ロビンフッドは、株式取引を無料にすることによって、多くの個人投資家を獲得することができましたが、ジローのような不動産IT企業も、不動産取引の簡素化により、無料はもちろん無理ですが、薄利多売のビジネスモデルを確立することができるのでしょうか。
アメリカ不動産IT仲介業の2つのビジネスモデル
まず、不動産IT仲介業のビジネスモデルを簡単にご説明します。
自社サイトで集客し安いコミッションを実現
一つは、先週ご紹介したレッドフィンのように、自社の強力な物件サイトを利用して、多くの案件を得、自社のエージェントに流れ作業で売買取引をさせることによって、安いコミッションでも十分な収入を得ることができるというものです。
日本で普及しはじめた不動産エージェント制 アメリカでは逆に雇用制に?iBuyerの転売モデル
もう一つのモデルは、iBuyerと呼ばれるもので、売主から物件を購入して転売するものです。日本の仲介業者がやっているような転売を想像しないでください。それは、アメリカではフリッピングと呼ばれ、安く仕入れて改装して高く売るというものです。iBuyerは、修理はしますが、物件の価値を上げて儲けるのではなく、ボリュームを増やして儲けるのです。
その上にローン、権原保険、エスクローなどのサービスを付加して、消費者は手数料や手間を削減し、会社は収入源を増やすことができます。平均的アメリカ人は一生に6-7回自宅を買い換えますが、iBuyerが指定した日に自宅を買ってくれる、あるいは売却を保証してくれるので、売ってからでないと次が買えないというジレンマがなくなります。ジロー、オープンドア、オファーバッド、ノックなどがこのモデルです。
ノックのホーム・スワップサービスで買いと売りのコミッションをゲット:iBuyerの裏を突いた戦略ジロー(Zillow)が仲介業に参入するメリット
ジローは、長年、従来の不動産仲介会社やそのエージェントから、近い将来、仲介業に参入するのではないかと恐れられていました。iBuyerを始めたときも、仲介自体は契約した従来のフランチャイズに任せ、仲介業者の味方であるという姿勢を見せました。しかし、去年自社のエージェントを雇うことを発表し、今年、自ら仲介業者になったのです。
MLSとの契約が大きなコスト削減に
ジローが仲介業に参入することには、他にも大きなメリットがありました。今までは仲介業者ではなかったので、サイトに載せる物件リストは、他の仲介会社、フランチャイズ、MLS(マルチプル・リスティング・サービス)などと何千もの契約を結んで、物件情報を得ていたのです。しかし、仲介会社になることによって、全米の600ほどのMLSと契約をするだけで済むようになったのです。他のフランチャイズや仲介業者がMLSの情報を自社のホームページに載せることができるのと同様、ジローも、他社の解約を心配することなく、安定してサイトの運営ができるようになりました。
それがどうしたと思うかもしれませんが、何千もの契約を常に更新するのは大変な作業です。契約内容は、全てが同じわけではありません。もらえる情報も、情報源によって異なります。重複している情報も山ほどあります。全米各市場の、かなり内容やポリシーが統一されたMLSとの契約だけで済むということは、ジローにとっては多大なお金と労力の削減になるのです。
ジロー(Zillow)が仲介市場に参入したらどうなるのか
話を元に戻しますが、従来のフランチャイズが恐れているのは、ジローが転売の仲介だけでなく、レッドフィンのようにすべての仲介をやり始めたらどうなるかということではないでしょうか。他のiBuyerのオープンドアやオファーバッドはそれを既にしていますが、1億人の利用者がいると言われているジローのような有名なサイトはありません。ジロー同様、元々物件サイトであったレッドフィンも仲介に参入して成功していますので、ジローが参入するのは時間の問題だと感じるのは、私だけではないでしょう。
変化する不動産仲介市場
マクロ的に見ると、ジローやレッドフィンは、最初$150億の不動産仲介のマーケティング市場に参入したわけです。しかし、今は、$1,000億近い仲介市場自体に参入しようとしているわけです。
米国では、売主が売りの仲介業者と買い手の仲介業者の両方に手数料を払います。買い側のエージェントに払うコミッションを安くすると、エージェントが買主を連れてこないので、それを安くすることは困難です。したがって、薄利多売のIT仲介業者は、前述したエスクローなどの付加サービスをつけたり、売り手からのコミッションを割り引いたりしないと、お客は来ないわけですが、このモデルがある程度広がれば、買主のコミッションも下がり、従来の仲介モデルが崩壊する可能性もあるかもしれません。
iBuyerの問題点と将来性
ジローは、2019年にiBuyerとして1,500戸の住宅を購入し、そのうち800戸を売りましたが、2020年は、コロナの影響で大幅に縮小しました。まだまだ統計にも載らないくらいの数ですが、将来大幅に伸びる可能性はあるのでしょうか。ジロー株を空売りしているアナリストもいますが、ゲームストップ株を空売りしていたヘッジファンド・マネージャーの二の舞を踏むのでしょうか。
私の意見では、iBuyerがうまく行かないかもしれないと考えられる理由の一つは、現在は売り手市場でその必要があまりないということです。しかし、それでもこれだけ注目されているのですから、市場が均衡に戻ったら、あるいは買い手市場になったら、爆発的に広がるかもしれません。
AI査定はまだまだ信頼できないが・・・
もう一つの難点は、ジローとエスティメート(見積)をかけたゼスティメートと呼ばれる物件評価が、まだまだ信頼できないものであるということです。買い取り価格は、結局鑑定士頼りです。不動産評価は、まだAIでは難しいということだと思います。しかし、AIで正確に物件を評価できればそれに越したことはありませんが、それができなければこのモデルが成り立たないわけではありません。
最近、リマックスやKWのような従来の仲介フランチャイズが日本に上陸し、そのほかの有名フランチャイズも、市場拡大を狙っています。ジローなどの不動産IT企業も海外市場に参入するのでしょうか。彼らが上陸する前に自分でやろうとしている会社が、日本にはあるのでしょうか。
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参考
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