならローンの金利を払っても、投資の利回りの方が高ければ、損をすることはないでしょう。日本政府も最近投資を奨励していますが、米国ではそれが当たり前なので、経済もよく回るわけです。

具体的にどうやって1.8億の相続税をゼロにしたか

 この家族は、これを利用して相続税をゼロにしたわけですが、具体的に何をしたか見てみましょう。余命幾ばくも無い被相続人には、3人の子供がいました。配偶者は何も相続せず、長女は現金、長男は地元札幌の不動産、次男は会社を相続することになっていました。節税のために購入した不動産は、次男の孫に相続させ、相続後にそれを売り、山分けにするつもりだったようです。

 2008年8月、まず次男の孫を養子にしました。相続人を増やして、控除額を増やすためでしょう。翌年、2009年1月、三菱UFJ信託銀行から6億3000万借りて、東京で8億3700万のマンションを購入。同年12月、三菱UFJ信託銀行から3億7800万借り、配偶者から4700万借りて、川崎で5億5000万のマンションを購入しました。被相続人は札幌の方でしたが、東京周辺でマンションを購入したのは、地方より評価額が下がるからでしょう。

 被相続人は、2011年6月に亡くなりました。こうして何もしなければ1億8000万かかったはずの相続税がゼロになったのです。もちろん、これはご本人の知恵ではありません。このスキームを勧めたのは三菱UFJ信託銀行でした。

喜ぶのはまだ早い

 「これはいいことを教えてもらった。このブログを読んでよかった」と喜ぶのはまだ早い。

 相続人は、2013年3月、札幌南税務署長に相続税の申告書を提出し、同じ3月に川崎のマンションを5億1500万で売りました。税務署から見ると、税回避のために購入し、相続が終わったらもう要らないので売った、つまり税回避行為としか思えません。国税庁は、相続税0円は認めず、3年後、更正処分として3億3000万円の追徴課税を言い渡したのです。結局倍近い相続税を払わされることになったわけです。

 三菱UFJ信託銀行は、このスキームで顧客たちに同じ物件を何度も売買させ、そのたびにローンを出していたのです。税務署は、相続人だけでなく、三菱UFJ信託銀行にもお灸をすえたかったのでしょう。

 相続人はこれを不満として東京地裁で訴えましたが、2019年8月に敗訴。控訴審も2020年6月に棄却され敗訴。最高裁まで控訴しましたが、2022年4月、棄却されて敗訴が確定しました。

 うちの河野社長がこの裁判に非常に興味を持ち、弁護士に頼んで資料を取り寄せてもらい、全部読んだそうです。SNSで弁護士や税理士たちがろくに調べもしないで好き勝手なことを言っているが、当事者以外でこの事件のことを最もよく知っているのは俺だ、と自負しています。まあ、彼が自負できるのはこのくらいしかないので、やらせておきましょう。

 こんなことをそこまでして調べるなんて、変な奴だとお思いでしょう。私もそう思います。しかし、クライアントに的確なアドバイスをするためには、知っておかなければならない大切な裁判だと思ったわけです。今まで、こんな判例は一度もなかったのです。

 河野が調べたことや個人的意見を色々書き始めるときりがないので、肝心なことだけ述べます。判決によると、この相続の問題点は以下の通りです。

①スケジュールがタイトで駆け込み対策だと判断された 

②相続税の節税目的であることが明らかだった 

③相続税の節税をやり過ぎてしまった

 これ以外に、相続後すぐに不動産を売却してしまったことも問題視されるきっかけになったかもしれません。

税回避行為とみなされないための対策

 このようなことにならないためにはどうすればよいのでしょうか。不動産を使った相続対策を行うときには、購入目的、被相続人の年齢や健康状態、相続税の引き下げ対策の効果の程度などに気を付けるべきかもしれません。年齢に関しては、平均寿命を超えてからは注意するべきだし、死に至る病にかかってからの節税策にも注意が必要かもしれません。

 しかし、はっきりとしたガイドラインや法律があるわけではないのです。相続税の引き下げの程度も、ゼロにするのはダメだが、何%くらいまでなら下げてもよいなどという決まりがあるわけではありません。

 税回避行為とみなされないための最も有効な対処法は、正攻法、つまり節税以外の明確な購入目的を持つことです。投資が目的であれば、その結果どれだけ節税できようと、それはあくまで副産物であり、結果論です。投資を妨げる法律などありません。資産を運用して財を築くと言うのは、資本主義の基本であり、権利です。

 トランプ大統領がAV女優に払った口止め料

 ご存じの方も多いと思いますが、トランプ大統領がマンハッタン地区検事官から起訴されました。2016年の大統領選挙戦で、AV女優のストーミー・ダニエルズに$13万の口止め料を払ったことに関する疑惑がその理由です。この裁判は、細かいことを説明し始めるときりがないので、できるだけシンプルに説明したいと思います。

