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ハワイの短期バケーション・レンタルと全国トレンド

 ハワイ大学に、UHERO(University of Hawaii Economic Research Organization)と呼ばれる機関があります。「あなたはヒーローです」みたいな名前ですが、訳すとハワイ大学経済リサーチ団体で、最近、短期バケーション・レンタルが住宅市場に与える影響について調査結果を発表しました。

 2008年にAirB&Bができて、バケーション・レンタルが急増しました。ハワイには565,000戸の住宅があり、そのうち3万戸がバケーション・レンタルとして使われています。オアフ島だけで住宅が25,000~50,000戸足りないと言われているくらいですので、バケーション・レンタルがハワイの住宅市場に与える影響は大きいと思われます。

短期バケーション・レンタルをしている物件が地域全体の住宅戸数に占める割合

 この地図は、オアフ島の短期バケーション・レンタル物件が住宅在庫に占める割合をパーセンテージで表したものです。ご覧のように、時計回りにカフク~ププケア、カアアヴァ~プナルウ、ワイキキ、コオリナ地域に集中しています。

 以下は、短期バケーション・レンタルの宣伝件数です。オアフ島は、2019年に激減していますが、これは違法レンタルの取り締まりが厳しくなったからです。現在のところ、合法的に営業できるリゾート地域の短期バケーション・レンタルは、全体の27%に過ぎないと言うことです。リゾート地域でなくても合法的に短期バケーション・レンタルができる物件も少数ありますが、如何にまだ違法レンタルが多いかと言うことが分かります。

過去4年間の島別短期バケーション・レンタルの推移

 ハワイで、バケーション・レンタルが全体に占める割合は4.7%もあります。以下は、ハワイ州全体、ハワイ州の4島、メインランドの主な市場において、短期バケーション・レンタルが住宅在庫全体に占める割合を示したものです。

 青がAirB&Bで、AirB&Bが全体の82%を占めていると言う統計に基づいて、それ以外のポータル(灰色)の数を推定したものです。ちなみに、複数のポータルで宣伝することは多いので、AirB&Bのシェアが82%もあると言うことではありません。

短期バケーション・レンタルが住宅在庫全体に占める割合

短期バケーション・レンタル業界の展望

 ところで、パンデミックが明けて、いよいよ短期バケーション・レンタル業界が忙しくなるかと思いきや、必ずしもそうではなさそうです。全国各地で、稼働率が減ったと言う報告があります。AirDNAは、短期バケーション・レンタルの2大ポータルサイト、AirB&BとVrboの統計を追跡していますが、2022年は過去最高でした。2020年にコロナで激減しましたが、21年も22年も、予約数は前年比で21%増です。

 そのおかげで、AirB&Bは22年に初めて黒字に転じました。なのに、なぜ今になって減ったのか、理由はいくつかありそうです。

 一つは、コロナが始まってしばらくして、人が少ない田舎に家を買って、在宅勤務をする人が増えました。その人たちの中には、都会に戻ってきた人もいるでしょうし、買った家を別荘として使っている人も多いでしょう。別荘として自分が使っていないときは、短期バケーション・レンタルとして使うこともあるでしょう。

 また、結果的にコロナによって短期バケーション・レンタルの需要が増えたので、金利安に伴い、投資目的で住宅を購入した人も多いと思われます。つまり、需要も増えたが供給も増えたと言うことです。

 もう少し深堀すると、稼働率の高い地域と低い地域がかなりはっきりと分かれます。これにもいくつかの理由があると思われます。

 一つは、パンデミックを避けるために行く地域は、観光で行く地域と必ずしも同じではないと言うことです。有名な観光地は、混雑がひどいからです。それよりも大きな理由は、地方自治体が短期バケーション・レンタルの規制をしたかどうかです。つまり、規制した地域では、供給が増えなかったため、稼働率が高いのです。規制しなかった地域は、供給が増えすぎて、稼働率が減ってしまったと言うことです。

 スーパーボールは、アメフトの優勝チームを決める試合ですが、1試合しかないせいもあり、決勝2チームどちらかのホームではなく、シーズンが始まる前からホストになるスタジアムが決められています。人気があるので、全米どこでやっても、いつも満員になるのです。

