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マウイ市長がバケレン7千戸削減条例案:他島も追随か?

 州議会が、短期賃貸をより厳格に規制する権限をハワイの各郡に与える法案を可決する、と先日のブログでお伝えしましたが、予想通り5月1日に可決されました。その翌日、グリーン州知事が法案に署名して正式に州法になる前に、マウイ郡のリチャード・ビッセン市長は、早速バケレン規制条例案を提出しました。2026年1月1日までに、島の在庫の半分以上に当たる7,000戸以上のバケーションユニットを排除するというものです。

 その背景にあるのが2023年8月8日のラハイナの大火災で、少なくとも101人が死亡し、2,100以上の建物が破壊され、約13,000人が家を失いました。当初は、8千人近くの住民が46のホテルで生活していましたが、現在も約700家族、1,785人が八つのホテルで生活しています。

 火災の後、家を失ったマウイ島民などで構成されるラハイナ・ストロングという団体が、カアナパリ・ビーチを占拠し、「尊厳ある住居」を要求するデモ活動を続けていました。この団体は、この条例案の提出を機に、175日にわたる占拠を終了すると発表しました。

 市長の条例案は、ミナトヤリストと呼ばれるアパート・ゾーニングのバケレンを段階的に廃止します。アパート・ゾーニングには、コンドも含まれます。これは、違法短期賃貸の取り締まりとは関係なく、今まで合法だったものを違法にする条例です。

 元々マウイ島では多くのコンドが短期賃貸に使われていました。1989年、これを規制するため、1991年以降に建てられるコンドでの短期賃貸が禁止されることになりました。

 それ以前に建てられたものについてもどうするかが検討されましたが、2001年、郡の副法務顧問だった故リチャード・ミナトヤ氏が意見書を提出しました。コンド組合が短期賃貸を承認する場合、12か月連続して短期賃貸使用を停止しない限り、許可なしにバケレンとして引き続き使用することができるというものだったのです。

 これが2015年にマウイ郡の条例になったのですが、今回の条例案は、その対象となる物件の短期賃貸を禁止するというものです。この条例案が可決された場合、現在ミナトヤリストにある7,167ユニットのうち、西マウイにある約2,200戸が、2025年7月1日から短期賃貸としての運営ができなくなります。それ以外の地域は、2026年1月1日から禁止されます。

 この条例案はマウイ郡を構成する3島、マウイ、モロカイ、ラナイの各企画委員会に提示されなければなりません。委員会の推薦案は、その後統合され、議会の住宅土地利用委員会に提出されて、議会で投票します。マウイ企画委員会は、6月25日にこの条例案を議論し、公聴会を開く予定です。

可決されるとどうなるか

 マウイは、家の中央価格が100万ドルを超え、手頃な価格の長期賃貸住宅が以前から不足していました。とは言え、1年半に7,000以上の短期賃貸を削減すると、多くの影響が出ます。雇用喪失、固定資産税収入の減少、観光収入の減少、不動産市場の混乱、訴訟の可能性などです。ビッセン市長も「経済的な落ち込み」の可能性を認めています。

 2025年度(7月1日から翌年6月末まで)の短期賃貸からの推定固定資産税収入は2億4630万ドルです。マウイの短期賃貸物件の総不動産価値は、全体の25%ですが、固定資産税収入は全体の42%を占めています。短期賃貸物件は税率が高いからです。マウイ復興事務所の責任者であるジョサイア・ニシタ氏は、短期賃貸が別の税カテゴリーに変わることで、郡は約3000万ドルの税収を失うと推定しています。

 ミナトヤリストに載っている物件の所有者は、長期賃貸に転換するか、主たる居住地として住むか、別荘として利用するか、売却するか、あるいは訴訟を起こすことになります。ビッセン市長は元裁判官で、訴訟が起こることを予想しており、今までこのような法律ができなった理由は、それを恐れていたからだと述べています。火災があった今こそ、実行するチャンスだというのです。