 口止め料を払うこと自体は犯罪ではありませんが、その出費に関する記録を改ざんしたことは、ニューヨークでは軽罪になります。それ自体は2年で既に時効になっていますが、他の犯罪、つまり選挙法違反を隠ぺいする目的でしたことであれば、重罪とみなされるのです。起訴時点ではすべての罪状を書く必要がないので、検事が何を考えているかは、まだ明確ではありません。アッと驚くような罪状が後で出てくる可能性を否定することはできません。

 報道機関が保守派か革新派かによって見方は異なりますが、彼は有罪にはならない可能性が高いと思われます。それにはいくつかの理由がありますが、税回避判決に関係あることを一点だけ取り上げたいと思います。

 ジョン・エドワーズ元民主党上院議員は、2008年の大統領選に出馬しましたが、予備選挙でオバマ元大統領とヒラリー議員と戦い、離脱しました。その時、彼もトランプ同様、不倫相手に口止め料を支払ったことが発覚したのです。トランプは、彼の元弁護士コーエン氏に口止め料を払わせ、後でそれを払い戻したのですが、エドワーズの場合は、政治献金者に払ってもらったと記憶しています。

 それが選挙法違反に当たるとして、起訴されたのですが、有罪にはなりませんでした。政治ドナーに支払ってもらったのであれば、選挙資金乱用とみなされると考えて起訴したと思いますが、政治的目的で口止め料を払ったことが証明できなかったのです。奥さんにばれないようにするために、不倫相手に口止め料を払う人はいくらでもいます。裁判で動機を証明することは困難で、陪審員の意見が分かれたのです。

 本来なら、エドワーズの時と同様、選挙違反の起訴をするのは連邦司法省ですが、そうしなかったと言うことは、前例を見ても、有罪にはできないと判断したからでしょう。ではなぜ今回、一介の地区検事官が起訴したのか。地区検査官は選挙で選ばれるのですが、彼は、当選したらトランプを起訴すると選挙戦で公約していたのです。実際、彼がなかなか起訴しないので、しびれを切らして辞めた部下がいたほどです。

 「トランプだけは勘弁してほしい派」の私としては、さっさと刑務所に入ってもらいたいのですが、あまり期待していません。反トランプで、2021年のトランプ大統領弾劾裁判において共和党で唯一有罪票を投じたミット・ロムニ上院議員でさえ、今回の起訴は政治的だと非難しているくらいです。トランプを弁護したくない人でも、この起訴に反対している人は多いです。

 保守派は彼を守ろうとして、トランプの支持率は急上昇。予備選挙は来年ですが、このままではまた彼が狂話党候補になりそうです。

 ブラッグ地区検事官は本当に彼を有罪にできると思っているのでしょうか。公約したのに起訴しなかったら次回の選挙で負けると思っているのでしょうか。

 シニカルな見方ですが、眠酒党支持者でも過半数が出馬を求めていないバイデン氏にとって、相手がトランプの方が勝算が高いので、わざと彼の人気をあおっているのかも。そんなバカなと思うかもしれませんが、2022年の予備選挙では、眠酒党が親トランプ候補を支持する政治広告を出し、その多くが狂話党候補になりました。しかし、彼らは無所属層の票を獲得できず、中間選挙でその多くが敗退し、この作戦は成功したのです。

 これは私個人の想像ですが、ブラッグ氏は、近い将来、検事官としてではなく、政治家として選挙に出るつもりかもしれません。知名度を上げ、眠酒党基盤のニューヨークで選挙に勝つために、これ以上の方法はないでしょう。

 トランプは、他にも、2021年1月の連邦議会襲撃事件2020年大統領選でジョージア州での敗北を覆そうとした取り組み、退任後の機密文書の取り扱いなどで捜査されています。これらの方がずっと重要な事件で、特に機密文書の件が最も有罪になる可能性が高いと言われています。

 米国は、両党と無所属が約3分の1ずつで、大統領選挙は無所属がどちらに投票するかで決まると言ってもいいでしょう。ロイターの調査によると、無所属の63%が今回の起訴を政治的と判断しています。検事局が信頼されなくなると、そのほかの事件で起訴されても、政治的と片付けられてしまうかもしれません。

事件の類似性

 トランプの話はそのくらいにして、この二つの事件の類似点をまとめましょう。違法なことをしたのであれば、動機など関係ありませんが、この2つの裁判の争点は、やったこと自体ではなくて、動機なのです。エドワーズやトランプに口止め料を払う権利があるのと同様、私たちには投資をして私たちの資産を運用する権利があります。する権利のあることをした場合、違法な目的のためにしたという動機を証明することは困難です。

 つまり、節税策だけに溺れると、税回避行為とみなされても仕方がありません。しかし、自分の資産の最大化を図る投資をして、副産物として節税できたとしても、それが税回避行為とみなされることはないでしょう。  また、現実問題として、節税のみを追求するより、健全な資産運営をした方が有利なのです。節税策のみでは、納税額が減るだけで、資産を守ることはできません。最終的にいくらお金が残るかが、いくら節税できるかより、ずっと大切です。節税、節税と騒ぐのもいいですが、もっと重要なことを忘れていませんか。

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