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iバイヤー、パワーバイヤー2021年総決算

i(アイ)バイヤー、パワーバイヤーの2021年の動きを総まとめ!

 今までにも、iバイヤーやパワーバイヤーに関するブログを何度も書いてきましたが、今年一年その現状を振り返って、まとめてみたいと思います。iバイヤーとは、ITを駆使した薄利多売の転売です。パワーバイヤーには、大きく分けて2種類あり、買主のお客さんが買いたい物件を先に買ってあげて、ローンが下りたらその家をその客に売るタイプと、旧居を売って、新居を購入する際のギャップを埋めてくれるつなぎローンタイプです。特に前者の方は、何でそんな面倒なことをするのかと思うかもしれませんが、順を追って説明していきます。

iアイバイヤー:iBuyer (アイバイヤー)とは

 iバイヤーは、日本の転売と違い、修理して値段を吊り上げて儲けるのではありません。住宅売買でそのシェアを伸ばし、業界を変えようとする、所謂ディスラプター(かく乱する者と言う意味)です。もちろん修理はしますし、値段もその費用以上に上げなければ成り立ちませんが、なぜこんなモデルを思いついたのか、不思議に思われる方も多いでしょう。

米国は、日本と違い、一生に6~7回住宅を買い替えます。しかし、ほとんどの場合、先に旧居を売らないと、新居が買えません。でも、iバイヤーなら、普通の買主と違って、特定の日に購入する必要がないので、顧客が新居を購入するタイミングに合わせて旧居を買ってくれます。旧居と新居の売買を同時にするのは大変で、その間賃貸したり、旧居が売れてから家賃を払ってそこに数週間住まわせてもらったりしなければならないという悩みありました。iバイヤーがそれを解消したのです。また、新居購入のオファーをするときに、旧居が売れたらと言う条件を入れる必要がないので、その点でも有利になります。

Zillow(ジロー)がiBuyer事業から全面撤退ーインマンー

これは話題を呼びましたが、市場シェアはまだ1%以下です。米国一の不動産ポータルであるジローも参入しましたが、失敗して11月に撤退したばかりです。現在の米国は、空前の不動産ブームで、不動産価値は年に2割くらい上がっています。それでも失敗するくらいなら、買い手市場になれば他のiバイヤーも危ないのではないかと危惧する人もいます。また、住宅ブームが終わると、今までのように、機関投資家がiバイヤーから戸建をまとめて購入するということも、なくなるかもしれません。

はい、住宅市場は2022年に冷えます。その理由は(インマン2021年10月26日)

パワーバイヤーとは

iバイヤーに少し遅れて現れたのがパワーバイヤーです。時系列で言うと、つなぎローンの方が少し早かったと記憶していますが、買いたい家を先に買ってくれるモデルを先に説明しましょう。その方が、iバイヤーとの類似点や相違点がよくわかると思います。

このモデルでは、買主が、住みたい家を業者に先に買ってもらい、一定期間、業者に家賃を払ってそこに住みます。その間に旧居を売り、新居購入のローンをもらって、業者から買い戻すのです。そうすることによって、買替のジレンマを解消できますが、iバイヤーより優れているのではないかと思われる点がいくつかあります。

一つは、名の通った業者が現金で買ってくれますので、オファーが少々低くても、売ってくれる可能性が高いということです。米国では、結局ローンがもらえなくて解約になることがよくありますが、その心配は無用です。もう一つは、業者が購入する時点で、既に買主が存在するという点です。iバイヤーの場合、購入した家を誰かが買ってくれるという保証はありませんが、パワーバイヤーは、家を顧客の代わりに購入して、数か月後にはその顧客に売りますので、リスクが低いのです。さらに、購入まで時間がかかっても、家賃を取ることができます。

次は、つなぎローンです。これが一番わかりやすいと思いますが、旧居を担保にしてローンを出してくれます。それに頭金を足して、新居購入のオファーをするときには、ローンがもらえたらとか、旧居が売れたら買うという条件が必要なくなります。このモデルが、前者より優れていると思われる理由は、売買が一度で済むので、コストが低いことです。

これらのモデルは、iバイヤーと区別して、パワーバイヤーと呼ばれます。この言葉を使い始めたのは、不動産評論家のマイク・デルプリート氏ですが、なぜ「パワー」なのかと不思議に思っていました。パワーバイヤーの一つであるザヴィーのステファン・ピーターソン氏によると、買主に力を与える(エンパワー)からだそうです。住宅市場の高騰で、多くの機関投資家が住宅投資に参入しましたが、彼らは皆現金で購入します。パワーバイヤーは、機関投資家に打ち勝つパワーを与えてくれるというわけなのです。

住宅売買仲介サービスの一元化が進んでいる

これらの新ビジネスモデルに伴い、サービスの一元化が進んでいます。仲介、ローン、保険、エスクロー(第三者預託)などのサービスを、一社で済ませることができるようになりつつあるのです。住宅売買では、多くの事柄が複雑に絡み合って同時進行しますが、一社ですべてできるようになると、業務がスムーズになります。しかし、何よりもその強みは、コスト削減です。仲介で損をしても、ローンで儲ければよいというモデルが成り立つのです。

その点、売りと買いが別々になるiバイヤーは不利です。売主は、iバイヤーに売った後新居を購入するにしても、iバイヤーからローンを借りる理由は特にありません。iバイヤーから購入する顧客も、iバイヤーのローンの条件が他より勝っていない限り、ローンを借りることはありません。パワーバイヤーは売り買いの両方に関わることが多く、ローンがその欠かせない部分であることが多いので、ローンを利用する確率は7割ほどです。

