オフィスビルの居住系へのコンバージョンについては、今までにもいくつかブログを書きました。もう十分だと思っていたのですが、ニュースが絶えませんので、最近の動向についてご報告したいと思います。
コンバージョンの背景と問題点
コロナでオフィスビルの稼働率が減りましたが、リース期間の長いオフィスは、パンデミック以降まだ一度も更新時期が来てないものもあります。そのなかには、在宅勤務の続行で必要なくなったスペースもありますので、更新しない、あるいは縮小するものもあり、これからも稼働率は下がり続けるでしょう。そこで、オフィスビルを居住系にコンバートしようと言う動きが全国的にあるのですが、いくつかの問題があります。
一つは、オフィスビルの方が平米当たりの家賃が高いと言うことです。しかし、ホノルル、特にダウンタウンのオフィスは、供給過剰でもともと賃料が低く、逆に住宅価格は非常に高い市場です。そのため、ホノルルのダウンタウンはコンバージョンに向いているのです。ダウンタウンの空室率は14%近く、23棟の高層オフィスビルの7棟に1棟がコンバートできると言う計算になります。
実は、オフィス物件の空室率の全国平均は17.1%です。ホノルルより悪いと言うことになりますが、他の市場のダウンタウンのオフィス賃料は高かったのです。その中には、リースが長いので、未だに高い賃料を払っているテナントもいます。ハワイは、もともと賃料が安かったので、パンデミック前からコンバージョンが始まっていたのです。
コンバージョンを困難にするもう一つの理由は、上から見たオフィスビルはマンションのように細長くないので、奥が深く、窓が少ないということです。米国史上最大のコンバージョンになるだろうと言われているビルが、ニューヨークの中心街にあります。4ニューヨーク・プラザと呼ばれ、デイリー・ニュースとJPモーガン・チェイスが入っていたビルで、22階建てです。このビルも「太って」いて、窓がない部屋がたくさんできてしまいます。
そこで、ビルの一部を解体して中庭を二つ作り、中庭に面した窓を作れるようにする予定です。その分、上に建て増して、32階建てにし、容積率を最大化するのです。
ユニットの中には、テトリスのような形をしたものもあり、少なくともリビングには窓があるようにします。それでも窓がない部屋ができてしまうので、それは書斎ということにするそうですが、書斎を寝室として使うかどうかは、住む人の勝手です。建築許可が下りることはほぼ確実で、完成すると、ワンルームから4LDKまで、1,300戸のアパートに変身する予定です。
しかし、これは例外で、ほとんどの場合、そこまですると採算が合いません。4ニューヨーク・プラザは、$2.5億で購入し、平方フィート当たり$400~500かけてコンバートするそうです。110万平米ありますので、$4.4~5.5億の改装費用と言うことになります。1,300戸で割ると、1戸当たりの原価が$60万ほどになり、決して安くはありません。
ホノルルの対応
この問題に対処するため、ホノルルでは、窓のない寝室を許可するという例外処置が取られました。また、高層オフィスビルの窓は開きませんので、それも例外処置が必要で、現在のところ、二つのコンバージョンがそれらの要件を免除されています。
その一つが、以前ご紹介したザ・レジデンシズ・アット・ビショップ・プレイス(The Residences at Bishop Place)です。全部コンバートするわけではありませんが、493戸のマンションができます。この改築は、建築許可手数料$1,820万が免除されました。もう一つは、キリスト教系非営利団体が改装中の66戸のシニア向けマンションで、ここも建築許可手数料$300万が免除されました。
これらのビルは、寝室に窓がない代わりに、リビングに面した半透明のガラス戸で採光します。ザ・レジデンシズ・アット・ビショップ・プレイスは、ビルが空くにつれてコンバージョンしており、既に完成している350戸の大半がリースされています。通常の1LDKは家賃$3,000、窓なしだと$2,500で、割安になっており、市場はこれを受け入れているとのことです。
先述したことですが、この家賃が取れるからこそ、ホノルルのダウンタウンではコンバージョンが可能なのです。
デイビーズ・パシフィック・センターも同じようにコンバートされる予定で、ビルの75%が居住系になるそうです。ここも、窓を全部替えるのはお金がかかりすぎるので、そのままにする予定です。でなければ、1戸$55~65万で売ることは無理だと言うことです。
窓なし寝室を認める法案
最近の市議会で、いちいち例外処置をするではなく、これを法律にしてしまおうと言う法案が出ました。4月21日にダウンタウンのウォルマートが閉店することになったのも、このような法案が出たきっかけのようです。法案を出したタム議員は、ウォルマートが空き家になると、犯罪も増え、チャイナタウンがより危険になるので、コンバージョンを促進したいと述べています。
大都市の中心街は、日本のように仕事の後で飲みに行くと言う習慣がなく、残業もほとんどありませんので、夜は閑散としていて、危険です。しかし、住民が増えると、夜も人通りが増えて、治安も良くなるのです。
第一読会(立法手続き課程の一つ)は全員一致で通過し、現在、市のゾーニング委員会で検討中ですが、可決までの道のりはまだまだです。国際建築基準法さえ満たしていれば、コンバージョンだけでなく、新築でも窓なしの寝室を許可すると言うものです。
寝室に窓がないビルは、ほとんど例がありません。ミシガン大学の寮がその一つで、住んでいる学生が鬱になると言う評判です。こんな建物は非人道的だと非難する人さえいます。
大学生は、どの寮に住むか選択できないこともあると思いますが、マンションなら、気に入らなければ引っ越せばよいだけです。ザ・レジデンシズ・アット・ビショップ・プレイスでは、実際、やっぱりこんなところには住めないと言って、出た人もいたそうです。
より現実的な懸念は、寝室に窓がないと言うことより、窓が開かないと言うことのようです。昼間だけ働いているオフィスならいいですが、住居の窓が開かなくて、換気扇が故障したら、健康被害があるかもしれません。停電や火災の場合も支障が出るでしょう。
また、ハワイは気候が良く、窓さえ開ければエアコンを使う必要はあまりありません。私が住んでいるタワマンでも、乾燥機能を使うことはありますが、冷房することはほとんどありません。この省エネの時代に、冷房が必要なビルを建てるのはいかがなものか、という意見もあります。しかし、コンバージョンに関しては、もうすでに建っているビルですので、今更そんなこと言われても、という感じです。
この法案は、コンバージョンにのみ適用するべきだと言う意見もあります。確かに、いくら安いからと言え、わざわざ窓のない寝室や開かない窓を作る必要はないでしょう。ある調査では、ホノルルには25,000戸の住宅が必要だと言われています。進行中のコンバージョンが約1,000戸あり、後2~3戸コンバートされれば、さらに1,000戸ほどの供給があるでしょう。コンバージョンに適用されるだけでいいですから、可決されることを願っています。
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