AIによる住宅査定をAVM(Automated Valuation Model)と言いますが、米国最大の不動産ポータルであり、iBuyerとして仲介にも参入しているジローのAI査定は、ゼスティメート(見積と言う意味のエスティメートにジローのZをつけたもの)と呼ばれます。それ以外にも、多くの不動産ポータルサイトがAI査定をしていますが、今日は、インマンの複数の記事から、AI査定の正確性について解説します。
ジローの不動産サイトがアダルトサイトと大接戦米国の主な不動産ポータルサイトの特徴
まず、主なポータルの特徴をご紹介しましょう。まず、ゼスティメートは、最もよく使われているAI査定です。私の書いたブログの中でよく読まれているものの一つが、21年5月に出した「ジローの不動産サイトがアダルトサイトと大接戦」という記事ですが、既に16年には、グーグルで、ジローの検索数が、不動産(real estate)の検索数を超えていたほどの人気サイトです。このサイトの一つの特徴は、自宅を改装したばかりで、その情報がサイトに反映されてない場合、自分でデータを変えて、それに基づいた査定をしてもらうことができるという点です。
レッドフィンも大きな不動産ポータルですが、ジローとは比べ物になりません。レッドフィンも自宅に関するデータをアップデートすることができ、実際の価値との誤差は、売り出していない住宅は6.93%、出ているものは2.86%です。実際の価値との誤差は、後で詳しく説明しますが、売りに出す直前の査定額と、実際に売れた額とを比べたものだと思われます。
OJOラボが$6.25憶資金調達して、住宅検索サイトのモヴォトを買収
モヴォト(Movoto)は、まだそれほど有名ではありませんが、最近売れた物件の売買価格を参考にした査定と、現在売りに出ている物件の売出価格を参考にした査定を、分けて表示することができます。また、査定に使った類似物件を見て、自宅に類似していないと思われる物件を自分の判断で削除して、査定することもできます。
Realtor.comは、比較的有名なポータルですが、住宅ローンの金融業者に査定額を提供している3社、コラテラル・アナリティックス、コアロジック、クワンタリウムの査定額を表示しています。もちろん、これらの査定は参考にするだけで、鑑定に変わるものではありません。
実際エージェントはどのようにAI査定を使っているのか
エージェントは、売りに出されている類似物件や、鑑定士のように最近売れた物件を調べて、売主に売出価格を提案するのですが、これを比較市場分析(CMA)と言います。売主は、AI査定の方が高ければ、当然もっと高く設定するよう要求するわけですが、売主の言い分を反証する方法は、いくつかあります。
その一つは、前述したAI査定をいくつか調べて比較することです。ポータルによってかなりの差があれば、信頼できる査定ではないことがすぐにわかるでしょう。どのAI査定も、アルゴリズムを調整して改善されていますが、もっとも有名なゼスティメートは、2021年6月に改善されたばかりです。それによって、売りに出されてない物件の場合は、実際の価格との差の中央値が6.9%、売りに出ている物件に関しては、1.9%に下がりました。これは、前述したレッドフィンよりは少し良い数で、売りに出ている物件の場合、半分の物件が、ゼスティメートの査定の±1.9%以内で売れるということです。
だったらかなり正確だと思うかもしれませんが、これには理由があると思います。実際の売出価格を参考にしますので、売りに出ていない物件よりも正確になる一つの原因は、AIではなくて、売出価格を提案したエージェントなのです。また、売りに出た後のサイトのヒット数や成約までの日数なども計算に入れて、さらに正確になるというわけです。ちなみに、米国ではオファーが受け入れられた時が成約で、解約することもありますので、成約時点で成約価格を公表することはありません。
エージェントが提案する売出価格の正確性も、AIとそう変わりないと反論する人がいますが、エージェントが関与することによって、正確性が改善されていることは、ジローが物件を購入する際にエージェントが最終的に価格を決めることを見ても、明らかです。iBuyer(IT転売のビジネスモデル)であるジローは、ゼスティメートの査定をファースト・オファーと呼んで、この額であなたの家を購入しますと宣伝していますが、実際は、社員が実際に見に来て額を決めます。米国のオファーは、相手が承認すればその時点で成約したことになりますので、後で一方的に変更できるオファーなど、オファーではありません。
ジローのゼスティメートがファンタジーからリアリティーに?ゼスティメートの評価額で物件オーナーに購入オファー実際の価格査定比較
実例をあげましょう。これは今年の9月の記事にあったものですが、ある物件のポータル別の査定額は以下の通りです。
ジロー $1,155,800
レッドフィン $1,229,396
realtor.com $1,233,400
Homes.com $1,532,012
