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米国新コミッション制度:その抜け道

 今までのコミッション制度が独占禁止法に違反しているとして、NAR(全米不動産協会)が訴えられて示談にしたことについては、今までにもいくつかのブログを書きました。今まで書いたブログは、長期的観点から見たものでしたが、今日は、示談に沿って8月に制度が変わってどうなったのか、消費者の観点から解説します。このブログを読んでわからない点がございましたら、過去のブログも参考にしてください。

 

 米国では、売主が買主のエージェントにもコミッションを払うと言う商慣習がありました。そうしなければならないわけではなく、実際、払わないという仲介業者もありましたが、ほとんどの場合は、売主が払わなければ、仲介業者も引き受けてくれませんでした。そのため、高く払わないと買主のエージェントがその物件を買主に勧めてくれないという問題があったのです。

 つまり、同じ物件を同じ値段で売りに出しても、買主に払うコミッションが高いほど売れやすいのです。最近は、不動産ポータルがポピュラーになり、物件は買主が自分で見つけることが多くなりました。見つけた物件の内見をエージェントに頼んでも、コミッションが低いと、あることないこと言って、その物件を買わせないようにすることがあったのです。

 この制度のゆえに、コミッションが高止まりになっていました。新制度では、コミッションを払ってもいいが、それをMLS(マルチプル・リスティング・サービス:不動産ポータルサイト)で公表してはいけないということになったのです。

 つまり、買主のエージェントは、仲介をしても売主からコミッションを払ってもらえるかどうか、またいくら払ってもらえるのかわからなくなったのです。また、売主としても、コミッションを払うかどうかは、オファーの条件次第と言うことになります。満額で買ってくれるのなら払ってもいいが、そうでなければ払わない、と言うこともあるでしょう。

 そこで、買主のエージェントは、最初から買主と媒介契約して、コミッションを確約してもらわなければならなくなりました。そのため、物件の内見をする前から媒介契約書にサインしてもらうようになったのです。物件が見つかってからコミッションの交渉をした場合、買主は、コミッションが高いと言う理由で契約を拒否し、他のエージェントを雇うかもしれません。

 売主がコミッションを払ってくれる場合はどうなるのでしょうか。例えば、買主が自分のエージェントに2.5%払うと契約したとします。でも、売主が1%払ってくれるのであれば、エージェントは3.5%貰えるのでしょうか。媒介契約で2.5%と決まっていれば、それ以上貰うことはできません。契約を3.5%に改訂しようとするエージェントもいるようですが、それは合法なのでしょうか。

 契約には約因と言うものがあり、それは報酬の対価です。分かりやすく言うと、報酬を上げるためには、その理由がなければなりません。買主に何らかの益があれば、コミッションを上げることはできますが、なければ上げることはできないのです。この例の場合、エージェントは契約通り2.5%しかもらえませんので、売り主から1%、買主から1.5%貰うことになります。

 買主は、仮に2.5%の媒介契約をした場合でも、自分がコミッションを払いたくなければ、売主が2.5%払ってくれない物件は内見さえしないと言う人もいるでしょう。しかし、考えてみてください。売主が物件を100万ドルで売りに出しているとしても、100万ドルで買わなければならないわけではありません。実際いくらで買うかは交渉次第です。

 コミッションも交渉次第です。100万ドルで売りに出ている物件を97.5万ドルで売ってくれと交渉するのも、100万ドル買うけれど2.5万ドルのコミッションを払ってくれと交渉するのも、同じことです。家に定価はありませんので、コミッションを含めた全体的な価格で判断しなければなりません。ですので、売主がコミッションを払わない物件は見たくもないというのはどうかな、と思います。

 この制度ができたときに、新しい規則を破ることなく、売主が買主のエージェントにいくらコミッションを払うか公表する方法があることに気が付きました。実際にその例を見ましたので、共有させていただきます。これについては、NARでどのように対処するつもりなのか私も知りませんので、実行したいと思われる方は、ちゃんと自分のエージェントに相談してください。

 米国の不動産売買には、エスクローと言う制度が使われます。日本語では、第三者預託と言いますが、その一つの役割は、買主からお金を預かり、クロージング(売買契約完了時)に、売主、銀行、仲介業者などに支払いをしてくれます。

 米国では、オファーが受け入れられた時点で売買契約が成立し、まずこのエスクロー口座を開き、物件の点検をします。点検で何らかの不具合が見つかると、売主と交渉して修理してもらいます。しかし、売主が修理したくない、あるいは修理に時間がかかり過ぎる場合などに、修理代を払ってくれることがあります。と言っても、その時に払ってくれるのではなく、クロージングの時にその分差し引いてくれるのです。

 これをクレジットと呼びます。クレジットは、他のいろいろな状況で使えます。最近増えたのは、高くなったローンの金利を下げるための費用を売主が払う場合です。と言ってもピンとこないかもしれませんが、米国では、最初にまとまった金額を銀行に支払って、金利を下げてもらうことができます。しかし、多額の頭金を払った上にこの費用も払う余裕のない人が多いのです。

 そこで、マイホーム購入の初期費用を下げる手段として、銀行に支払う費用をクレジットとして出してくれる売主が増えてきたのです。これも、直接買主に払うのではなく、エスクロー勘定で精算して、その分、購入価格から差し引いてくれるのです。

 変だと思うかもしれませんが、クレジットは、何のために出すかを特定する必要はありません。もらったほうも、特定の理由のためにそれを使う義務はありません。単に初期費用を減らして、買いやすくしてあげるための手段としてオファーすることもできるのです。

 クレジットをオファーすることは公表できますので、2.5%のクレジットを払うと公表すれば、実質的に2.5%のコミッションを払いますと言うのと同じです。このクレジットで自分のエージェントにコミッションを払えばいいのです。そんな悪知恵を働かせていたところ、実際にMLSでそれを発見しました。みんな考えることは同じなんですね。

 何度も言いますが、これは奨励しているわけではありません。こんな抜け道があるが、どうなんだろうと思っていたところでしたので、共有した次第です。実行する方は、私に勧められたなんて言わないでくださいね。

米国新コミッション制度:その抜け道
元サイトで動画を視聴: YouTube.