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聖書はヘイトスピーチ? 全米不動産協会の新倫理規定 ーインマンー

牧師をしながらリアルターとして働いている方が、教会からフードバンクに寄付をして、貧しい子供たちにお弁当を配っていました。ある日、LGBTQプライド月間に関するチラシがお弁当に挟んであるのを見て、その内容に同意できなかったため、フードバンクに相談しました。合意に達することができなかったので、寄付を止め、教会独自ですることにしたのです。今日は、それが全米不動産協会(NAR)倫理規定に違反するとして、訴えられたことを解説します。

差別的言動を仕事以外でも禁じる倫理規定

 今年1月の、「アメリカ議会襲撃に参加した会員を全米不動産協会は罰するのか」と言うブログでも述べましたが、NARは、2020年11月、人種などの差別的言動を仕事以外でも禁じる倫理規定を作りました。その後、今年5月に、宗教は名誉棄損や差別の言い訳にはならないという判例が出ました。ちなみに、私が属する全米不動産管理協会(IREM)、全米認定不動産投資顧問協会(CCIM)は、NARの傘下の団体です。どちらも、職業倫理規定がありますが、それらは、主に仕事に関する行動のみに適用されます。

アメリカ議会襲撃に参加した会員(リアルター)を全米不動産協会は罰するのか

牧師の教会の活動が倫理規定違反?

 この倫理規定に違反したとして匿名で訴えられたのは、モンタナ州ミズーラのクリントン・コミュニティー教会ブランドン・ヒューバー牧師です。以下は、フードバンクへの寄付を取り止め、独自でお弁当を配ることに関する彼の教会員への手紙で、これがヘイトスピーチだと訴えられたのです。

「過去2年間同様、今年も、『子供はただで食べられる』サマー・ランチ・プログラムをするため、ミズーラ・フードバンクと協力しました。夏休み中、お弁当で、私たちのコミュニティーの子供たちや家族を支援できることは、非常に光栄です。先週、ランチを配っていたときに、中に印刷物があることに気付いたのですが、それは、聖書の教えに反するものでした。フードバンクとも話し合いましたが、私たちとフードバンクの信条は、相容れないものであることが分かりました。そのため、クリントン・コミュニティー教会は、2021年7月2日付で、ミズーラ・フードバンクとのパートナーシップを止めることにしました。(今後どのように独自で継続するかの説明は中略)

クリントン・コミュニティー教会は、皆さんの背景や、今人生でどのようなところを通っておられるかに関わらず、全ての人を愛し、支援することを知っていただきたいと思います。教会は、その全ての行動において、イエスの愛を示すよう努力し、同時に聖書の道理や真実、また私たちの信仰を貫きます。私たちの目標は、コミュニティーの子供たちに無料のランチを提供することです。」

訴えによると、ヒューバー牧師は、「リアルターは、人種、肌の色、宗教、性別、障害、家族関係、国籍、性的指向、性別認識に関する嫌がらせの発言、ヘイトスピーチ、軽蔑の言葉、中傷をしてはならない」というNARの規定に違反しているということです。匿名の告訴人は、「ヒューバー氏は、彼の宗教的バイアスと彼自身とを区別することができず、どのような状況においても、LGBTQIAS+コミュニティーに対する生得的なバイアスを持ち続けるであろう。」と述べています。

LGBTQIASと言うのは、私も初めて見ましたので、検索したところ、LGBTQIAまでは見つかりました。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クイアー(異性愛者以外の総称)、インターセックス(間性)、アセクシャル(無性)だそうです。

告訴人は、「『ゲイは恥ずべきことであり、聖書を汚す』という彼のSNSポストは、全部消されており、誰かがスクリーンショットを撮ったことを願うのみだ。」とも述べています。なぜ自分が撮らなかったかの説明は見当たりませんでした。しかし、ヒューバー牧師は、LGBTQコミュニティーを「恥ずべき」ものだと言ったことはないし、同性愛者の子供たちにランチを上げるのを断ったこともないと主張しています。

