ある上場会社の社長から弊社の河野社長に電話があった。
「ゴルフ場買収の話、河野に興味があるのであればやるけど…。」
ゴールドマンサックスがゴルフ場を数か所保有している会社を買収した。その中で要らないものを、債権を持っている銀行につき返したものらしい。このゴルフ場が破綻したらただの山林が残るだけ。そこでこの社長に話を持ち掛けたのだろう。2004年当時、ゴールドマンサックスは日本中の破綻したゴルフ場を買い集めていた。破綻した、または破綻しかかっているゴルフ場をかたっぱしから買いたたいたのだ。
河野は知り合いのバリー・ヘニンガーに再生計画のアドバイスを求めた。この男は、当時米国最大のゴルフ場経営委託会社の極東社長だった。バリーは、快く日本で1週間レクチャーし、オーストラリアで3日間、彼が管理するゴルフ場を見学させてくれることになった。彼が求めたのは、
市場分析、
日本のゴルフ人口、
地域のゴルフ人口、
日本のゴルフ場プレー料金
地域の施設
プレー料金の推移
しかし、彼はそのほとんどの資料を自分で持っていた。日本でゴールドマンサックスに対抗してゴルフ場買収をしていたローンスターのアドバイザーをしていたので、日本のゴルフ市場のこともよく知っていたのだ。
レクチャーの冒頭、このゴルフ場はブロンズだと言われた。我々は、15人のメンバーで彼の講義を聞いていたのだが、皆、顔を見合わせて、きょとんとしていた。
彼が言うには、ゴルフ場はプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズに分けられる。今回の案件は物件（ゴルフ場施設）がブロンズだから、経営も、顧客ターゲット層もブロンズでいいと言うのだ。日本のゴルフ場経営は猫も杓子もプラチナのサービスや管理品質を求めている。これは大きな間違いだ。ビジネスでは、見栄を張れば張るほど損をする。日本は全てにおいてサービス過剰だ。
具体的に言うと、サービス、管理品質もブロンズで良い。ハウスの従業員が多すぎるので、必要最小限にとどめる。サービスもほとんどいらない。出迎えサービス不要。故障していたサウナも修理する必要なし。ハウスキャディーなしですべてセルフ。スループレーあり。茶店廃止。グリーン管理費半額で、プレー費も半額。ビジネスはこの見極めが最重要。
その後オーストラリアに行って、実際、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズのゴルフ場を見て回った。「見た」と言うより、実際プレーしたのだ。私も通訳でついて行ってプレーした。
私はハワイに住んでいるが、ゴルフには興味がない。というか、ほとんどのものに興味がないつまらない人間なのだが、あんな小さい球を、あんな長い棒で打って、あんな遠くにある、あんな小さな穴に入れて、どこがおもしろいのか。ましてや、なんでわざわざハワイからゴールドコーストまで行ってそんなものを見なければならないのか、退屈の極みだ。
それはともあれ、彼の言いたいことはよくわかった。私も付き合いで何度かハワイでゴルフをしたことがあるが、市営の安いところとプライベートの高いところでは、雲泥の差がある。私にとってはどうでもいいことだが、その違いくらいは私でもわかる。
おかげでこのゴルフ場再生は、他のゴルフ場に妬まれた以外、大成功だった。ただし、私と違って、こういうどうでもいいことを気にする河野社長は、自分が再生したゴルフ場でプレーしたことは一度もない。自分はプラチナがいいのだろう。我がまま。
これは、弊社がコンサルをしてもらった例だが、このコンサルは他にも適用できる。そのもっとも分かりやすい例がマンションだろう。マンション用地は、地域・近隣・個別要因を基にした格付けが必要だ。その格付けがシルバーなら、設計も何もかもシルバーでいい。この地域の入居率が他の地域と比較して悪ければ、家賃は少し低く設定して入居率アップを狙う。シルバーの条件でシミュレーションをして判断するべきだ。
米国の基準からすると、日本には、一部の大都市圏以外、プラチナにあたるものはほぼない。米国なら、プール、ジム、テニスコートなどがあるのは普通で、それだけでプラチナとは言えない。そのくらい、豪華なものは豪華だ。
日本のマンションは、アメリカではさしずめゴールドかシルバーだ。私が子供のころは、日本の家はウサギの巣と言われたものだ。だいぶんよくなってきたものの、まだ比べ物にはならない。アメニティーもほとんどないし、部屋も狭い。しかし、これはアメリカと比べても仕方がない。日本国内で4段階に分ける必要がある。
ところが、日本人はどういうわけか他と比べて見劣りしないものを建てようとする。バリーの話にも合ったように、日本人は見栄が強いのだろう。シルバーやブロンズではみっともないという気持ちが働くようだが、見栄で投資は成り立たない。そこに住む人は、生活が懸かっているのだ。家賃が払えなければ住めない。
これを間違えると、宝の持ち腐れ。ゴールドコーストのプラチナのゴルフ場で私にプレーさせるようなもんだ。くれぐれもご注意のほどを。
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