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買主から売主への「ラブレター」を禁止したオレゴン州を仲介業者が告訴 NAR(11月22日)

何のこっちゃと思われるでしょう。売り手市場の米国では、売り物件に複数のオファーがあることが多いです。自分を選んでもらおうとして、「家族がこの家が気に入っており、ここでいい想い出をたくさん作りたい」風の手紙をオファーに添付する買主が増えたのです。これが差別の原因になるかもしれないという理由で、オレゴン州が禁止したのですが、言論の自由を損なうとして、ある仲介業者が州を訴えました。それでは、詳しく、解説していきましょう。

売主へのラブレターは効果的だったが・・・

 去年、コロナ過で不動産が高騰し始めた頃、私の上司のクライアントがある家の購入のオファーを出しました。上司は、多くのオファーがあるだろうと推測し、買主に売主宛の手紙を書かせたのです。当時は、まだこのようなラブレターは珍しく、見事、20以上のオファーの中から、上司のクライアントが選ばれたのです。その時はさすがだなと思いましたが、思いがけない落とし穴がありました。

手紙を受け取ることが差別の原因となる

 この夏、オレゴン州でこのラブレターを禁じる法律ができました。私はハワイですので、直接の影響はありませんが、その理由を説明しましょう。米国では、賃貸においても売買においても、人種、宗教、家族構成などの理由で差別することは禁じられています。ラブレターには、そのような内容が含まれることが多いので、それが理由で特定の買主を選んだり断ったりすると差別になります。売主が意図していなくても、それが理由で自分は選ばれなかったと訴えられる可能性もあるのです。

オレゴン州が買主のラブレターを禁止(NAR2021年7月9日)

差別だと訴えられることを避けるために

これを受けて、全米不動産協会(NAR)は、ラブレターに気を付けるよう、会員に以下を奨励しました。

  • クライアントに、公正住宅法や売主からのラブレターの落とし穴について教える
  • リアルターがクライアントからのラブレターを届けることはしない
  • クライアントが売主である場合は、ラブレターを受け取らないことをMLS(不動産ポータルサイト)に記載する
  • オファーを受け入れるかどうかは、客観的な基準のみがその理由でなければならないことを、クライアントにリマインドする
  • クライアントがどうしても書きたいという場合は、それを助けたり届けたりしない
  • クライアントが書いたり受け取ったりしたラブレターは読まない
  • 受け取ったすべてのオファーと、オファーを受け入れた売主の客観的な理由を記録して保管する

いくつか考えられる例を挙げて、ご説明しましょう。例えば2通のラブレターを受け取ったとし、どちらも家族の写真が添付されていたとします。片方が白人家族、もう片方は黒人家族だとしましょう。もちろん、黒人だからと言う理由で断ることは違法で。リアルターは、それを売主に教えなければなりません。特に白人を選ぶ場合は、なぜそちらのオファーの方が良いか、客観的な理由がなければ、売主にその意図がなくても、人種差別と訴えられる可能性があるというわけです。

米国の住宅にまつわる人種差別の背景とは

 私が最初に購入したマイホームは、ロサンゼルス郊外のパサデナ市にありました。市は、西部が黒人街、東部が白人街でした。パサデナに限らず、黒人街と白人街の境目近辺に住んでいる白人は、家の価値が下がるのを恐れて、黒人街から離れたところに移り住む傾向がありました。市は、これを何とか止めようとし、その地域に安いローンを出したのです。私の記憶では8.625%だったと思いますが、1970年代後半でしたので、当時はそれでも安かったのです。

我が家の隣には、メキシコ系の家族が住んでいました。私たちが家を売りに出した時、「黒人には売らないわよね」と釘を刺されました。最初にオファーをしてくれた人は、ご主人がエール大学出の黒人家族で、私たちは、もちろん彼らに売りました。お隣のメキシコ人夫婦は、人種差別者ではなく、家の値段が下がることを恐れていただけだと思います。

メインランドの不動産に投資をしている方から、ご相談を受けたことがあります。業者から、白人以外の人が物件の近くに家を買うようになったので、もうそろそろ売った方がいいと言われたのですが、どうしたらいいでしょうかと言うのです。米国では、近隣に特定の人種が住み始めたことを理由に仲介業者が売却を勧めるのは、違法ですと答えました。これらの例は、この法律と直接関係はないですが、背景はご理解いただけると思います。

ツリーの前で撮った家族写真を受け取ったらダメ

 NARのサイトでは、クリスマスツリーの前で撮った家族のスナップショットが例として挙げられています。その写真をラブレターに添えると、その家族の宗教が分かるかもしれないというのです。クリスマスツリーの前で写真を撮ったからと言って、クリスチャンだということにはならないと思いますが、宗教によっては、そんな家族写真を撮ったりしないかもしれません。クリスマスツリーで宗教差別と言うことは通常はないので、これはあまり現実的な例ではないと思いますが、それだけいろいろなことが問題になりえるということが言いたいのでしょう。それ以外にも、廊下が広いので車いすを使うのに便利だという人を断ったら、障害者に対する差別になりえるなどと言う例もありました。

言論の自由に反するのでは?

 ところが、トータル・リアルエステート・グループと言う仲介業者が、言論の自由に反するものだとして、州を訴えたのです。ラブレター支持派は、ラブレターが原因でクレームや訴訟になったことなどないと主張しています。「この検閲は、売主がこれらの手紙を見て、少数派を差別するかもしれないというただの憶測に基づいたものだ」と言うのです。

オレゴンのマーク・ミーク議員は、USAトゥデイ紙のインタビューに答えて、「公正住宅法に違反する可能性があり、(取引に)関係ない情報伝達を制限しているだけ」だから、言論の自由を妨げることにはならないと述べています。法律違反を禁止するというのは当たり前ですが、法律違反に至る可能性があり、取引には必要ない情報だから、言論の自由を妨げないという論理は、私にはよく分かりません。

最後に、気になる例をもう一つ挙げましょう。多分、最も売主の心をつかむのは、小さな子供さんがいらっしゃる家族でしょう。この子供たちがこの家で育って、良い思い出がたくさんできればいいなと、誰でも思うでしょう。しかし、家族構成も差別の対象になります。通常、子持ちの家族に賃貸するのを嫌がる大家がいるのが問題なのですが、この場合は逆で、子供がいる方が選ばれやすいということがあるかもしれません。

子供がいない夫婦に対する差別だという理屈は分かりますが、かわいい子供たちがここで育ってほしいという気持ちもわかります。問題になる前からここまで細かいことに法律が口をはさむ必要はないのでは、と言う気もしますが、甘いのでしょうか。自由の国にしてはちょっと法律が多過ぎる、と思うこともある今日この頃です。

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買主から売主への「ラブレター」を禁止したオレゴン州を仲介業者が告訴
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