牧師の訴えが政治運動に発展

 告訴が匿名であろうとなかろうと、NARは、訴えに相当な根拠があると判断すれば、聴聞をします。私が殺人事件を目撃して匿名で警察に通告した場合と同じで、犯人を逮捕して十分な証拠があれば、裁判になるのと似ています。IREMは倫理規定と施行が厳しいので有名ですが、訴えの多くは、証拠不十分や、IREMの倫理委員会で扱うべき問題ではないなどの理由で、却下されます。

NARは聴聞する決定を下しましたので、ヒューバー牧師は、それにおとなしく出て、違反したかどうかの判決を待つこともできましたが、弁護士を雇い、NARのヘイトスピーチ・ポリシーが、曖昧で施行できないと訴えました。調べたところ、この弁護士は元政治家でした。米国は小さな町でもラジオ局が多いのですが、地元の保守派ラジオ局に出演し、たちまち政治運動になってしまったのです。

ミズーラのブランドン・ヒューバー牧師のための「レッツゴー・ブランドン決起集会」

この弁護士は、また何かの選挙に出るつもりがあるかもしれませんので、売名行為と言う可能性もあります。そればかりか、教会でヒューバー牧師を支援する決起集会が開催され、州議会の議員も参加したのです。決起集会には、すぐ隣でそれに反対する抗議デモもありましたが、それは至って平穏だったそうです。しかし、ヒューバー牧師には、家族の安全を脅かす電話もあったそうで、田舎町が大騒動になりました。

この記事に対するコメントは、20以上ありましたが、諾名の告訴人に賛成する意見は2割もありません。だからと言って、残りの8割がヒューバー牧師を支持しているわけではなく、元々こんな倫理規定を作るべきでないというのが、大半の意見です。私も同意見ですが、教会はあまり政治に関与しない方がいいと思います。私もクリスチャンで、信仰の自由を守りたいという気持ちはわかりますが、政治は教会の使命ではありません。

このような報道は、その著者がどのような政治的意見を持っているかを見定めることが大切なこともあります。インマンにこれを寄稿したマリアン・マックフェラソン氏は、インマンの記者で、ミズーリ州立大学でジャーナリズムの修士号を取られた黒人女性です。マスコミには革新派が多く、黒人女性であるとなると、典型的なリベラルと思われるかもしれません。仮にそうだとしても、彼女の報道は、事実を報道しているだけという印象です。この事件に関する地方紙ミズーリアンの記事と比べても、公正だと思います。

LGBTQ+不動産同盟CEOの批判的コメント

LGBTQ+不動産同盟CEOのライアン・ウェイアント氏も投稿していますが、「ミズーリの牧師は不動産を止めるべき」と言う題で、批判的です。ウェイアント氏はジャーナリストではありませんので、意見を述べることは当然でしょう。

彼の投稿によると、決起集会に参加したテレサ・マンゼラ議員は、「私が真剣に信じていることに基づいた正しいライフスタイルに沿って生きる私の権利は、彼らの変態のライフスタイルで生きるという選択によって終わるものではない。」という政治家らしい過激な発言をしました。これはヒューバー牧師の発言ではありませんが、自分の教会で開催された決起集会での発言ですので、批判されても仕方がないでしょう。

ミズーリの牧師は不動産を止めるべき:LGBTQ+不動産同盟CEO(インマン12月6日)

ウェイアント氏は、「もし彼の教会が、ジュンティーンス、ヒスパニック伝統月間、旧正月(英語ではチャイニーズ・ニューイヤー)が原因でフードバンクへの参加を止めたら、それを差別だと呼ばないであろうか」と述べています。しかし、これは乱暴な論理で、中国人を嫌って、旧正月をボイコットするなどと言うことは、ちょっと考えられません。LGBTQプライド月間と違って、旧正月にはプロパガンダがないからです。

ジュンティーンスは、米国で奴隷身分であった人々の解放を祝う祝日で、6月19日です。最初に祭日にしたのはテキサス州でしたが、今年から11番目の連邦政府の祭日となりました。仮に、お弁当に挟まれたチラシが、ジュンティーンスに関する急進派のプロパガンダや広報活動だったとしたらどうでしょう。急進派の意見に反対することが人種差別と言うことにはならないと思います。ジュンティーンス自体が良い日だと思っていても、それに関する各自の意見は異なりますので、特定の人が持つ意見に賛成しないからジュンティーンスに賛同しないということにはなりません。LGBTQプライド月間のチラシの内容は見つかりませんでしたが、広報活動であった可能性は大で、その内容に賛成しなかったからと言って、差別になるとは言えないでしょう。

