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ミズーリの陪審団、全米不動産協会と仲介業者が手を組んでコミッションを膨らませていたとの陰謀に有罪判決

2週間にわたる証言の後、カンザスシティの陪審団は、NAR(全米不動産協会)、ホームサービシズ、ケラー・ウィリアムズの共謀に有罪判決

 米国では、通常、売主が買主の仲介業者のコミッションも払います。これは法律ではなく、商慣習で、NAR(全米不動産協会)もこれを支持しています。コミッションは、いくらと決まっているわけではありませんが、相場はあります。以前は売側も買い側も3%が多かったですが、最近は、特に買い側が下がりつつあります。今は、買主本人がポータルサイトを見て物件を探すことが多いので、業者の仕事が減ったのです。

 NARは、売主が買主側のコミッションを払うことによって、初めてマイホームを買う人が買いやすくなると主張し、この慣習を弁護しています。しかし、問題が二つあります。一つは、売主はそれを払いたくない。もう一つは、これをある程度高く設定しないと、買主のエージェントがその物件を買主に見せたがらないと言うことです。

 この慣習はもう100年以上続いているのですが、正当ではないとして、現在、全国でいくつもの訴訟が係争中です。その中で判決が最初に出たのがミズーリ州の裁判で、2023年10月31日でした。今日はそれについて解説したいと思います。訴訟は、売主が訴えたものと、買主が訴えたものがありますが、今回判決が出たのは、売主が原告です。

 ところで、コミッションを払わなくてもよい買主が、なぜ訴訟を起こすのかと思われるかもしれません。買い側のコミッションも結局は家の値段に上乗せされており、住宅価格を釣り上げていると言うのがその主張です。

 アメリカ人は一生に6~7回マイホームを買い換えますので、買った家を売るときにはコミッションを自分が払わなければならなくなります。買主が自分の業者にコミッションを払うようになれば、自然と安い業者を選ぶようになりますので、買い側のコミッションはもっと下がるはずだと言うのです。

 陪審団が出した判決は原告の勝利で、賠償金は17億8000万ドル。1ドル150円で換算すると、何と2670億円です。判決を出すのは陪審団ですが、最終的に賠償額を決めるのは裁判官です。独占禁止法に触れる場合、裁判官が賠償金をこの3倍まで引き上げることもできますが、その結果はまだ出ていません。

 NARや不動産仲介業界がもっと恐れているのは、売主が買主のコミッションを払うと言う商慣習自体を、裁判官が禁止するかもしれないということです。そうなると、買い側のコミッションが急落する可能性があるからです。

 この集団訴訟では、もともとリマックスとエニーウェアと言うフランチャイズも被告になっていました。エニーウェアと言うのは、聞いたことがないかたが多いと思いますが、旧称リアロジーで、センチュリー21やサザビーなどのフランチャイズを持つ巨大不動産フランチャイザーです。

 この2社は、9月、この訴訟だけでなくほかの二つの訴訟も含めて、1億3800万ドル(207億円)で示談にしました。これらの訴訟は、示談にしなかったフランチャイズとまだ係争中で、賠償金が137億ドル、あるいはその3倍になるかもしれないと言われています。日本円では2兆円、3倍になると6兆円を超えます。

 この判決が出てすぐ、原告は、コンパス、Exp、レッドフィンなど、今回の訴訟には含まれていない7社も訴えました。一方、NARは上告をする予定です。他にも多くの訴訟があるので、相反する判決が出る可能性もあり、最終的に最高裁まで行く可能性も高いと思います。

 現行の慣習によって、消費者が余分に払っているコミッションは、全国で1年に500億ドルとも言われます。このような訴訟が全国に広がった場合、賠償金の総額は4000億ドル(60兆円)にも達する可能性があると言われています。そんな額は到底払えませんので、破産覚悟で一か八か裁判するか、払える範囲内で示談にするか、どちらかでしょう。

原告に味方する仲介業者

 レッドフィンは、今回の新しい訴訟で被告になりましたが、以前から、原告に賛成する発言をしています。実際、レッドフィンはコミッションを他より下げています。レッドフィンは、なぜコミッションを下げることができるのでしょうか。

 米国のコミッションは、ヨーロッパ諸国に比べると非常に高いです。一度売れると多額のコミッションが入るので、リッチになるのを夢見てエージェントになる人が多いのですが、その多くは成功せず、辞めていきます。エージェントのほとんどは自営業で、仲介会社であるブローカーののれんを借りているだけです。

 仲介会社も、エージェントを雇いたくはありません。エージェントになる人の多くが、営業ができなくて辞めていきますので、そのコストを負いたくはないのです。また、今のように不動産が売れなくなると、給与支払いが難しくなります。安定した経営をするためには、エージェントが自営業者として働くエージェント制が好都合なのです。

 しかし、欠点もあります。成功を夢見ている多くのエージェントが、コミッション目当てに莫大な時間を使って営業をしているので、非常に非効率的です。その問題を解決したのがレッドフィンです。

レッドフィンは、もともと米国の不動産ポータルサイトです。それを利用して集客し、コミッションを下げてでも、薄利多売で儲けているのです。つまり、営業はサイトがやってくれるのです。従業員として雇われたエージェントは、流れ作業のように自分の受け持ちの仕事をすれば、平均的エージェントの倍以上の給料がもらえるのです。これに関しては、いくつかビデオを作っていますので、参考にしてください。

堅実に成長を続けるREDFIN(レッドフィン):日本でも可能か
元サイトで動画を視聴: YouTube.
レッドフィンCEOがインマンのコンフェレンスでエージェント募集?
元サイトで動画を視聴: YouTube.

