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太陽光発電に騙されたお爺さん:収益率にもいろいろあることをご存じですか

 最近、収益率を理解することで悪徳商法から身を守ることができると言う話が多いが、典型的な具体例を挙げよう。ある日、弊社に訪ねてきたご老人が、「実は利回り15%のとても有利な投資をやっているんです」と言うので、どんな投資なのか聞いてみた。それは少し前に注目された太陽光発電だった。

 太陽光発電は売電によって利益を出すわけだが、電力会社が一定の期間、固定価格で買い取るという固定価格買取制度が設けられている。この制度は、発電した電力の買取価格が10年間または20年間、固定され保証されるというもので、期間の違いは設備の容量による。この人の場合は比較的大きな設備だったので買取期間は20年ということだった。

 その人は1億円を投資して、毎年売電益が1500万円になるということだった。確かに利回りは15%。いまどきどんな投資をしても15%を安定的に出せる投資はほとんど見当たらない。

 おそらく業者からそのあたりを強調されたのだろう。ただし、よくよく聞いてみると、固定価格買取期間の終了までわずか7年しかない。単純計算では1500万円×7で1億500万円のキャッシュフローが入る。

 ただし問題がある。それはお金の「現在価値」だ。将来の1500万円は今の1500万より価値が低い。7年間の総キャッシュフローは、額面では1億500万円だが、実際の価値はそれより低いのだ。ちなみに5%の割引率を当てはめてみると、つまり、お金の価値は毎年5%ずつ下げると計算すると、現在価値は86,795,601円にしかならない。

 ところで、価値が5%も下がるわけがないと思う人が多いだろう。最近インフレがひどくなってきたが、それでも5%もはない。しかし、価値が下がる理由は他にもある。一つはリスクだ。今持っている1,500万円は確実に手元にある。しかし、7年後はどうなるか分からない。太陽光発電は買取が補償されているからリスクが少ないが、天災でパネルが使えなくなる可能性はゼロではない。

 そんなことよりももっと大きな理由がある。それは、この1億を他のものに投資すればどれだけ儲かる可能性があるかということだ。太陽光発電に投資すると、その1億円を他の投資に使えなくなることを機会コストと呼ぶ。他に5%以上で回る投資があるにも関わらす、5%の投資をすると、機会コストの方が高いので損になるということだ。

 もちろん、高リスク・高リターン、低リスク・低リターンなので、同程度のリスクの投資で得られる利回りが、機会コストになる。その利回りによって将来のお金を割り引いて、現在の価値を出すのだ。

 そんなややこしい話をしなくても、もっと誰にでもわかる大きな問題がある。7年たって固定価格買取期間が終了した時、発電設備を廃棄処分するのにまたお金が掛かるのだ。廃棄せず固定価格買取後も個別に電力会社と交渉して売電する方法もあるが、売電価格は保証されてないし、20年以上経過した設備の老朽化やメンテナンスにもお金が掛かるだろう。

 私がブログでよく使う言葉にIRRというのがある。訳すと内部収益率。これは、1年にどれだけの利回りがあるかという単年の収益率ではなく、売却益も含めた全キャッシュフローの利回りで、総合利回りとも呼ばれる。

 この投資は、毎年15%の利回りがあり、7年後に初期投資の1億円がすべて戻ってきたら、IRRも15%になる。ところが、不動産と違って、この投資には売却益はない。それどころが、撤去に1000万ほど余分に経費が掛かるのだ。その場合、IRRはどうなるだろうか。初期投資額1億円、毎年のキャッシュフローを1500万円、7年後の撤去費用を1000万円として計算してみよう。

 これで計算するとIRRは-1.37%になる。15%よりはるかに低いどころか、損をするということだ。この場合、9500万円未満で買わなければ利益が出ないということになる。15%になるためには、58,646,926円で購入しないといけない。

このような知識を体系的に習得したい方は、他にいくらでも出版物があるので、勉強してほしい。私も、不動産投資診断士というビデオ・シリーズを作った。リンクを貼っておくので、利用していただければ幸いだ。

https://www.youtube.com/channel/UCX9Rnz8A1HN3Tb6Sh_-lfyg

 それにしても、どうしてこんな条件の悪い投資にまんまと乗ってしまったのか?固定買取期間が20年、設備の廃棄にお金が掛かる。そのことを十分に知っている投資家は、利益が出ているうちに売り抜けようとする。そこで投資のことをほとんど知らない素人の高齢者に、老後の資産運用として太陽光発電を勧めたわけだ。

 その時のうたい文句が利回りだった。譲渡益はないが、単年の利回り15%だけを強調したのだ。確かに利回りだけ見るとほかのどんな金融商品よりも高い。「いまどき利回り15%というような投資物件はほかにない」「早い者勝ちですよ」と言われ、つい乗ってしまう。

 何のことはない、国の固定価格買取制度の期限の存在や、設備廃棄費用など、基本的なことに対する知識や情報があれば、たとえ年15%の利回りであっても、利益にならない投資であることに気が付くはずだ。さらに現在価値の考え方やIRRの概念が分かれば、赤字になるとわかる。

 悪質であることは確かだが、業者は嘘をついたわけではない。7年間は15%の利回りがあるわけだから、詐欺罪にはならないだろう。利回りと一言で言っても、いろいろな種類があり、同じ定義の利回りでもいろいろな呼び方がある。くれぐれも注意し、自信のない人は必ずセカンドオピニオンを聞いてみるべきだ。

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