仲介業に参入した住宅金融業者のコミッションが0? ーインマンー

そのよい例が、10月のブログでも紹介したベター・モーゲージです。ベターは、米国で十の指に入る住宅金融機関ですが、仲介に乗り出しました。その時のブログでは、参考にしたインマンの記事が不正確で、コミッション0と書きましたが、正確には、売り側の仲介コミッションが0です。買い側もベター不動産のエージェントであれば、1%で済みます。米国では、売りも買いも売主がコミッションを払い、多くの市場で3%ずつですので、1%で済めば、売主は大助かりです。

また、今までは仲介業者が顧客を金融業者に紹介することが多かったですが、今は、その逆も増えています。売り手市場ですので、買い手は、貸出限度額をちゃんと調べてから家探しをすることが増えたのです。ハワイでも売りに出して平均10日ほどで成約しますので、買いたい家を見つけてから銀行に行ったのでは遅いのです。

ベターのような大会社が、単に仲介に参入するだけでなく、パワーバイヤーに参入したことは、この市場の将来を物語っていると思います。また、米国最大の住宅金融業者であるロケットのフィールド氏も、パワーバイヤーに参入しますかと言う問に対して、「会社刷新について話し合い、必ずすべてのオプションを持てるようにする」と答えています。ちなみに、ベターは最近社員を900名解雇しましたが、それは、金利が上がって、ローンの借換え市場がなくなったからです。コロナで金利が下がり、ローンの借換えが非常に増えましたが、これからは購入ローンで勝負しなければなりません。

住宅売買の頭痛の種は、他にもあります。鑑定額が契約額より低く出るというのも、その一つです。その場合、ローンの額が減りますので、その分頭金を増やすか、価格を下げるように再交渉しなければなりません。パワーバイヤーは、この問題も解消しようとしています。なんと、その差額を補償するというのです。これらのサービスにはフィーを払いますので、保険のようなものだと言っていいでしょう。他にも、旧居が売れなかった場合の買い取りなど、様々な事態から守ってくれるのです。

キャッシュオファーで立ち上げたリボンが、鑑定補償サービス開始(インマン2021年8月28日)

 

不動産売買のもう一つの悩みは、家の点検です。点検をして売主も知らなかった問題が見つかり、修理しなければならなくなったり、家の値段を下げたりしなければならないことがよくあります。その交渉がうまく行かなければ、最悪、解約と言うこともあります。パワーバイヤーであるリボンは、これを保証するサービスを提供すると発表していますが、具体的にどのように補償するのかは、まだ分かりません。

iバイヤーVSパワーバイヤー

 以前から述べているように、私にはパワーバイヤーの方が有利に見えてなりません。ピーターソン氏によると、iバイヤーの顧客転換率は5~6%だそうですが、パワーバイヤーは30%もあるそうです。何から何への転換なのかは、書いてないので明確ではありませんが、有効面談後に契約する顧客の割合でしょう。

これらの動きを、不動産仲介業者やエージェントはどのように見ているのでしょうか。例えば、リアロジーは、センチュリー21、サザビー、コールドウェル・バンカーなどの仲介フランチャイズだけでなく、その他多くの不動産関連フランチャイズを持っています。このような巨大フランチャイズは、それらのリソースを活かして、iバイヤーやパワーバイヤーに参入し、関連サービスも一元化し始めています。しかし、独立系は難しいでしょう。

エージェントに関しては、先に説明しておかなければならないことがあります。米国のエージェントの多くは自営業ですので、自分がのれんを借りている仲介業者が不利だと思えば、いつでも乗り換え可能です。もう一つ知っておかなければならない点は、iバイヤーやパワーバイヤーには、既存の仲介業者のエージェントと協力する業者と、自社でエージェントを雇う業者があります。顧客転換率が3割もあれば、潜在顧客発掘のために長時間かける必要はなく、丸一日、仲介実務に没頭すればよいだけで、収入も自営業のエージェントよりうんと高いのです。

私がコールドウェル・バンカーで働いていたのは、もう2年前ですが、ほとんどのエージェントがこれらの新モデルにアレルギー反応を示していました。ハワイ市場にはまだ参入してない会社が多いので、それほど大きな問題にはなってないようです。しかし、これらの新規事業がどんどん参入しているメインランドの大市場では、これらのモデルについて顧客に聞かれて、エージェントが答えられないということも多いそうです。

今の時代、エージェントとして生き残っていくためには、このような新モデルの企業に雇われるか、エージェントを雇ってない企業の仕事を取り入れるかしないと、難しいでしょう。ジローのように、撤退して解雇されることもあるでしょうが、元々自営業ですから、ダメもとです。

何十万ドルものお金を払って家を買うのは、顧客ですので、彼らはよく調べています。リボンのウェイ・ガン氏によると、創設当時は誰も相手にしてくれなかったが、iバイヤーが有名になってから、問い合わせが急増したとのことです。顧客に対して、色々なオプションを提供してあげられることが、生き残る道でしょう。

日本は、習慣が異なりますので、米国と同じモデルが導入されるかどうかは疑問です。既にパワーバイヤーを取り入れている会社はありますので、今の状態がいつまでも続くとは思えません。先日、ある有名な不動産サイトの方とお話ししていたのですが、宣伝費を払って利用してくれる仲介業者から、「まさか御社が自分で仲介を始めることはないでしょうね」と、頻繁に聞かれるそうです。そんなことはないと答えるそうですが、果たして本音なのかと疑ってしまいます。米国でも、iバイヤーやパワーバイヤーを始めた不動産サイトはジローだけでなく、その逆もしかりです。

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