牧師の所属する仲介会社はLGBTQ+コミュニティーを支持

問題はさらに広がります。ヒューバー牧師が属している仲介業者の不動産フランチャイズ、ウィンダミア本社が、何週間もの沈黙を破って、声明を発表したのです。

「市民が、そして弊社に加盟することを選んだ方全員が、弊社の価値観を理解することは、弊社にとって大切なことであると信じていることを、明確にしたいと思います。これには、開放的な組織であり、いかなる差別も許さないということが含まれます。…弊社は、LGBTQ+コミュニティーを支持するのみならず、その中には弊社が最も大切にするエージェント、フランチャイズのオーナー、経営陣、スタッフがいます。弊社は、私たちの一部としてLGBTQ+コミュニティーを完全に受け入れ、会社として、このコミュニティーが最近になって得ることができた権利と認識の進歩を称賛します。…ウィンダミアは、多様性、衡平、開放性にコミットしており、いかなるものであろうと、弊社のブランドに対して懸念を抱いておられるLBGTQ+コミュニティーの方は、ウィンダミア一同、皆様を歓迎し、大切にすることをご理解ください。」

ウィンダミアが反LGBTQのミズーラの牧師と距離を置く(インマン12月6日)

 なぜこの声明を早く出さなかったかについては、従業員やエージェントの解雇はフランチャイジーであるウィンダミア・ミズーラの決断だからと述べています。しかし、それはなぜ今出したのかの答にはなっていません。LBGTQ+コミュニティーからの圧力があったのではと推測する人もいるでしょう。この件がきっかけであったかどうかは書いてありませんが、ウィンダミアは、LGBTQ+不動産同盟に献金したそうです。

倫理と多様性をどう考えるか

私が問題にしたいのは、多様性です。NARは、どのような人に対しても開放的であるべきだと述べていますが、多様性には、人種、性的指向、性別認識などだけではなく、文化、宗教、考え方の多様性も含まれるべきです。宗教は含まれていますが、キリスト教は少数派ではないので、差別の対象とみなされにくいという現実があります。現在のNARの職業倫理では、私が今書いているこのブログも、違反の対象となるかもしれません。書き込みの中にも、自分の書き込みは倫理違反になるという意見がありました。

聖書勉強会と同性愛(インマン2021年11月15日)

実は、これとよく似たケースが既にありました。あるリアルターが、家で聖書勉強会のリーダーをしていました。ある時、たまたま同性愛に関する聖書の言葉を勉強していて、「これらの節は、明確に同性愛を禁じ、咎めているという人もいます。」と述べました。これを聞いた人が彼をNARに訴えたのですが、彼は自分の意見を述べたのではないという理由で、全員一致で違反ではないと判断されました。と言うことは、自分の意見として述べたら、差別とみなされると解釈できます。

そもそも、NARも教会も、政府団体ではありません。ヒューバー牧師の弁護士が、倫理規定自体ではなく、その施行ができないと訴えたのは、そのせいだと思います。つまり、公的機関ではないので、どのような倫理規定を持とうが、その団体の勝手です。教会も、その教えに賛同する人が来るわけですので、テロ組織でも作らない限り、自由です。

ウェイアント氏は、NARの倫理規定が気に入らないのであれば、止めればいいと述べています。NARの会員でなくても、不動産業の免許を取ることは可能ですが、脱退して居住系のリアルターとして働くのは、非常に困難です。それは、NARが司法省から独占禁止法で訴えられていることを見てもわかります。教会や宗教はいろいろありますので、選べますが、NARはそうはいかないのです。

判決がどう出ようと、問題になることは必至です。NARは、これからも似たような告訴が続くでしょう。この倫理規定は、もともと一部の急進派が推進した可能性もありますが、訴訟でヒューバー氏が勝訴して、この規定がなくなることを密かに願っている関係者も、いるかもしれません。長引けば、分裂の可能性もあると思います。IREMやCCIMなどの多くの職能団体のように、倫理規定は仕事上の行動のみに限定するべきではないかと思います。

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全米不動産協会の新倫理規定によると、聖書はヘイトスピーチ?
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