売主がゼスティメートを信じている?現実的な査定をするための四つのステップ
2年前に私の隣の家の実例をブログにも書きましたが、売りに出す直前の査定と直後の査定では、かなりの差があります。また、売りに出た後のヒット数や成約にかかる日数によって、将来の売値が売出価格より高いか低いかを推測して、調整するようになっているようです。
AIの不動産評価額は信頼できるか:実例で検証同じ記事に載っていた実例を一つ上げましょう。ある物件がゼスティメートで$1,434,031と査定されていましたが、$1,599,950で売りに出した途端、$1,691,056に上がりました。一週間後に売買契約が交わされ、ジローはその内容を知ることはできませんが、成約が早かったので、査定額は$1,806,823に上昇しました。結局売れて成約価格が$200万であったことが分かり、ゼスティメートは$2,080,800に跳ね上がったのです。
ちなみに、随分高く売れたと思うかもしれませんが、今は空前の売り手市場で、売出価格より$40万も高く売れるということは、あり得ないほど珍しいことではありません。私がオープンハウスで紹介した物件にも、売出価格より31万ドル高く売れた物件がありました。
ゼスティネートの正確性
ゼスティメートの正確性については、ジローのサイトに説明があり、ゼスティメートの査定が、実際に売れた価格の±20%以内である可能性が82.5%と書いてあります。5~6件に一つは、AI査定が2割以上外れているということなのです。
ゼスティメートはどれほど正確か?(ジローのサイト)
2016年のことですが、ゼスティメートの頼りなさを象徴するような「事件」がありました。ジローの当時のCEOだったスペンサー・ラスコフ氏の自宅が、$105万で売れたのですが、売れた翌日のゼスティメートは、売却額より67%も高い$175万だったのです。当時のジローは、今のように売却の情報がリアルタイムで入手できなかったのですが、問題はそんなことではありませんでした。
$105万で売れたラスコフ氏の自宅が、翌日のゼスティメートで$175万
アルゴリズムに何らかの問題があり、売れて2か月経っても、ゼスティメートは$161万までしか下がらなかったのです。ジローにはゼスティメートの査定の履歴がありますが、今ラスコフ氏の物件を見ても、当時のことは正確には分かりません。過去の査定をそのままグラフにするのではなく、修正しているからです。改ざんすることによって誤差を少なく見せようとしているわけではなく、現在手に入る情報に基づいて、過去の時点での査定をやり直し、査定の急降下をなだらかにしているようですが、詳しいことは分かりません。いずれにしろ、実際に$105万でしか売れなかった物件の査定が、2か月経っても$161万だというのは、理解に苦しみます。
それはともかく、この誤差の原因としては、ラスコフ氏の自宅の敷地が3角形であったことや、主幹道路に面していて交通量が多かったことなどが、アルゴリズムに正確に設定されていなかったことが可能性として挙げられていますが、AIは人間よりも推測する能力に欠けており、サンプル数が多くないと学べない、つまり人間的に言うと経験を積まなければ改善できないということでしょうか。もう一つの原因は、ラスコフ氏の自宅のような高級物件は査定が難しいということです。間取りや照明など、数値化するのが難しい要素が多く、庶民はなら我慢することでも、お金持ちはそうはいかないので、査定が難しいのでしょう。
AI査定は実務ではまだ参考価格にすぎない
AI査定についてもう一つ言えることは、鑑定士はこれを使ってないということです。鑑定士よりAIを信じるという人はいるかもしれませんし、実際に鑑定評価が間違っていると感じることは多々ありますが、仮にそうだとしても、銀行は鑑定に基づいてローンを出します。AI査定額で契約できたとしても、鑑定値がそれより低ければ、貸出限度額が下がり、その分買主が余分に頭金を払うか、売主が値段を下げるかしなければならず、どちらもできなければ解約になります。
私は、youtubeでハワイの物件を紹介していますが、たまにAI査定がいくらか説明に加えることがあります。ホノルルのMLS(ホノルル・ボード・オブ・リアルターズのポータル)で使われているAI査定は、コアロジックだったと記憶していますが、ほとんどの場合、売出価格の数千ドル下に設定されています。更新が遅いので、売りに出てすぐに見ると、売出価格に左右されない査定価格を見ることができます。
売出価格も、高すぎたり低すぎたりすることがありますので、AI査定と比較することはある程度参考になりますが、結局売れなかった物件の査定額も、売出価格に近いままになっているのは解せません。AIが、人間の付けた売値を信頼しているという皮肉な結果になっています。AIはこれからどんどん人間社会を変えていくと思いますが、全く同じ家が他に一つとなく、数年あるいは数十年に一度しか売買されない不動産査定への実用化は、まだ先のようです。
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