 今がチャンスと考える理由はそれだけではありません。州の新法は、単に短期賃貸の規制権限を郡に与えただけではありません。この法律には、明示的に、郡が土地と建造物の使用の時間、場所、方法、および期間を制御できるという規定が、可決直前に追加されました。

 2022年、ホノルル郡が、短期賃貸が認められていない物件の賃貸を90日以上にする条例案を可決しました。短期賃貸許可がない物件でも、リース期間が最低30日でしたので、バケレンとして運用することができたのですが、それを90日にしてやめさせようとする条例だったのです。

 ところが裁判になり、裁判所は、市にリース期間を制御する権限はないという判決を出しました。市が敗訴し、元の30日に戻ってしまったのです。今回の州法は、それに真っ向から反対するもので、マウイの条例は、それを盾にとって、短期賃貸規制を合法化しようというものなのです。

 ホノルルのブランジアーディ市長も同意見のようです。「私が思うには、これで賃貸期間最低30日の縛りがなくなり、より多くの権限が与えられ、今できる限り積極的にコミュニティを回復することができます。」この発言を見ると、ホノルルでも同じような条例案が提出されるかもしれません。

 グリーン州知事もこの条例を支持しています。州議会で可決された法案は、通常7月に州知事が署名して正式に法律になりますが、この法案は、成立してすぐ、5月3日に署名しました。彼は、州に89,000の短期賃貸があり、75,000戸程度削減することを考えているようです。マウイ以外の郡も、この新州法を利用してほしいと述べています。

これで住宅難が解決するわけではない

 このハワイ新法やマウイ条例案賛成派の発言で、一つ引っかかったことがあります。それは、これらの法律が、望ましくないものを追い出すのに役立つという言い分です。尤もな意見かもしれませんが、住宅難の一つの理由は、まさにこれです。

 英語に、Not in my backyardという表現があり、直訳すると「私の裏庭はだめ」ですが、「好ましくないものを他所に設置するのはいいが自分の近所はいやだ」という意味です。頭文字をとってNIMBY(ニンビー)とも言われます。高額所得者でなくても賃貸や購入ができるアパートやコンドを建てようとすると、必ず地域の住民から反対され、実現しないことも多いのです。

 例えば、現在、マノアのセント・フランシス高校の跡地に102戸の団地とタウンハウスを建築するという案があります。いくつかの学校が購入を検討しましたが、修理代が高すぎて断念しました。

 そこで、地元の住宅開発業者が$2350万で購入し、比較的状態の良い校舎2棟をタウンハウスにし、他は解体してADU(付帯住居)付きの戸建てを建てる計画です。しかし、多くの住民が反対しているのです。前の道路が狭いので、交通量が増えるというのが最大の懸念ですが、少なくとも登下校時は以前より緩和されると思われます。

 最近、ニンビーではだめで、インビー(yes in my backyard)「私の裏庭にどうぞ」にならなければいけないという表現も使われるようになりました。しかし、ほとんどの住民の考え方は変わっていません。ゾーニングの撤廃や緩和に反対する人が多いのも、閑静な住宅街を所得が低くて騒々しいアパートやコンドの大勢の入居者から守りたい、という意図にほかなりません。

 最後にもう一つ英語レッスン。You can’t have your cake and eat it, tooという表現は、「ケーキを残しておき、かつ食べることはできない」という意味です。ケーキを食べるか、残しておくか、どちらかしかできない。つまり、矛盾する二つのことを同時に実現することは不可能なことを例える表現です。住宅難やホームレスの増加はどうにかして欲しいが、コンドや団地が近所にできるのは嫌だというはまさにそれで、これでは問題は解決しません。

 今回の条例は、一時的な住宅難しのぎにはなると思いますが、ハワイの住宅規制を緩和し、住民が開発を受け入れるようにならなければ、根本的な解決にはならないと思います。

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マウイ市長がバケレン7千戸削減条例案:他島も追随か?
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