 これに少し似ているのが、チームと言う考え方です。自営業でエージェントをしている人が成功すると、忙しくなり、自分一人で仕事をこなすことができなくなります。そこで、仲介会社内でほかのエージェントと組んで自分のチームを作り、自分でなくてもできる仕事をほかの人に任せ、コミッションを山分けにするのです。

 コミッションが減ると、レッドフィンやチームのようなビジネスモデルでないと立ち行かなくなり、エージェントになりたいと言う人が激減する可能性があります。営業に多大な時間をかけるのは生産性が低いので、私は、これはいいことではないかと思います。

 日本も不動産業者の数が非常に多く、小さなパイを取り合っているのは、コミッションが高いからかもしれません。最近、日本人の生産性の低さが問題視されていますが、その中でも不動産は最低レベルです。しかし、日本の場合、不動産価格が安いし、また一生に一度しか買わない人が多いので、ちょっと事情は異なります。

 不動産業者は、NARに属さなければ仕事ができないわけではありません。レッドフィンは、そのビジネスモデルがNARとかなり違うことが一つの理由だと思いますが、10月12日にNARを脱会すると発表しました。NARでセクハラの訴えがあったこともその理由の一つに挙げられていますが、ビジネスモデルが違うので、NARを必要としないことが脱会できる理由だと思われます。

 また、今回訴訟を示談にしたリマックスとエニーウェアは、フランチャイジーのブローカーやエージェントがNARの会員である必要はないとし、今までの方針を変えました。米国最大の職能団体であるNARに陰りが見え始めているのです。

ハワイでの反応

 ハワイでも、ほとんどの業者がこの判決に対して批判的ですが、ホノルルの異端児的存在であるOahuRE.comのブリン・コフマン氏は、これに賛同しています。彼は、これらの一連の訴訟が始まった2019年に、業界誌インマンに寄稿し、現行の慣習を批判しています。

 NARの規則では、取引期間中いつでもコミッションを交渉できるとありますが、実質的には、売主がその仲介業者と媒介契約をするときに決まってしまうのです。何でもオファーがあった時点で交渉できるのに、コミッションだけはそれができないと言うのです。

 コフマン氏は、コミッションの額を交渉したい売主に対して、買主の仲介会社に払うコミッションの額を1セントにしておけばよい、とアドバイスするそうです。もちろん買い側の業者はそれでは困りますので、上げて欲しいわけです。しかし、買いたいと言うオファーを出すのは買主ですので、コミッションを上げることもそのオファーに含めなければなりません。買い側の業者が売側の業者と勝手に交渉することはできないのです。

 しかし、コミッションが低い方が、売主がオファーを受け入れる可能性が高いので、買主はコミッションを上げたくありません。買い側の業者がそれでは足りないと言うことになると、買主が業者に足りない分を払うことになるかもしれません。このようにして、コミッションは下がって行くだろうと言うのです。

 コフマン氏は、買主が自分でコミッションを払うような制度になるには、政府の介入が必要になるだろうと述べています。実際、既に司法省が介入し、コミッションをポータルサイトに載せなければならなくなりました。以前は、それがなかったので、買主のエージェントがコミッションの低い物件を買わせないようにしても、買主はその理由が分からなかったのです。

 私が属しているIREM(全米不動産管理協会)も、CCIM(全米認定不動産投資顧問協会)も、NARの傘下にある団体です。先月IREMのグローバルサミットがトロントで開かれたとき、何人かの人にこの問題について聞いてみましたが、IREMは管理の団体なので、影響はないと言う意見がほとんどでした。

 またCCIMは事業用不動産の団体で、マイホームの売買は関係ありません。事業用不動産のコミッションは、住宅の様な慣習はなく、その都度交渉しますので、影響はないものと思われます。

 最終的な結論が出るのはまだ何年か先のことだと思われますが、今後の動向が気になるところです。

 ところで、日本の不動産屋に「3%のコミッション、どうにかなりませんか」と聞くと、ほとんどの場合、3%が相場ですと言う答が返ってくるでしょう。米国では、コミッションの相場がいくらだと伝えることは違法なので、「弊社は3%です」としか答えられません。お客さんは、じゃあほかに行って聞いてみますと言うことになるわけですね。その辺が日本と違うところです。

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ミズーリの陪審団、全米不動産協会と仲介業者が手を組んでコミッションを膨らませていたとの陰謀に有罪判決
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