 コロナ最中の21年は別として、20年のマイアミも、22年のロサンジェルスも、地域の短期バケーション・レンタルの稼働率は80%でした。ところが、23年のフィーニックスはどうかと言うと、日曜日にある試合の前の木曜日の時点で、52%しか予約が入っていませんでした。その後、値段を下げて、最終的な稼働率は少し上がったようですが、なぜこんなに低かったのでしょうか。

 それは、フィーニックスに短期バケーション・レンタルの規制がないからです。実は、スーパーボールが開かれた今年の2月のフィーニックスの需要は、前年比で60%も増えていたのですが、供給が85%も増えていたため、稼働率が13.6%減ったのです。アリゾナ州は、短期バケーション・レンタルを規制していないどころか、市町村が規制をしてはいけないと言う「規制」があるほどです。

 多くの地方自治体は、短期バケーション・レンタルからの税収入があり、規制したくても経済的理由でできないと言うジレンマがあります。しかし、税収入は主に需要で決まるもので、必要以上に供給があっても、それで税収入が増えるわけではありません。逆に、規制して供給を減らせば、稼働率が増えて儲かるので、より高い税率で徴収することも可能になります。

 カリフォルニア州の有名な観光地、パーム・スプリングスからそう遠くないラキンタでは、短期バケーション・レンタルを規制して、2021年から13%供給が減りました。しかし、2022年の上半期は、前年比で30%も税収入が増えたのです。

 それに比べて、同じくカリフォルニア州のビッグ・ベア・レイクは、需要の増加に従って、供給も激増しました。ビッグ・ベア・レイクは、ロサンジェルスから100マイルたらず、約160キロで、車で2時間ほどのところにあります。

 在宅勤務には適していますので、パンデミック中、需要は増えましたが、今は、パンデミック前の需要に戻りました。その上、規制がなくて短期バケーション・レンタル物件が増え、2022年の稼働率は43%、全国で下から2番目です。供給が増えたときに買った投資家は、パンデミック前より30~40%高く買ったのですが、収益は逆に減ったのです。にもかかわらず、2023年の全国の供給は、さらに140万戸、前年比で9%増えると予想されています。

 果たして規制をするべきかどうかは、簡単な問題ではありません。不動産は、建てるのに、つまり供給に時間がかかりますので、需要が増えたからと言って建て始めても、竣工時には供給過多になっている、あるいは不況になっているということがよくあります。ハワイでも、コンドを建て始めたのはいいが、日本のバブル崩壊やリーマンショックなどで、プロジェクトが頓挫することがあるのです。

 それを避けるため、コンドの場合、一定以上前売りしていなければいけないと言う規制が多くの市場にあります。短期バケーション・レンタルの場合は、建てるのではなく、購入するだけですので、供給に時間がかかることが供給過多の理由ではありません。このビジネスがまだ成熟しておらず、参入するかどうかの決断を助ける情報が足りない、またよく儲かるので、ちゃんと市場調査をしないまま参入する人が多かったと思われます。

 規制は公平度に欠けます。ハワイにも、もう発行されていない短期バケーション・レンタル許可を、何十年も前にもらった物件が数百戸あります。そのオーナーたちだけがこの利権を持つと言うのは不公平です。市場に任せて、うまく自然に淘汰されるかどうか、待ってもよいのではないかと思います。

 オアフ島は規制が厳しいので、フィーニックスのようなことにはならないでしょう。これから法律が変わる可能性は十分にありますが、ハワイの場合、心配なのは、フィーニックスのように供給過多になって稼働率が落ちることではなく、規制が厳しくなって短期バケーション・レンタルができなくなる、あるいは税率やフィーが上がってあまり儲からなくなることの方が問題になる可能性が高いと思われます。

 ホノルルの場合、今のところ、リゾート地域以外でも、30日以上であればバケーション・レンタルをすることができます。市は、何とかしてこれを止めさせようとしています。リゾート地域以外のバケーション・レンタル目的の投資は、規制が厳しくなってできなくなったらどうするかを計算に入れた上でするべきです。

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ハワイの短期バケーション・レンタルと全国トレンド:市場二極化
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